2023/05/02 16:21
2024年1月にスタートする「新NISA」は、収益非課税の投資枠が1人あたり1800万円に拡大されるが、残念ながら、投資できる金融商品に制限が課せられている。特に、非課税投資枠をフル活用が可能な「つみたて投資枠」で投資できる商品は、現在の「つみたてNISA」の商品に限定され、その数は、公募投資信託で227本(4月27日現在)という限られた商品だ。中でも、「指定インデックス投資信託」といわれる192本が、新NISAでも主に利用される投資信託になってくると考えられる。改めて、「指定インデックス投資信託」に採用されている投資信託について研究しておきたい。第2部は、国際株式インデックスファンドについて検証する。(3回シリーズの2)
◆先進国株式は「除く日本」がスタンダードは是か非か?
海外株式を対象とした株式インデックスで、つみたてNISA対象ファンドとして最も大きなグループは「先進国株式(除く日本)」を対象とした代表的なインデックスである「MSCI−KOKUSAI」に連動するインデックスファンドだ。19本が採用されている。このインデックスは、国内機関投資家の間で活用されることが多いが、それは、前提として「国内株式には既に投資している」という条件がある。つみたてNISAで積立投資をしている個人投資家は、日本株を保有してないという投資家も少なくないと考えられる。そのような投資家が、「先進国株式」に投資をするのであれば「MSCIワールド」という日本も含む先進国株式の指数を選んだ方が良いのではないだろうか?
「MSCI−KOKUSAI」は、2023年3月末時点では構成銘柄数1272銘柄で、国別資産配分は、米国72.47%、英国4.52%、フランス3.83%、カナダ3.55%、スイス3.05%となる。「MSCIワールド」だと、構成銘柄数は1509銘柄に増え、国別資産配分は、米国68%、日本6.17%、英国4.24%、フランス3.59%、カナダ3.33%という比率だ。日本を除く「MSCI−KOKUSAI」の方は、米国への集中がかなり強いように感じられる。確かに、1994年3月末以来約30年間のパフォーマンスを振り返ると、この間の米国株の上昇が寄与して「MSCI−KOKUSAI」のリターン(年率)は8.33%(米ドルベース)と、「MSCIワールド」の同7.22%を上回っている。ただ、これからの30年を考えた場合に、このようなパフォーマンスの違いが継続するとは限らない。2023年3月末時点の「MSCI−KOKUSAI」のPERは19.42倍、配当利回りは2.08%で、「MSCIワールド」のPER19.14倍、配当利回り2.11%よりも割高な水準にある。
「MSCI−KOKUSAI」に連動するインデックスファンドで、最も信託報酬率が低いのは、期間限定ながら信託報酬をゼロにしている「野村スリーゼロ先進国株式」だ。2020年3月16日の設定から約10年間の2030年12月31日までは、信託報酬率がゼロ%だ。2031年1月1日以降は、年0.11%以内の信託報酬率とするとしている。ただ、残高は約87億円と大きなファンドではない。信託報酬率の低さで、これに次ぐのが年0.9889%だ。そして、0.1023%が続いている。残高が最大のファンドは「<購入・換金手数料なし>ニッセイ外国株式インデックスファンド」で約4700億円になっている。2番目は「eMAXIS Slim 先進国株式インデックス」で約4331億円だ。「eMAXIS Slim」は、「業界最低水準の手数料率をめざす」として競合のファンドで低い手数料率のファンドが現れるたびに、信託報酬率を引き下げている。2023年5月にも引き下げを実施し、「たわらノーロード 先進国株式」と同水準の年0.09889%にした。
また、先進国株式インデックスでは、「FTSEディベロップド・オールキャップ・インデックス」に連動するファンド「SBI・先進国株式インデックス・ファンド」もある。このインデックスは、日本を含む先進国24カ国の5785銘柄に投資するインデックスで、「MSCIワールド」と比較すると韓国を投資対象に加えている点な度が違う。国別資産配分は米国65.93%、日本6.92%、英国4.49%、カナダ3.27%、フランス3.18%などとなっている。日本株も含めて先進国に投資しようと考える場合の選択肢になり得るだろう。信託報酬率は年0.1022%と比較的低い水準にある。
◆つみたて投資人気が集中した「S&P500」は低コスト化も進展
米国「S&P500」に連動するインデックスファンドは、ここ数年で最も人気を集めたファンドグループになった。その人気が集中したのが、つみたてNISA対象ファンドでもあり、信託報酬率が0.09372%と業界で最も低い水準にある「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」で、純資産残高は1兆9593億円に達した。同ファンドの過去5年のトータルリターンを振り返ると、2019年が30.51%、2020年が10.30%、2021年が44.52%と3年連続で2ケタのプラスリターンを記録し、2022年こそマイナス6.09%だったが、2023年1−3月にはプラス6.28%と22年のマイナス分を取り戻している。この強い成績が、市場の資金を引き寄せる力になった。
残高で第2位の「SBI・V・S&P500インデックス・ファンド」の残高も8529億円と巨大なファンドになり、資金が集まるだけに、運用会社も「S&P500」インデックスファンドを相次いで設定し、かつ、より低い信託報酬率を競った。このグループでは、6本のファンドの信託報酬率が年0.10%を下回っている。
「S&P500」は、ニューヨーク証取とNASDAQに上場する、時価総額82億ドル以上の大型株の約500銘柄で構成される指数だ。構成銘柄の上位には、アップル、マイクロソフト、アマゾン、アルファベット(グーグルを傘下に持つ持ち株会社)、テスラなど、米国を代表するハイテク企業が並ぶ。そして、米国に投資するインデックスファンドで「CRSP US Total Market」に連動するインデックスファンドが2銘柄ある。このインデックスは、大型株のみならず、中小型株も合わせて約4000銘柄を構成銘柄にしている。より幅広く分散された米国株のポートフォリオになっている。
◆次の本命「MSCI ACWI」連動型「全世界株」インデックス
これからの積立投資対象ファンドとして最も注目されているのが、「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)」に連動するインデックスファンドだ。つみたてNISAの対象ファンドとして12本がある。そして、2023年4月に信託報酬率が0.05775%という破格の低コストファンド「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」が登場した。これに次ぐ信託報酬率の低さが、残高のトップで信託報酬率が年0.1133%の「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」だ。残高は1兆159億円ある。「S&P500」と比較して過去5年間のパフォーマンスは弱いが、しっかりとしたパフォーマンスを残してきた。ただ、運用コストに着目すると、先進国株式インデックスファンドである「MSCI−KOKUSAI」や「S&P500」と比較すると、信託報酬率以外の費用がやや厚くなっている。これは、新興国株式の運用に関わるコストが比較的高く出るためだ。
「MSCI ACWI」は、2023年3月末時点で2888銘柄を構成銘柄とし、国別配分比率は、米国60.50%、日本5.49%、英国3.78%、中国3.57%、フランス3.2%となっている。「MSCIワールド」といった先進国株式インデックスと比較すると、米国への投資比率が一段と下がった。
また、全世界株式に投資するインデックスとして「FTSE Global all Cap Index」に連動をめざすインデックスファンドもつみたてNISAの対象になっている。このインデックスは、大型株、中小型株など9508銘柄で構成され、国別配分比率は米国が59.18%、日本が6.21%、英国4.03%、中国3.54%、フランス2.85%などとなっている。
◆新興国株はインデックスファンドもコストが割高
最後に、新興国株式を投資対象とした「MSCIエマージング・マーケッツ・インデックス」に連動するインデックスファンドが10本ある。この指数は、新興国24カ国の大型株1379銘柄で構成され、国別配分比率は、中国32.66%、台湾15.23%、インド12.97%、韓国11.92%、ブラジル4.87%になっている。信託報酬率が最も低いファンドは0.1859%だが、実際にかかった1万口当たり費用は0.36%などと信託報酬率以外の運用コストが他のグループと比較して高くなっている。また、最大規模のファンドは、「eMAXIS Slim 新興国株式インデックス」の1036億円になっている。それほど大きなファンドはない。
この他、新興国株式を対象とした指定インデックスに「FTSE Emerging Index」と「FTSE RAFI Emerging Index」もある。「FTSE Emerging Index」は新興国の大型株と中型株を構成銘柄にしたインデックスで、構成銘柄数は2018銘柄。国別配分比率は、中国35.96%、台湾16.68%、インド15.82%、ブラジル5.7%、サウジアラビア4.5%など。「FTSE RAFI Emerging Index」は、流動性や時価総額などで基準を満たした新興国の株式の中から、4つのファンダメンタル指標(株主資本、キャッシュフロー、売上、配当)に着目して構成銘柄を350に絞ったインデックス。国別配分比率は、中国40.71%、台湾15.98%、ブラジル13.69%、インド10.53%などとなっている。(図版は、国際株式型の主なインデックスの推移)(つづく)