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2023/05/11 19:18
米国と覇権争いをしている中国について、株価推移だけを比較すると、ここ10年程度では圧倒的に米国株が優位にある。たとえば、「MSCIチャイナ(配当込み、円ベース)」は2023年4月末時点で10年(年率)リターンが6.27%だが、米「S&P500(配当込み、円ベース)」は同15.72%になっている。中国株は結局、米国株には勝てないのだろうか? 日興アセットマネジメントが5月9日に「中国本土市場で上海科創板に資金が流入する理由」と題したレポートを出している。上海の科創板は「米中対立からある意味で恩恵を受ける」という。中国株に投資する視点として注目したい。 米国と中国の株価のパフォーマンスを、「S&P500」と「MSCIチャイナ」で比較すると、2023年3月末時点で直近1年間こそ、中国株(5.17%)のパフォーマンスは米国(4.67%)をやや上回るものの、過去3年(同0.97%対22.81%)、過去5年(同マイナス0.49%対15.74%)、いずれも米国株に中国株のパフォーマンスは遠く及ばない。この結果だけをみると、米中の覇権争いは米国の勝利で、中国は負けて魅力のない市場ということになってしまいかねない。加えて、「ウクライナ侵攻によって孤立するロシアに接近する中国」、また、「台湾を併合に動く中国」など、中国を避ける理由はいくつもある。ただ、「覇権争い」と称されるほどに、米国と中国が頭抜けた存在であるなら、リスク分散の観点では、どちらか一方に投資するのではなく、両方に投資した方が良い。どっちが覇権を握ろうが、勝者の利益を確保できるからだ。 しかし、米中対立のみならず、「世界の人口大国トップの座をインドに奪われた」、「一人っ子政策の影響で急速に高齢化が進む」などネガティブな要素が強く感じられる中国に、米国と同等に投資するのには抵抗がある。米中覇権争いで、万が一に中国が勝利した時に、その恩恵に一部でも浴したいという思惑で、「中国の中での選りすぐりに投資したい」というのが、多くの方々の思いに近いのではないだろうか。 そこで、日興アセットマネジメントが出したレポートを見ると、中国本土市場の主要株価指数の中で、上海の「科創板50指数」が2023年4月末までに昨年末(2022年12月末)比13%上昇と、他の指数を圧倒するパフォーマンスになっているという。同じ期間で上海総合指数の上昇率は約8%、深セン総合指数は約4%、深セン創業板(チャイネクスト)はマイナスになっている。かつて、成長期待が強いといわれてきた深セン市場が低迷し、上海が優位で、中でも、新興企業を対象とした「科創板」に資金が流入している。なぜなのか? 上海の「科創板」は、2019年に「イノベーションによる発展戦略」を目的に、上海市場に新たに設けられた市場だが、市場創設から4年で上場銘柄数は519銘柄(2023年4月末時点)になった。科創板の最大業種は半導体で、全体の約47%を占めている。昨今の半導体やソフトウエアを中心とするデジタルテーマの人気が「科創板50指数」を押し上げている。これと比較すると、深センの新興企業向けの市場である「創業板」は、バッテリー、太陽光モジュール、医療機器、医療サービスなどが上位を占め、過去半年程度の期間は、中国で新エネルギーやヘルスケアが不調だったため、創業板指数のパフォーマンスも悪化している。 また、上海の科創板は、「国の戦略に適合していて世界で勝負できる技術を持っていることを求められており、事業モデルが新しいだけの企業では上場が認められない。その上で、R&D費用や研究人員の比率も一定水準を満たすことなども求められる」という特長がある。「単に企業として成長力が高いだけではダメで、中国政府が戦略的に大事だと思う技術、次世代ITや新素材といった技術に基づくビジネスを行なう企業というように、かなり明確に限定されている」と分析している。その結果、深センの創業板がビジネスとして成功していれば評価することに対し、上海の科創板は、国が後押ししている企業という「政策色」が非常に強くなっている。米中対立が激化すればするほど「中国の自国技術強化の恩恵を受けるというプラスのストーリーに置き換わり易い」という見方を提示している。 現在、公募投信で上海の「科創板」に特化したファンドはない。ただ、中国のイノベーション(技術革新)にフォーカスしたファンドはあり、そのパフォーマンスは優れている。たとえば、「ダイワ/バリュー・パートナーズ・チャイナ・イノベーター・ファンド」は、中国国内の幅広いイノベーション関連企業に投資するファンドで、上海の科創板や深センの創業板に上場している企業も投資対象になっている。同ファンドの過去1年間のトータルリターンは4.23%、3年(年率)は10.92%で、いずれも「MSCIチャイナ」を大きく上回っている。 また、「深セン・イノベーション株式ファンド(1年決算型)」は、深セン上場企業および深セン創業板に上場している企業を主たる投資対象にしているが、上海の科創板に上場している企業も一部組み入れている(2023年3月末時点で5%程度)。このファンドのパフォーマンスは、過去1年は深セン市場の低迷の影響でマイナス3.36%だが、3年(年率)は7.74%、5年(年率)は7.13%と、こちらも「MSCIチャイナ」を上回る成績になっている。 現実問題として、米国と覇権を争っているといわれるほど、中国におけるイノベーション投資は活発に行われ、その中で成長している企業も生まれている。株価は企業の成長を評価して値上がりするという性格が強く、中国株の中でも「イノベーション」を切り口に銘柄を選定すれば、市場全般が低迷するような中にあっても高い収益を獲得できる期待が持てるというものだ。中国のイノベーションに焦点を当てたファンドに注目していきたい。(グラフは、中国のイノベーションに注目したファンドのパフォーマンス推移)
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