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2023/05/19 11:33
日本株が上昇している。5月19日には日経平均株価がバブル崩壊後の戻り高値である2021年9月の3万795円を超えた。年初来の日経平均株価の上昇率は17%を超え、米NASDAQの21%超には及ばないものの、S&P500の9.34%、独DAXの16%超などを凌駕している。この動きは、どこまで続くのだろうか? 米国と比較して出遅れているといわれてきた日本株式が出遅れ分を水準訂正する動きともいえるが、その背景には、東証が要請したPBR1倍割れ企業への改善策の要請、また、GPIFなどの大手機関投資家が実施するスチュワードシップ活動など、構造的な変革の潮流があるようにみえる。意外と息の長い上昇相場につながっていくのかもしれない。 主要な株価インデックスに連動するインデックスファンドのトータルリターンを「eMAXIS Slim」シリーズで振り返ってみると、4月末現在で過去1年では「国内株式(日経平均)」は9.76%となり、「先進国株式」の6.17%、「全世界株式(オール・カントリー)」の5.51%、「米国株式(S&P500)」の4.34%、そして、マイナスリターンとなった「新興国株式」(マイナス0.69%)と比較して、「国内株式(日経平均)」が最も高いリターンとなった。とはいえ、過去3年(年率)リターンでは、「米国株式(S&P500)」の22.45%を筆頭に、「先進国株式」、「全世界株式(オール・カントリー)」は20%を超えるリターンを記録しており、「国内株式(日経平均)」は14.58%と、12.07%の「新興国株式」と並んで出遅れ感が強い存在だった。 国内株式の見直しのきっかけの1つは、東京証券取引所が3月末に「PBR(株価純資産倍率)1倍割れ」の企業に対して改善策を開示・実行するよう要請(「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」)したことだろう。東証によると、「プライム市場の約半数、スタンダード市場の約6割の上場会社がROE8%未満、PBR1倍割れと、資本収益性や成長性といった観点で課題がある状況」であり、「企業が投資者をはじめとするステークホルダーの期待に応え、持続的な成長と中長期的な企業価値向上を実現するためには、資本コスト・資本収益性を十分に意識した経営資源の配分が重要」との考えに基づいて、PBR1倍割れの企業やROEの水準が低い企業に対して改善に向けた努力を促したもの。このような要請について、真摯に向き合わない企業は、2022年4月に実施した3つの市場区分において「プライム市場」に振り分けられた企業でも、「スタンダード市場」への降格などの措置も取られることになるだろう。 東証は3月末の要請にあたって、「株主との対話の推進と開示について」、「建設的な対話に資する『エクスプレイン』のポイント・事例について」も出している。株主との対話を通じて、企業経営をより良くするヒントを得てほしいという意図だと考えられるが、これに呼応するように、国内最大の投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が5月17日に「第8回 機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果」を公表している。GPIFのアンケートは今回が8年目であるが、毎回のように回答率は高まっているとはいえ、今回の回答率はTOPIX構成企業2162社を対象に実施し、回答率は34%(前回は32%)という水準だ。まだまだ企業側の問題意識は高くないといえるのかもしれない。GPIFは、資金の運用を委託している運用会社から、建設的な対話の申し入れがあったかどうか、そして、その対話は有益なものだったかどうかなど具体的に聞いている。第8回の結果だけ見ると、7回まで機関投資家との対話は好ましい変化をしているという回答が増加していたものの、8回目にしてやや後退した結果になった。 現実的には、投資家であるGPIFが国内上場企業に対して、より積極的な変化を求めるアクションを起こし、東証が同調して上場市場の質的向上に向けて具体的なアクションを起こしたというのが、これまでの流れといえる。米国のNYSE(ニューヨーク証券取引所)やNASDAQなどに比べ、市場PER(株価収益率)やPBRとういう指標で万年劣っているということは、もはや看過できなくなってきたということだろう。国を挙げて「貯蓄から投資へ」を謳い、政府が「資産倍増計画」を打ち出すに至って、その投資対象の主役であるべき国内の上場企業が、低成長・低収益率という状態では、国策に応えることができないからだ。東証やGPIFが行っている改革・改善の要請は、一時的なものではなく、GPIFが8年にわたって続けているように、時間をかけて、変革の果実が得られるまで続く運動ということができる。このような運動によって、企業体質が持続的な成長に耐え得るものに変わっていくものであれば、中長期的に株価を押し上げる要因になるだろう。 もっとも、中長期的な動きはともかく、目先の日本の株価の行方に決定的な方向性を与えるのは、企業業績になる。大手証券会社が今年3月時点でまとめた決算予想によれば、2022年度の決算見通しは2ケタ近い増益が見込まれるものの、2023年度は成長率が鈍化し横ばいになるというものだった。5月に新型コロナが5類に移行し、本格的な「脱コロナ」で個人消費等が上向いていることが伝えられているが、一方で、エネルギー価格の高騰などコストアップ要因を抱え、企業が収益を伸ばすことは厳しくなっている。この業績横ばい見通しが変わらない、もしくは、一段と厳しい見方になれば、株価の上伸は期待しづらいものになってしまう。反対に、米国が景気減速に落ち込まず、中国も脱コロナで景気が大きく上向くようなプラスサイドの追い風が吹き、企業業績が上向くことになれば、日本の株価はさらに上値が見込めるということになるだろう。この水準からの株価の見通しは、現状を見極める慎重な態度で臨みたい。(グラフは、「eMAXIS Slim」の主要インデックスファンドの推移)
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