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2023/05/24 18:09
5月24日にニュージーランド準備銀行(RBNZ)が政策金利を0.25%引き上げ5.5%としたが、利上げ後の声明でキャッシュレートのピークは5.5%とし、利上げサイクルの停止を示唆したことでNZドルが急落した。利上げ前は1NZドル=86.5円台だったものが、声明後には85.1円台に下落した。2022年3月以降に米国を始め主要国が利上げに転じ、1年以上にわたって続いてきた利上げサイクルが最終局面に入ってきたと考えられ、市場が政策当局の判断を受けて大きく反応するようになってきた。このような不安定な市場を前に、IFMインベスターズのインフラストラクチャー運用部門グローバルヘッドであるカイル・マンジーニ氏(写真)は5月23日にメディア向けのオンライン説明会を開催し、「インフラ資産クラスはインフレ率と金利の上昇、経済成長の鈍化、地政学・経済的な不確実性が続く中で、投資家にレジリエンスを提供する特性を備えている」と語った。急速に資産残高を積み増しているインフラ資産への投資資金の流れに注目したい。 機関投資家が外部に運用を委託するインフラへの資金配分は、2021年までの6年間で全世界で3000億米ドルから7000億米ドル(約96.6兆円)以上に増加した。世界最大級のインフラ投資家であるIFMインベスターズは、オーストラリアの複数の年金基金を株主とし、運用資産残高は2022年12月末現在で2110億豪ドル(約19兆円)に達している。うち、カイル・マンジーニ氏が運用を担当するグローバルポートフォリオは、残高が553億米ドル(約7.6兆円)になっている。 このようなインフラ資産への投資資金の流入についてマンジーニ氏は、「インフラ資産のレジリエンス(耐久力)の強さ」という。特に、近年の市場の不安定さの要因であるインフレ(物価上昇)については、インフレ条項などによってインフラ資産の価値を守る仕組みが取り入れられる傾向があり、また、インフレが地価上昇につながればインフラ資産の価値向上にもつながる。また、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)という経済危機にあっても、基本的な生活を支えるインフラは稼働し続けており、「空港設備や人々の移動に関わるインフラの一部に影響を受けたものの、多くのインフラ資産についてはパンデミックの最中にあっても価値を減じるようなことはなかった」と振り返っている。そして、コロナ・パンデミックの影響を受けた空港や移動関連インフラについても、「コロナ感染の落ち着きとともに急速に回復している」として、この回復力の強さもインフラ資産のレジリエンスを象徴していると語っていた。 そして、インフラ資産については、「ロシアのウクライナ侵攻などによって欧州で議論が活発になったエネルギー安保、また、近年になって世界的に大きな取り組みになっている気候変動への対応などによって再生可能エネルギー関連の資産に関心が急速に高まっている。先進国においては、再生可能エネルギー関連へのインフラ投資が最大の投資機会になっているといえる」と、新しい潮流も生まれてインフラ資産への投資は一段と拡大するという見通しを示した。IMFインベスターズでも過去1年間に、太陽光発電やバイオマス発電などの再生エネルギー関連のインフラへの新規投資を実施したと語った。 インフラ投資は、オーストラリアで発展し、現在はカナダの機関投資家の間で急速に浸透しているところだという。そして、世界的な関心も高まっているとした。日本の投資家は、現在IFMインベスターズでは35の機関投資家の資産を受託しているというが、投資経験を重ね、また、パフォーマンスについてのデータも揃ってきたことで、「これからインフラ投資への資産配分は拡大するタイミングにある」とした。IFMインベスターズは、日本に事務所を開設して9年が経過している。国内の機関投資家によるインフラ投資は、2013年にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が先鞭をつけて開始し、その後、同社の日本事務所にも問い合わせが増えたものの、実際に投資資金が入ってきたのは2019年だったという。その後、徐々に投資資金は増えてきたという。 インフラ投資は投資の最低金額が比較的大きいこと、また、日々購入・解約ができるような流動性がないことなどから、個人投資家が取り入れることは難しい資産といえる。電力・ガス、あるいは、通信会社などインフラを担う企業が上場し、インフラ関連株式ファンドやETF(上場投資信託)は存在するが、そのパフォーマンスとIFMインベスターズが提供するインフラ資産のパフォーマンスが必ずしも一致するわけではない。したがって、マンジーニ氏の示唆する再生可能エネルギー関連のインフラ投資を、個人投資家が運用に取り入れるということそのものを実行するのは難しい。ただ、マンジーニ氏が指摘したように、インフラ投資への資金流入が活発であるということは、世界の投資資金の中で、株式や債券という伝統的な資産についてはリスクヘッジが必要だという考えが強いということだろう。そして、投資資金は、常にリスク管理の高度化を求めて新しい投資資産の研究を怠らないということだ。 2018年1月の「つみたてNISA」スタート後に投資を始めた投資家は、超低金利の継続の下(債券投資への魅力が高まらない中)で2020年3月の「コロナ・ショック」という混乱を経験した。しかし、その波乱が一瞬で通り過ぎて、「DX(デジタル・トランスフォーメーション)」を材料とした成長株投資が盛り上がったために、「株式への集中投資こそが、資産形成のポイント」という思いを強くしている人が多いように感じられる。「つみたてNISA」は、株式インデックスファンドが投資商品のコアに位置付けられ、2024年1月に始まる「新NISA」も「つみたてNISA」の考え方を踏まえた制度になっている。しかし、将来的には様々な市場環境が想定される中で、「投資資金は株式だけで良い」という考え方は、あまりにも乱暴といえる。投資資産を分散する、また、投資タイミングを分散するという「分散投資」を常に意識し、投資の期待リターンの裏にあるリスクの存在を忘れてはならない。プロとして資産運用に取り組む機関投資家は、当然のようにリスク管理の高度化に努めていることに学びたい。
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