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2023/05/26 18:00
5月25日の米株式市場で半導体メーカーのエヌビディアの株価が24.37%高になった。前日発表した決算内容が市場予想を大幅に上回る内容だったためだ。エヌビディアの株高は、他の半導体関連銘柄の株価も押し上げている。2022年11月に発表された「チャットGPT」は、実用化されたAI(人工知能)の可能性を実感させ、瞬く間に利用者を拡大している。今回のエヌビディアの株価急伸は、これからのAI市場の急速な拡大を予感させる動きにも思える。2022年の急速な利上げによって失速したAI関連株は、業績の裏付けによって急速に株価が戻りつつある。AI関連企業に投資する「グローバルAIファンド」も復調してきた。この動きが継続するものかどうか注目される。 エヌビディアの決算発表で、市場の予想を超えたのは5−7月期の売上高が約110億ドルを予想し、四半期で過去最高を更新する見通しを示したこと。事前のアナリスト予想の平均は71.8億ドルであったことから、アナリストの予想をはるかに超える内容だった。このエヌビディアの決算と株価の反応を受けて、半導体メーカー等の株価も急伸した。アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)は11.16%高、台湾半導体(TSMC)は12%高、スイスのVATグループが10.8%高、オランダのASMインターナショナルが8.64%高、フランスのソイテックが7.74%高などとなった。 エヌビディアが得意とするグラフィックス処理ユニット(GPU)は高性能な並列処理能力を持ち、コンピューターグラフィックスや人工知能の学習など幅広く応用されている。「チャットGPT」の公開をきっかけに、様々な企業が「生成AI」(自動的に文章、画像、音声などのコンテンツを生成することができるAI)の実装や開発を表明した。中でも、公開から3カ月間で利用者数が1億2300万人に達したという「チャットGPT」は、その優れた言語生成能力のため、「安易なAI依存によって思考力が低下する恐れがある」、「大学の論文では使うべきではない」など使い方について社会的な議論が起きるほどに高い注目を集めた。エヌビディアCEOのジェンスン・フアン氏が「チャットGPTは、AIがiPhoneになった瞬間だ」と言っているように、今後、AIが日常的に不可欠な存在として利用されるようになることを予感させる。 「グローバルAIファンド」を設定・運用する三井住友DSアセットマネジメントは4月3日に臨時レポートを発行し、ファンドを実質的に運用するヴォヤ・インベストメント・マネジメントの見解も踏まえて「チャットGPTはAI市場の成長の起爆剤として期待される」とレポートしている。同レポートでは同ファンドの運用担当ファンドマネージャーであるヴォヤIMのセバスチャン・トーマス氏が、「生成AIの未来を予測することは難しいですが、ヘルスケアや金融、輸送など幅広いセクターで活用が想定されます。そしてAI市場の成長の起爆剤となり、人と共生しながら私たちの生活で重要な役割を果たすものとみています」というコメントを寄せている。このレポートが出た当日のファンドの基準価額は2万8789円だったが、5月25日には3万746円にまで上昇した。 「グローバルAIファンド」は2016年9月の設定から、ファンドの基準価額は順調に上昇し、2020年3月の「コロナ・ショック」で1万9000円台から1万2000円台に急落することはあったが、その後、2021年11月には4万円を超えるまでに上昇した。それが急反落したのは2022年で、同年の年間当落率はマイナス35.60%という大きな下落率になった。しかし、2023年に入ってから持ち直し、1−3月期の騰落率は14.92%となり、4月以降も一段と上昇している。 同ファンドのように特定のテーマにフォーカスしたファンドは、価格の変動率が大きくなりやすいという特徴がある。「グローバルAIファンド」の過去3年のパフォーマンスを主要なインデックスと比較すると、2020年から2021年には米国株「S&P500(配当込み、円ベース)」や先進国株「MSCIワールド(配当込み、円ベース)」、あるいは、全世界株「MSCI ACWI(オール・カントリー、配当込み、円ベース)」などと比較して圧倒的に大きな上昇率を示したものの、2022年の1年間で、その上昇率を吐き出して、過去3年間のトータルリターンでは「S&P500」、「MSCIワールド」、「MSCI ACWI」のいずれのインデックスにも負ける成績になってしまった。上昇する時の勢いが強いが、反対に、下落する時の勢いも強く、投資するタイミングによっては、大きなマイナスに耐えなければならなくなってしまう。 結果的に、「グローバルAIファンド」は、2023年4月末時点の5年トータルリターン(年率)で13.70%となり、「S&P500」の15.72%には及ばなかったものの、「MSCIワールド」の12.76%、「MSCI ACWI」の11.88%を上回る成績になった。これからは、どのように動くのだろうか? 同ファンドの4月末時点のマンスリー・レポートでは、ファンドマネージャーのコメントとして「私たちはAIの進歩と開発によってもたらされた大規模な破壊的変化のごく初期の段階にあると考えています。これらの変化は、それぞれの産業においてAIを活用することが出来る企業に大きな成長を促進し、ディスラプション(創造的破壊)を引き起こすと考えています。また、AIがもたらすディスラプションからの成長の複合的な効果は、より大きく長期的な株主価値の創造をもたらすとも考えています」と紹介している。 5月25日に見られたエヌビディアや半導体関連銘柄の株価の動きには、非常に大きな変化の予兆を感じさせるものがあった。AIという産業は、中長期に大きな成長が期待できる産業といえるだろう。底入れから出直り始めた「グローバルAIファンド」に注目していきたい。(図版は「グローバルAIファンド」と主要インデックスの推移)
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