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2023/05/30 17:27
6月13−14日に開催される米連邦公開市場委員会(FOMC)で、米国の利上げが継続されるかどうかが注目されている。5月のFOMCでは0.25%の利上げが決定され、5月24日に公表された議事要旨で利上げ打ち止めの可能性が示唆された。米国の金融政策は、米国市場のみならず世界市場に大きな影響を与える。利上げの継続か停止かという判断を巡って様々な意見が交錯している。5月29日にメディア向けのオンライン説明会を開催したナティクシス・インベストメント・マネージャーズのグローバル・マーケット戦略責任者のマブルック・シェトゥアン氏(写真:左)は、「6月に利上げを中断する可能性はあるが、利上げが打ち止めになるとは考えにくい」と語り、市場が過度に「年内利下げ」を期待して楽観的になる態度を諫めた。また、ルーミス・セイレス・インベストメンツ・アジアのシニア・ソブリン・アナリストであるボゥ・ジュアン氏(写真:右)は、「中国は出生率の低下など、長期的にディスインフレ、かつ、低成長の時代に向かっている」と中国市場の先行きに慎重な見方を示した。 シェトゥアン氏は、今後の世界経済の見通しとして「ソフトランディング(軟着陸:緩やかな景気後退)」、「ノーランディング(景気再加速)」、「ハードランディング(強行着陸、急激な景気悪化)」という3つの見方に分かれていることを示し、「『ノーランディング』ということはあり得ない。すでに米国では金融セクターの危機が懸念されるほど、2022年〜23年の利上げの影響が出ていることは明らか。最も可能性が高いのは『ソフトランディング』だ」という基本的なスタンスを示した。基本的に世界経済は、(1)世界的に貯蓄率が高く、経済成長を支える力になること、(2)労働市場が力強く人手不足が継続し、賃金が高止まりしていることで消費に好影響があることによって持続的な経済成長が見込まれるものの、(3)主要国の財政状況がタイトな状況にあることから、追加的な景気刺激策に強い期待は持てないとした。その上で、「ソフトランディング」の実現可能性については、「インフレと金融政策の行方による」と語った。 そして、「今後数カ月でコア・インフレが低下すると考えることはできない」とインフレの見通しを語った。労働市場がひっ迫し、賃金の上昇傾向が続いている間はインフレ傾向が強いことに加え、「価格決定力を持った企業は、インフレの環境の下では自社製品の値上げを実施する」という「マージンエフェクト(利ざや効果)」が働くと語った。その上で、金融当局の金融政策では「金利の引き下げに動くことは、最も考えにくい」とし、「FRBは6月は利上げを中断し、これまでの利上げによってコア・インフレ率を抑制する効果が出るかどうかを確認する期間を設けるだろう」と語った。また、コア・インフレ率の低下が確認できないようであれば、「7月、9月で利上げを再開することもあり得る」という見方だ。したがって、「市場の利下げへの期待が強くなり過ぎると、FRBの次のアクションが市場にネガティブなインパクトを与える可能性がある」として、FOMCに対する市場の反応に注意するように呼び掛けた。 一方、ルーミス・セイレスのジュアン氏は、低迷している中国市場の今後の見方について、「中国が昨年10−11月にコロナ禍からの経済再開に転じたことで経済成長への強い期待感が生まれたものの、実際に回復しているのはサービスと消費に限られる。従来の成長エンジンであったインフラ、建設、不動産などは依然として動きが鈍い。現在の状況が続いては、コロナ禍前の状態に戻ることは無理」と現状を分析する。しかし、同社が予想する2023年の中国のGDP成長率は5.5%と、中国政府のめざす5%超という水準よりも高い。したがって、「中国経済は政府目標を大きく超えるほど力強くはないものの成長路線にあるため、政府が財政支援などの景気刺激策に動く可能性は低い」とした。このため、中国が目立って活況になる期待は薄いということだろう。 その上で、中国においては、「チャイナ・プラス・ワン戦略」に代表されるような、中国の製造拠点を他の国に移す「リ・ロケーション」の動きが継続していると指摘する。「中国の拠点を閉じて、その後、アジアの他の国に拠点を移すため、アジア全体へのマイナスインパクトはない。中国がマイナスとなり、他のアジアの国にプラス要素となる」という。また、中国で出生率の低下が続いており、これが、将来の労働力の低下、所得の伸びの鈍化、貯蓄率の上昇につながり、中国経済の成長率を低下させる要因になると見通していた。 ナティクシス・インベストメント・マネージャーズは、20社以上のアクティブ運用会社の独立した専門知識をもとに200以上の投資戦略を提供している。世界最大級の資産運用会社の1つで、運用総資産額は2022年12月末現在で1兆1513億米ドル。革新的なESG(環境・社会・ガバナンス)戦略やサステナブル・ファイナンスの推進を目的とした商品など、資産クラス、スタイル、ビークルを問わず、多様なソリューションを提供している。 ルーミス・セイレスは、1926年設立の全米で最も長い歴史を持つ運用会社の一つ。債券をはじめとしたファンダメンタル調査に定評があり、アクティブ株式運用、債券、オルタナティブ運用を専門とし、世界中の機関投資家および投資信託顧客への投資ニーズに対応している。2023年3月31日時点の運用資産残高は3021億米ドル。本社はボストン。
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