2023/06/07 16:45
野村アセットマネジメントは5月28日、自社が運用するファンドについての自社の評価を国内の運用会社として初めて公表した。「ファンド・レビュー・レポート」は、ファンドの運用成績のみならず、商品性や情報提供に関する品質も含めた3つの評価軸を使って「お客様から見た総合的な価値を評価する」という視点で評価するという。この取り組みを「お客様本位の業務運営に必要不可欠と考えるプロダクト・ガバナンスを強化するため」と位置付けている。この「ファンド・レビュー」について、取り組みの狙いと今後の展望について野村アセットマネジメントに問い合わせたところ、プロダクト・マネジメント部長の佐伯進氏から回答を得た。
第1弾のレポートになった5月28日公表分では、日本株のアクティブファンド7本の評価を公表している。評価の軸は、「パフォーマンス(運用実績)」、「商品性」、「情報提供」の3つ。「パフォーマンス」は、コスト控除後のリターンとリスクに基づいて3年と5年の競合比較による評価を参考に総合的に評価する。「商品性」は長期資産形成の観点から、経費率(信託報酬を含む)が妥当等かを評価している。次のステップとして「お客様と商品との適合性等」についても評価対象に加える予定としている。そして、「情報提供」は、ユーザーが商品を検討する際に必要となる情報や投資期間中の開示情報が、分かりやすく記載されているか等について評価している。
評価結果は「R(Red、赤)」、「Y(Yellow、黄)」、「G(Green、緑)」の3段階で表示している。「R(赤)」は改善すべき点が認められる、「Y(黄)」は改善を検討すべき点が認められる、「G(緑)」が価値提供に向けた取り組みが認められるという結果を表し、信号機のように「G(緑)」が合格点といえ、「Y(黄)」は注意、{R(赤)」はダメ評価になる。そして、第1弾のレポートで評価した7ファンドの結果は、「R(赤)」が1本、「Y(黄)」が6本という結果だった。3つの評価軸について3つとも「G(緑)」に評価されたのは、「ノムラ・ザ・セレクト(野村SMA・EW向け)」の1本だけだった。
また、「パフォーマンス」と「商品性」で「R(赤)」に評価された「ノムラ日本株戦略ファンド」については、レポートにおいて「長期間にわたりパフォーマンス改善に取り組んで参りましたが、十分な成果が出ていませんでした。改めて運用プロセスについて分析した結果、取っているリスク水準が低位であったため、付加価値の出ている銘柄選択の貢献度が不十分でした。対応策として、2023年2月末までに保有する銘柄数を大幅に絞り込み、積極的にリターンを追求しています。また、3つの投資スタイルへの配分比率を決める定量モデルの改良に継続的に取り組んでいます」と改善に向けた取り組みについて、具体的な取り組み内容を説明している。「情報開示」について「Y(黄)」と評価されたのは、運用成績の評価においてより適切と考えられる「配当込み指数」を比較対象にしていなかった点をあげている。そして、今後は配当込み指数を比較対象とすべく対応を進めるとしている。
業界に先駆けた意欲的な取り組みをスタートしたものの、その最初のレポートの結果は、同社にとってもろ手を挙げて喜べるような結果にはならなかった。自社のアピールに直接つながらないようなレポートを公表した狙いについて聞くと、「野村アセットマネジメントでは、従前よりお客様の利益に資する商品提供を行うためにファンドの運用プロセスや商品性、情報開示などの改善を強化しております。そして、その取り組み内容を、お客様にお伝えしてご理解いただくことが、お客様本位の業務運営の徹底に資するものであると考え、この度ファンド・レビューの公表を開始しました」(佐伯氏)としている。
そして、最初の評価公表ファンドとして日本株アクティブファンドを取り上げた理由について、「日本株アクティブ運用プロダクトは当社の代表的なプロダクトであり、中でも投資対象が比較的幅広い一般型のファンドは競合プロダクトも多いため、まずはそうしたファンドから評価を行い、お客様への開示を行うことが適切であると判断した結果です。また、同種のファンドがある場合には、原則として信託報酬の高いファンドを取り上げました。取り上げるファンドの順序に特段の理由はありません。他のファンドも順次評価を実施し、開示して参ります。過去の評価の検索機能等、お客様にとっての使い勝手の向上なども今後検討してまいります」(佐伯氏)という回答だった。
野村アセットでは、この評価について現状を評価するだけでないという。「『ファンド・レビュー』は継続的な取り組みであり、ファンドの組成、勧誘、運用、開示の各段階でレビューを行い、それぞれについてお客様目線での改善に努めるものです。現在の課題、取り組みをお客様にも開示しながらプロダクトガバナンスに取り組むことで、お客様への価値提供への意識を高く持ち続けることを企図しています」(佐伯氏)と、この取り組みを継続することによって、全社的な商品品質への感度を高め、結果的に競争力のある商品を生み出す力を向上させることを狙っているようだ。
野村アセットが運用する公募投信はETFとMRFを除くと約700本。このうち、運用期間が3年以上で、一定水準以上の運用資産残高があるファンドは全て評価の対象になる。今後は、順次、ファンドの評価結果をレポートとして公表していく予定だ。
ファンド評価は、米モーニングスター社のように外部の第三者機関が客観的なデータに基づいて定量評価し、また、取材等を通じて得た情報に基づいて定性評価を行って公表してきた。一方で、運用会社は、ファンドマネージャーの業績評価のためなどに独自に自社ファンドの運用成績については精緻な評価・分析(考査)を行ってきている。運用会社が行う考査は、その過程で問題が発見された場合には運用改善策の策定、実施といった取り組みを実施し、ファンドの運用品質の維持・向上に役立てることが目的であり、今回のように公表することは意識されていなかった。「ファンド・レビュー」の評価では、モーニングスターのレーティングや野村総合研究所のFundmarkレーティングなどを参考に、従来の考査におけるファンド評価での経験も活かして総合的な評価を行っている。
この野村アセットの「ファンド・レビュー」の評価は、投資家がファンドを購入する際の参考情報になる。特に、重要なのは、「R(赤)」や「Y(黄)」など、取り組みが不十分と評価されたファンドについて、同社がどのような改善策を実施しているかということについて具体的な情報を知ることができる点だ。運用成績が振るわないにもかかわらず、何ら積極的な改善策を実施していないファンドは、継続的に投資することが難しいといわざるを得ない。今後、「新NISA」が始まり、長期の資産形成が強く意識されるようになればなるほど、「このファンドは長期に保有することが相応しいファンドなのか」という判断が重要になる。少なくとも、「ファンド・レビュー」で取り上げられた7本は、継続的な改善策が実施し続けられていることが確認できる。今後の「ファンド・レビュー・レポート」によって、野村アセットの取り組み内容については理解が進むだろう。このような取り組みが他の運用会社にも広がっていくのか注目していきたい。(図版は、「ファンド・レビュー」の評価結果一覧、野村アセットマネジメントの発表資料より)