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2023/06/09 17:21
「新NISA」のスタートを2024年1月に控え、投信業界をはじめとした資産運用に関わる関係先で「長期投資の普及・促進」に関する取り組みが加速している。投資収益が非課税となる「NISA(少額投資非課税制度)」が恒久化され、かつ、非課税枠も1人当たり1800万円にまで広がる「新NISA」をスムーズに離陸させるためには、長期投資を支えるにふさわしい商品の提供が重要との認識が強い。その長期投資に資する商品に関するキーワートの1つとして注目されているのが、「ESG(環境・社会・ガバナンス)投資」であり、「サステナブル投資」だ。フィデリティ投信が6月5日の世界環境デーを前に発表したESGやサステナブル投資についての調査結果では、「サステナブル投資の認知度が男女ともはじめて過半数を超え、女性では昨年比で約2倍となり、急速な関心の高まりがみられた」という。新NISAに向けた商品開発の1つとしてサステナブル投資が有力視される。 フィデリティ投信の調査は、18歳〜69歳までの男女約2000人を対象に実施し、今年で3回目になっている。今回の調査期間は、2022年12月22日〜2023年1月10日で、、インターネットを使って実施。同様の調査を、フィデリティ・インターナショナルが拠点を持つ中国本土、香港、台湾、シンガポール、オーストラリアで計1万2575人(日本を含む)にも実施した。「サステナブル投資」の認知度は加速度的に高まっており、今回の調査では、過半数の人が「知っている・聞いたことがある」と回答した。また、「サステナブル投資は世界に良い変化をもたらすのに最も有望な方法」と考える人が40歳未満で約35%に達し、全体では男性(26%)よりも女性(29%)の方がそのように考える割合が多いことが分かった。 また、「改善したい社会課題」については、前回に続き、「気候変動」と「持続可能な生活/消費活動/行動」への関心が高くなっているが、「Z世代(1990年後半〜2012年頃に生まれた世代)」といわれるデジタルネイティブの30歳以下では「労働問題(児童/強制/奴隷労働)」を挙げる人が最も多くなった。サステナブル投資についての関心が他の世代よりも高い30歳以下の若年層が、環境問題よりも児童労働や強制労働の問題を挙げる人が多い結果となったのは、サステナブル投資への意識の高まりの反映とみることもできるだろう。また、「気候変動」と「持続可能な生活/消費活動/行動」、「D&I」の3つについては、女性が男性を上回る結果になった。 ただ、「サステナブルやESG関連の金融商品に投資している(したことがある)」人はまだ少ない。それでも、40歳未満の2割以上が「来年投資することを検討している」という結果になり、若年層を中心に徐々に投資行動にも広がりつつあることが分かった。 調査結果に関し、フィデリティ投信のヘッド・オブ・エンゲージメント兼ポートフォリオ・マネージャーの井川智洋氏は、「世の中に良い影響を及ぼす手段として、サステナブル投資への期待が高まっており、若年層を中心に実際の投資行動にも変化の兆しが見えてきたことが今回の調査で分かりました。一方で、サステナブル投資を行うのは環境や社会への貢献のためで、企業による環境・社会課題解決に向けての取り組みが投資リターンにつながることを期待する人はまだ少ないことも結果から読み取れます。当社では対話(エンゲージメント)などを通じて、投資先企業の行動変化を促すことで企業価値向上に貢献し、中長期的なリターンの向上につながるよう取り組んでいます」とコメントしている。 「Z世代」の関心が強いといわれる環境問題については、世界的に「カーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量を均衡させること)」へ向けた取り組みが本格化し、大きな国際会合も繰り返し開催されている。環境保全についての推進役と期待されることもあった「Z世代」が「労働問題(児童/強制/奴隷労働)」にも強い関心を持つようになったことは、「ESG」の「E」から「S」へのシフトともいえるが、決して、環境問題への関心を失くしてしまった訳ではないと考えられるため、「関心の広がり」と捉えた方が正しいのだろう。「ESG投資」、または、「サステナブル投資」が、大きな流れとして定着しつつある動きと考えることもできる。 「ESG投資」や「サステナブル投資」については、「グリーン・ウォッシング問題(環境保全に役立つとアピールしながら、実際には効果が不明瞭で、『まがいもの』といわれる投資商品の横行)」があって、一旦は下火になっているのが現状だ。ただ、フィデリティの井川氏も指摘するとおり、「サステナブル投資」は、運用会社のエンゲージメント(建設的な対話)によって企業の変革を促し、長期的に大きな変化をもたらす投資といえる。長期投資の対象商品としては有力な選択肢だ。まして、この調査結果にあるように、投資家の関心も年々高まっているのであれば、運用会社の商品開発にも熱が入ってくるといえる。「サステナブル投資」関連の商品に期待したい。(グラフは、「サステナブル投資」に関する認知度の変化。出所:フィデリティ投信の調査資料)
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