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2023/06/12 20:12
社会保障審議会の企業年金・個人年金部会が6月12日に開催された。前回に引き続き、関係団体から制度改正に関する要望をヒアリングした。4月12日に始まった制度改正議論は、まずは有識者からの意見聴取として、関西大学政策創造学部教授の石田成則氏、帝京大学経済学部教授の上田憲一郎氏の意見を紹介し、5月17日には関係団体として企業年金連合会、企業年金連絡協議会、国民年金基金連合会の意見聴取があった。今回は、全国銀行協会、日本損害保険協会、日本証券業協会・投資信託協会・全国証券取引所協議会からの意見を聴取した。政府が進める「資産所得倍増プラン」において、「新NISA」に並ぶ第2の柱と位置付けられる「DC・iDeCo」の改正に関する議論だけに、広く関係各所から意見を求めている。 全国銀行協会は、「私的年金制度の主な課題と要望について」として、企業年金・個人年金部会での議論の方向性を踏まえて、重要な要望として5つの点をあげた。「拠出限度額の撤廃、または、引上げ」「加入者の属性により異なる拠出限度額の簡素化」「企業型DCの拠出限度額外でのiDeCo拠出の認容」「退職年金等積立金に対する特別法人税の撤廃」「指定運用方法の設定義務化」の5点だ。この重要5項目に対して委員から多くの意見が出たのは「指定運用方法の設定義務化」という点で、現状は、確定拠出年金法によって投資教育を行った上で、加入者が自ら運用方法を指定するという枠組みになっているものを「指定運用方法」によって制度側が運用方法を決めてしまうことには問題があるのではないかという指摘だった。むしろ、投資教育の拡充など、現在の法の枠組みの中で努力すべきではないかという意見が複数出た。 これに対し、全銀協は、2020年3月現在で企業型DC加入者782万人のうち、未指図者が11万人存在していることをあげ、「全体の1.5%とはいえ、一定水準の未指図者が存在し続けるところは何らかの手当てが必要なのではないか」と指摘した。そして、現在、企業型DCで4割弱が指定運用方法を採用しているものの、うち7割弱が元本確保型を指定運用方法として採用していることをあげ、「長期的な年金運用の観点から、分散投資効果が見込まれるバランス型投資信託などの商品の設定が有効」として、既存の指定運用方法の指定の仕方にも改善が必要とした。金融庁が「基礎から学べる金融ガイド」で示している「積立・分散投資の効果」の資料を基に、過去20年間を(1)定期預金で運用したリターン実績は0.97%(年平均0.05%)、(2)国内の株・債券に半分ずつ投資した場合は同38.57%(年平均1.64%)、(3)国内・先進国・新興国の株・債券に6分の1ずつ投資した場合は同66.63%(年平均2.59%)となり、この間の物価上昇率の年平均0.14%と比較して定期預金では物価上昇に負けている実績を示した上で、リスク資産への投資の重要性を強調していた。 日本損害保険協会は、「掛金に関する制度改正(企業型DCのマッチング拠出における加入者掛金の限度額を企業拠出額が上限という規制の撤廃)」「デジタル社会への対応(iDeCo諸手続きの簡素化と変更手続きの電磁的手続きへの移行)」「制度の利便性向上(住所不明者の住所情報提供ルールの改定)」「規制緩和による制度普及(中小企業退職金共済制度から、DCやDBなど他の企業年金制度への移行条件の緩和)」という4つの検討要望事項を出した。これらの要望について、委員からは、「マッチング拠出について従業員の掛金が事業主の掛金を上回らないように定められていることによって、企業側の制度充実への努力を促す効果もある。従業員自らがマッチング拠出で企業以上の拠出をすることが当たり前になると、企業側の努力が弱くなるのではないか」という意見があった。これに対しては、「現在の雇用環境から、企業が社員の福利厚生の内容を劣化させるようなことはないのではないか」という意見も出された。 日本証券業協会は投資信託協会、全国証券取引所協議会との共同で「証券業界・資産運用業界としての考え方」をまとめ、「退職準備世代に対して追加の拠出枠(キャッチアップ拠出)を設けること」「生涯拠出枠と自由度の高い年間拠出限度額の導入」「iDeCoの各種手続き簡素化・迅速化、マイナンバー活用も含め事務手続き効率化」「DCへの自動加入・オプロアウトの仕組みの検討」「指定運用方法の実績にもとづく検証と見直し」の5項目を特に重要な要望として取り上げた。この要請については、「キャッチアップ拠出」や「生涯拠出枠」というアイデアについて委員から関心が寄せられたが、新NISAの非課税限度額1800万円の管理についても具体的な管理方法の策定は検討中であり、私的年金の拠出枠の管理もこれからの課題という回答だった。また、「自動加入とオプトアウト」について、英国とオーストラリアの実施事例を紹介し、全ての企業が年金制度を導入するとともに、加入しないことを選択(オプトアウト)の仕組みを導入していることによって年金加入率が大幅に向上した実績が示された。ただし、英国やオーストラリアと日本の年金制度は大きく異なり、日本は日本の制度に合った仕組みを構築する必要があると説明していた。 全体の議論を通じて、「指定運用方法の導入義務化」や「全企業に年金制度導入の自動化」などという議論は、公的年金である厚生年金との役割分担をどのように行うかという議論と一体でないと着地点を見つけることが難しいという意見が出された。部会長の森戸英幸氏(慶應義塾大学大学院法務研究科教授)も「同じ企業の福利厚生制度であってもDCと中退共では期待されている制度の役割が異なるように、私的年金を一括りにして議論することは難しい。それぞれの制度の役割や性格を明確に理解・区分した上で、全体像を整理して議論を深める必要がある。マッチング拠出や指定運用方法の導入についても、国として企業の責任において老後の備えを拡充させたいのか、自助努力を国民に強く勧めたいのか、制度全体の枠組みによって国が国民に対して何を求めているのかというメッセージが国策と齟齬がないようにしていかなければならない」とまとめていた。(イメージ写真提供:123RF)
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