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2023/06/14 17:45
中長期での資産形成を考えた投資対象を選ぶ時、株式を対象としたファンドから選ぶのであれば、やはり、その企業が主たる事業フィールドにしている産業の将来性を確認したい。たとえば、今、大きな盛り上がりを見せている「AI(人工知能)」は、足元は生成AIの機能を一般にわかりやすく公開した「ChatGPT」の世界的な広がりによって一気に注目を高めたが、自動運転やドローンの発展などによってAI産業の成長期待は数年前から話題になってきた。同様にバイオやヘルスケアという分野は、新型コロナ・パンデミックを引き合いに出すまでもなく、世界人口の高齢化とともに、今後大きな成長が期待される分野だ。そして、ヘルスケアの分野で従来は注目度が低かったアジアが、今後の成長エリアとしてクローズアップされてきている。先行する米欧などの先進国と比較して依然として評価の低い「アジアのヘルスケア」に注目したい。 アジアのヘルスケア関連株式に投資する「アジア・ヘルスケア株式ファンド」の過去のパフォーマンスを振り返ると、5月末現在で、過去1年のトータルリターンが6.07%、過去3年(年率)が5.36%という水準だ。年率5%を超えるリターンを獲得できているので、それほど悪い成績とは言えないが、同期間に「全世界株式(MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス配当込み、円ベース)」が、1年で10.85%、3年(年率)で21.08%という成績であるため、見劣りしてしまう。また、グローバルでヘルスケア関連株式に投資する「グローバル・ヘルスケア&バイオ・オープンBコース」は、1年で6.53%、3年(年率)で10.83%であるため、ヘルスケア関連に投資するのであれば、特にアジアに限定することなく、グローバルに投資先を選んだ方が、良い運用成績を残せたということができる。 ただ、これからを展望すると、アジアのヘルスケア市場には大きな可能性があるといえそうだ。たとえば、日興アセットマネジメントが今年4月21日に発行したレポート「Asia’s healthcare opportunities」(翻訳版『アジアのヘルスケア分野の投資機会』が6月13日に公開)によると、「アジアのヘルスケア業界は、過去10年間におよぶ投資が実を結び始めている状況にある」という。これは、2000年代のテクノロジー業界と同様の状況にあるというのだ。 レポートによると、1990年代まで、医薬品製造に用いられる活性化学物質(医薬品原薬<API>)は、90%が欧米と日本で製造されていた。しかし、アジア各国は10年間にわたって医薬品産業へ投資し続け、むらのない高品質のAPIを製造する能力がたかまり、2020年には世界のAPIの60%以上をアジアで製造するまでになった。たとえば、中国は一部の主要API製造において大部分のシェアを占めるようになっている。さらに、ジェネリック医薬品の拡大によって、より多くの医薬品がアジアで製造されるようになった。たとえば、インドは世界最大のジェネリック医薬品輸出国であり、米国で消費される医薬品の3分の1、英国の4分の1はインドの製薬会社によって作られた医薬品だ。2021年にインドのモディ首相は、「インドは世界の薬局になった」と宣言した。 加えて、世界の医薬品支出の大部分を占めるバイオ医薬品の分野でも、先発バイオ医薬品と同様の有効性を示すことに成功したバイオ医薬品である「バイオシミラー(バイオ後続品)」が台頭してきた。一部のバイオ医薬品における特許保護の失効で、2015年以降アジアの複数のバイオシミラー企業が生産を認められ、先発バイオ医薬品と競争できるようになってきた。バイオの分野のジェネリック医薬品といえる。 このように、アジアのヘルスケア市場は、先端の技術というよりも、実用的なジェネリック医薬品やバイオシミラーによって、急速な立ち上がりが期待できるようになっている。アジアは、世界人口の60%を占めるほど人口が多く、また、世界のがん患者数の半分を占めるほどに、疾患の人数も多い。また、中国やインドネシア、タイを含むアジアの主要新興国において国民皆医療保険制度が導入され、所得水準の向上に合わせてより良い医療サービスへのニーズが高まっている。これは、アジア国内においても新しいイノベーションを生み出すきっかけにもなる。 コロナ・パンデミックにおいても、アジア各国は日本や中国と比較して、各国の感染対策で大きな混乱をみせるようなことはなかった。各国それぞれに医療体制が充実してきていることを感じさせる。そして、今後を展望すると、アジアにおけるヘルスケア産業の発展は、製造拠点としての発展とともに、域内産業としての成長も大いに期待できるといえるだろう。しかも、現在のところ、アジアのヘルスケア産業について株価の評価は、決して高いものではない。中長期の投資対象として検討の余地があるのではないだろうか。(グラフは、「アジア・ヘルスケア株式ファンド」の過去3年間のパフォーマンス推移)
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