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2023/06/16 18:45
米連邦準備制度理事会(FRB)は2022年3月以来、10会合連続で利上げを続けてきたが、6月14日までのFOMCで利上げの見送りを決定した。ただ、年内の再利上げの可能性を示唆した。翌15日までに欧州中央銀行(ECB)が0.25%の利上げを決定し、次回7月の会合でも利上げを継続する方針を明言した。そして、16日までの日本銀行の政策決定会合では大規模な金融緩和政策の維持が決定された。この結果、米国の政策金利は年5.00〜5.25%、欧州は4.0%となり、ゼロ%金利を貫く日本との違いが一段と鮮明になった。米国が利上げを一旦停止したように、金融引締めで先行した米国の政策が曲がり角にきているようだ。今後の金利の見通しは、世界の株式市場や為替相場に大きな影響を与える。6月15日にレポートを発信したPIMCO(ピムコ)は、「米国は7月の追加利上げを予想するが、それ以降の利上げは懐疑的」としている。 米国が利上げの停止を行ったのは、過去1年あまりで累計5%も引き上げた金融引締めの効果を見極めるためとしている。FRBのパウエル議長は、利上げの一時休止期間は短い可能性を示唆した。この議長の発言に対してPIMCOは、「FRBは、条件が許す限り1回の会合ごとに利上げするか見送るかを選択できるよう、選択肢を残そうとしている」と解釈している。そして、「FRBは引き続き、インフレ抑制策をやり過ぎるリスクより、やらな過ぎるリスクのほうが大きいと考えている」と分析する。また、パウエル議長は、今後2回に1回の間隔で利上げを実施する可能性をほのめかしたものの、「年後半にマクロ経済が軟化するとのPIMCOの予測を踏まえると、FRBの最新の予測に含まれるすべての利上げ(少なくとも2回の追加利上げ)の実施については懐疑的」と見通している。 FRBの金利据え置きの決定については、事前に予測されたことだったが、FOMC参加者の金利予測分布図については、2023年の予想金利の中央値が5.6%と現状よりも0.5%高い水準に引き上げられたことが市場の関心になった。参加者18名中12名が、年内に少なくとも0.5%の追加利上げを予想している。それほど、足元の経済が力強いとみていることの反映といえる。これに対し、PIMCOは、「米経済は引き続き二極化している。インフレ指標は労働市場と同様、底堅く推移しているが、他方で、給与の伸びは鈍化を続け、企業は労働時間を短縮している。また、賃貸料の上昇率など、極めて粘着性の高かったインフレ・セクターもついにピークを迎えたようにみえる」と、経済のマクロリスクが高まっていると分析している。そのため、PIMCOは7月にあと一回追加利上げを実施し、それが今回の利上げサイクルのピークになる可能性が高いという見通しだ。それだけに、「経済指標の実績値が予想以上に強く、FRBに利上げ継続圧力がかかった場合、大幅な景気減速の可能性が高まる」と警戒している。 一方、ECBは、インフレ率が減速している点を認めつつ、2%の物価目標の達成には利上げの継続が必要との立場を崩していない。ラガルド総裁は、「利上げを一時停止するべきか、もしくは。利上げを見送るかという点については、まったく議論しなかった。やるべきことはまだあり、利上げ停止を検討し始めてもいない」という立場だ。そして、政策金利の最終到達点を示す「ターミナルレート」については、「コメントするつもりはない。ターミナルレートは、そこにたどり着いて初めて判明するものだ。金融政策を動かしているのは、最終的にインフレ率2%の達成だ」と語った。 これに対し、日銀の植田総裁は16日の政策決定後の会見で、日本の物価指標は2022年4月以来、2023年4月まで13カ月連続で2%を上回り、22年8月以降は3%を超える物価上昇が続いているものの、「当面は物価が下がる局面にあると考えている。下がり方はやや想定より遅いが、この先、さらに下がっていくとみている」との見通しを示し、金融政策を変更する必要はないとの判断をしているという。前年比で9%などというインフレ率を示した米国や欧州と比較すると、高くとも4%程度だった日本では、金融政策の判断に違いがでるのは当然だが、この中央銀行の政策スタンスの差が、たびたび、為替相場での円安への圧力として働いてきた。 今後、米国の政策によっては、欧州や日本の対応に変化が現れるということも考えられる。米国は、主要国の中で、最も早く利上げへの転換に踏み出し、その利上げのペースも非常に速いものだった。遅れて追随した欧州、何もできなかった日本に対して、政策の自由度は大きな立場を得ている。各国の主要な株価指数は、前年末比で6月15日までに、米国のS&P500が15.27%の上昇、ドイツのDAXは17%上昇に対し、日本の日経平均株価は28.32%上昇になっている。日銀総裁の記者会見ではメディアから、「日本株はバブルではないのか?」という指摘も出ていた。このような株価の動きについても、各国中央銀行の金融政策によって影響を受けることになる。金融政策の転換期に差し掛かったといえる今、今後の各国の動向に注意していきたい。(グラフは、日米欧の政策金利の推移)
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