2023/06/19 16:54
国連責任投資原則(PRI)、国連環境計画・金融イニシアティブ(UNEP FI)、英国の慈善団体であるGeneration Foundationは6月19日、日本に関する2023年版の報告書「インパクトをもたらす投資に関する法的枠組み(A Legal Framework for Impact)」を発表した。日本では、国連の持続可能な開発目標(SDGs)などの取り組みに対する意識が高いとしながらも、「消費者は投資を通じてどのように貢献できるか常に確信しているわけではない」と分析。「投資家を導き支援するには、さらなる政策措置が必要」と提言している。
報告書は、PRI、UNEP FI、Generation Foundationの委託のもと、フレッシュフィールズ・ブルックハウス・デリンガー法律事務所が執筆した2021年版LFIレポート、および、日本のPRI署名機関の調査や専門知識に基づいて作成された。この報告書には、保険業界や投資業界のビジネスリーダーや、幅広い関連分野の専門知識を有する非政府組織(NGO)や学術機関の代表者らの協力も含まれている。グローバル市場全体におけるサステナビリティ・インパクトをもたらす投資に関する一連のポリシー報告書の最新版になる。
PRIのCEOであるDavid Atkin氏は、報告書について、「日本では、政策立案者や規制当局と並んで、民間セクターからもサステナブル・ファイナンスに対する強固な支援が行われていますが、多くの投資家は、このような機会を活用するための最善策について、まだ十分な理解に至っていません。日本は、責任投資において、投資家に法的な明確性を与え、政策を施行することで、強いリーダーシップを発揮することができるでしょう。これにより、国が掲げるサステナビリティに関する目標や、アジア全域で必要とされる経済移行を投資家が支援できるよう後押しすることに繋がります」と述べた。
また、Generation FoundationのディレクターであるGrace Eddy氏は、「多くの投資家は、一般的に、サステナビリティの要素が財務目標に与えるインパクトを考慮し、その結果としてアクションを起こす必要があります。日本の投資家は、サステナブル・ファイナンスのグローバルリーダー、かつ、イノベーターとしての地位を確立していますが、多くの投資家は、インパクトに関する自身の義務の範囲をまだ認識していないようです。本日発行した報告書は、日本の規制当局や政策立案者が、投資家によるシステミックなサステナビリティ・リスクの管理や、より効果的な機会活用を促進し、投資家が行動に移すために必要な法的な明確性とガイダンスを確保する方法について述べています」とコメントした。
報告書では、「サステナビリティ・インパクトをもたらす投資、すなわち、投資決定やスチュワードシップといった、投資家が自由に使えるツールやリソースを用いて、サステナビリティ・アウトカムを意図的に追求することが、どの程度許容・要求されているかについては、日本の投資家にとって不明瞭である」と述べている。そして、「日本における、このような明瞭さや理解の欠如は、気候変動ファイナンスを妨げ、投資家の行動を抑制する可能性がある」と警告する。また、投資家がサステナビリティ・インパクト目標を追求する際の義務についてよりよく理解できるよう、日本における既存のルール、基準、ガイダンスを更新することを推奨している。
そして、以下の5つの提言を行っている。(1)投資家の義務において、サステナビリティ・インパクト目標の追求を考慮することがどの程度許可、もしくは、義務化されているかを明確化、(2)既存の規則、基準及びガイダンスを更新することにより、投資家による企業のサステナビリティ関連情報へのアクセスを確保、(3)スチュワードシップ・コードの改訂や、その他の支援策を通じて、投資家がいつ、どのようにスチュワードシップ活動を通じて、サステナビリティ・インパクトを追求できるかを明確化、(4)開示、表示、分類に関する規則やガイダンスを導入することにより、責任投資の主張に関する透明性と市場規律を強化、(5)関連するガイダンスを導入することにより、インベストメント・マネージャーとその顧客および受益者との間で、サステナビリティ目的および選好に関するより良いコミュニケーションを確保。
NPO法人「日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)」の調査によると、2022年3月末時点のサステナブル投資残高は493兆5977億円で、2021年3月末比較すると約20兆4550億円(4%相当)の減少となった。前年比微減となった背景には、回答を見合わせた大手機関が、今回は7機関あったことをあげている。社内で定義を見直しているというのが回答を控えた理由で、ESGを掲げるファンドについて、その名称や投資戦略が運用実態と見合っていないと考えられる懸念(グリーンウォッシュ問題)を受けて、金融庁が「金融商品取引業者向けの総合的な監督指針」の改正に乗り出した。2022年12月に一部改正を公表し、パブリックコメントの募集を行った上で、23年3月末に新指針の運用を開始したところだ。ただ、サステナブル投資は従来の株式から、債券、PE(プライベートエクイティ)などへと運用資産を大きく広げているところであり、規制が実態を後追いしているという現実がある。この点などは、欧州で金融商品のサステナビリティ情報の透明性を求めるSFDR(サステナブルファイナンス開示規制)で金融商品を3つに分類し、それぞれの定義について詳細が固まってきていることと比較すると対応の遅れとみえる。
もはや、サステナブル投資は、投資判断の重要なツールになったといえる。特に、つみたてNISAを使って、自己判断で投資信託のつみたて投資を行っている若い世代は、温暖化対策や社会の多様性などといったテーマには敏感といわれている。単なる株式インデックスファンドだけではなく、「サステナブル投資に資するファンド」が明示され、今まで以上にしっかりとした情報開示がされるようになれば、「インデックスファンドの『次の投資対象』」として検討されることにもなるだろう。金融庁は「グリーンウォッシュ排除」の新規制によって、ファンドの実態を運用組織も含めて厳しくチェックしていくこととしているが、運用会社からの情報発信も含めて投資家への浸透は、これからのことになっていく。2024年1月にスタートする「新NISA」に向け、投資家に対する積極的なアピールが求められているといえるだろう。(イメージ写真提供:123RF)