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2023/06/28 19:48
社会保障審議会企業年金・個人年金部会は6月28日、私的年金(企業年金・個人年金)の制度改正に関する会議を開催した。今年4月12日に再開した企業年金・個人年金部会では、年金制度への拠出限度額や加入可能年齢の引き上げや制度加入の簡素化、また、制度の利用促進策などが議題となり、現在は、関係者からの意見聴取が進んでいる。28日は、信託協会、生命保険協会、日本年金数理人会から意見聴取を行った。企業年金の受託機関として制度設計などに精通する信託銀行、生命保険会社に加え、年金数理のスペシャリストが参加して、主として企業年金の現状と今後の発展のための提言があった。3回にわたった関係者へのヒアリングが今回で終了し、次回以降は、事務局(厚生労働省)による論点整理のうえ、1つ1つの課題について議論を深めていくことになる。 信託協会は、日本型の長期雇用慣行や労働条件の一部としての退職金制度を背景として発展してきた「共助」の制度である企業年金と、自助努力としての個人年金が、税制優遇の私的年金制度として一体的に議論される傾向が強まっていることに対し、改めて、それぞれの制度の目的や理念を踏まえて「再整理が必要ではないか」と提言した。労働・雇用慣行が大幅に見直され、そして、国民が豊かな老後を安心して暮らせる所得の確保が必要という現実的なニーズがあるという時代に合った年金制度を再構築すべきとした。そして、今回の制度改正議論の1つの焦点である「DC(確定拠出年金)の拠出限度額」について、「現在は事業主掛金と加入者(従業員)掛金を一体化して拠出上限額を設定しているが、本来は、事業主掛金は退職金という労働条件由来(非課税で上限なし)の拠出という性格がある。これに対し、加入者掛金は個人貯蓄に近い性格がある。この拠出の由来の違いを意識した議論が必要ではないか」と問題提起した。 信託協会では、2024年12月からDB(確定給付企業年金)とDCを一体として拠出限度額を月額上限5.5万円として管理することになるが、「一部の企業であるが、DBとDCを一体としてカウントすると、単純合算で拠出額が上限を超える企業がある。経過措置があるため、すぐさま拠出額を減額するということにはなっていないが、本来は従業員が得られるはずだった利益を減額しなければならない制度改正は正しいのだろうか」という問題意識があるとした。また、この多制度掛金相当額の反映等によって、iDeCo(個人型確定拠出年金)への拠出可能額が5000円を下回る結果、iDeCoに加入したくても加入できない人が出てくることに配慮し、iDeCoの最低拠出額5000円の撤廃も提案した。 生命保険協会は、企業年金制度において適格退職年金と厚生年金基金の時代から、DBとDCの時代へと移行するにあたって「中小企業での企業年金の施行率が大幅に減少した」ということを問題視。また、定年の延長にともなって、DB制度の給付減額判定によってDBの制度変更の手続きが進まないなどの弊害がでてきつつあるため、定年延長時の減額判定の緩和を求めた。一方、DCの受け取り時に、一時金として一括で受け取ることが一般化していることも改善の必要性があるとして、年金受け取りの多様性を確保する必要があると提言した。 日本年金数理人会は、DC拠出限度額については、現状の月額5.5万円という厚生年金基金の非課税水準を基にした限度額から「望ましい所得水準をベースとした算定方法に改めるべきで、その算定方法を構築すべき」と提言した。また、上限の見直しは5年ごとなど社会情勢の変化に応じて柔軟に対応すべきとした。そして、年金受給の保証期間やDCの支払い予定期間が現在は20年となっているところを、25年または30年に延長することを検討したいとした。さらに、中長期業で企業年金実施企業の割合が低いことを改善するため、中小企業事業主へのインセンティブ(助成金など)の提供、また、制度運営コストを低減させるための共同事務処理センターの創設などインフラを整えることの重要性が説かれた。 出席し委員からは、(1)DCの拠出限度額の月額5.5万円は、NISAと両輪をなす制度としての役割を鑑みて相当の拡大が望まれる。DC制度は投資教育と実際の資産形成を実感できる制度としては、資産形成の本命といえる制度である。(2)DC受け取り時において年金での受給の選択が低いことは改善の必要がある。(3)手続きの簡素化や迅速化、電子化は早急に取り組むべき課題――などの意見が出た。(イメージ写真提供:123RF)
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