2023/06/30 18:36
外国債券投資の新しい選択肢として「フォーリン・エンジェル債(堕天使債)」が加わった。「フォーリン・エンジェル債」とは、投資適格債から投資非適格債に格下げされたハイイールド債券のことをいうが、その後の信用力の回復等で価格が上昇するダイナミックな動きをする特徴がある。ただ、「フォーリン・エンジェル債」の市場規模は小さく、米国でもリテール向けの金融商品として提供されている例は少ない。今年4月25日に新規設定された「フォーリン・エンジェル・USハイイールド・ファンド」は、国内で初めての「フォーリン・エンジェル債」を主要投資対象にしたファンドだ。同ファンドの運用は、米BNYメロン傘下の債券運用会社インサイト・ノースアメリカ・エルエルシーが務める。同ファンドの運用責任者である同社ヘッド・オブ・エフィシェント・ベータのポール・ベンソン氏(写真)が7月3日に来日することを機に取材の機会を得た。ベンソン氏に、「フォーリン・エンジェル債」の魅力や運用戦略の特徴を聞いた。
――「フォーリン・エンジェル債」の魅力は?
フォーリン・エンジェル債はハイイールド債券の中にあって、より質の高い部分であるにもかかわらず、そのインデックスリターンは、一般的なハイイールド債券のインデックスリターンを長期的に大きくアウトパフォームしてきました。債券がハイイールド債に格下げされた際に発生する「強制売り」や、早期にこうした銘柄を評価することの困難さがミスプライシングの機会を生み、それがアウトパフォーマンスへと繋がり得るのです。
インサイト・インベストメント・マネジメントの「USフォーリン・エンジェル・ベータプラス(FAB+)戦略」は、ベンチマークであるフォーリン・エンジェル・インデックスに対してアルファを創出するためにリスク管理を実施しながら、このような構造的なミスプライスの機会を体系的に捉えることを目指しています。
――「フォーリン・エンジェル債」を主要投資対象とした商品は珍しいということですが、その理由は?
フォーリン・エンジェル債が、ハイイールド債券市場に占める割合は小さく留まる傾向にあります。このため、市場規模が小さいため、一部の人にとっては、「興味」の対象とはならないのです。また、従来のアプローチでは、銘柄を調達(ソーシング)する事が困難な債券であるなどの要因から、フォーリン・エンジェル債に特化した戦略は非常に稀です。
そして、高い取引コスト、流動性の低さ、ユニバースの小ささなどから、従来のポートフォリオ運用ツールや取引執行手法では、フォーリン・エンジェル債に特化したファンドの構築や運用は困難です。インサイトは、10年以上にわたってハイイールド債のクォンツ運用を成功させてきた実績があり、独自のポートフォリオ構築とトレーディング・ツールによって、フォーリン・エンジェル債においても、同様の運用が可能であると確信していました。
フォーリン・エンジェル・インデックスへの連動を目指すETFは米国で2本ありますが、純粋にフォーリン・エンジェル債に特化した、クォンツベースのアクティブ戦略を提供する投資チームはインサイトだけです。幸いなことに、この戦略は投資家に受け入れられました。運用開始からわずか3年半で、当戦略全体の運用資産規模は20億米ドルを超えるまでに成長しました。現在、インサイトのフォーリン・エンジェル債戦略の資産の約半分が米国外の投資家によるもので、顧客基盤は米国、欧州、アジア太平洋地域に分散されています。
インサイト独自のツールでは、(1)ミスプライスを識別できる独自の定量モデルを通じて、再現性のある超過収益を獲得、(2)複雑なクレジット・ポートフォリオのトレーディング戦略を通じて、取引コストを劇的に削減。また、徹底的な分散投資を実現して個別銘柄に起因するリスクを軽減し、投資家の流動性を向上――ができます。つまり、インサイトは投資家に対し、このような魅力的な資産クラスから、卓越した流動性と低い取引コストで、リスク・プレミアムを完全に獲得する機会を提供することができるのです。
――ファンドの運用上の特徴は?
「ブルームバーグ・米国ハイイールド・フォーリン・エンジェル3%キャップ・インデックス」をベンチマークとし、体系的かつ規律あるアプローチを用いてポートフォリオを構築しています。
インサイトの投資とスクリーニングのプロセスは、まず、最近格下げされて間もない債券を系統的によりオーバーウェイトとします。これらの債券は通常、ミスププライスの幅が最も大きい傾向になるためです。次に、インサイト独自のクレジット・モデルで金融市場や企業のバランスシートから情報を収集し、投資可能なユニバースをスコアリングおよびランク付けすることにより、債券の適切な取引価値を特定します。
通常の場合、格下げされてから時間の経過したフォーリン・エンジェル債のエクスポージャーは低めに抑えています。インサイトの調査によると、これらの債券はそれ以外の投資ユニバースと比較して、リスクとリターンの面であまり魅力的な機会を提供していないためです。しかし、個別銘柄リスクの高いフォーリン・エンジェル債投資において分散効果が期待されることから、これらの債券へのエクスポージャーはある程度維持しています。
最終的に、フォーリン・エンジェル・インデックスとの相対的なアクティブ・リスクを注意深く考慮し、重要な点として、取引コストの抑制を強く意識しながら、すべてのリスク要因を包括的に考慮してポートフォリオを構築するのです。
――フォーリン・エンジェルになって比較的期間の短い債券に手厚く投資する理由は? また、短い期間の債券が十分に確保できない場合は、どうするのですか?
インサイトは格下げされてから期間の短い銘柄を選好していますが、それ以外の銘柄を無視しているわけではありません。格下げの動きが活発であれば、ミスプライスの機会を捉えるため、当然ながら直近に格下げされた債券のエクスポージャーが大きくなります。インサイトの調査では、平均的にフォーリン・エンジェル債は、フォーリン・エンジェル・インデックスに採用された時点(格下げ時点)には大幅に売られすぎの水準にあり、同業他社に対するスプレッドは200ベーシス・ポイントまで拡大する場合もあることが確認されています。
格下げが頻繁に見られない場合には、当然のことながら、より以前に格下げされた債券へのエクスポージャーが増えます。その場合には、クレジット・モデルを用いて、価値の選別化を行います。
――通常のハイイールド債券ファンドよりも運用コストを低くできる理由は?
インサイトの系統的なフレームワークにより、伝統的なアナリスト・チームによるリサーチは不要です。より少人数のクォンツ・リサーチ・グループが、銘柄選択モデルを構築・維持しています。さらに、革新的なクレジット取引アプローチは、従来のアプローチよりもファンドのスケーラビリティを高めることができるため、スマートベータ戦略を従来のアクティブ・アプローチよりも低い信託報酬で提供することができ、その結果、お客様に優れた手数料控除後のリターンを提供することが可能となります。
――ファンドの期待リターンは?
過去1年、過去3年、過去10年など全サイクルでフォーリン・エンジェル・インデックスを1%アウトパフォームすることを目指しています。2019年12月の設定以来、インサイトのコンポジットの運用実績はこの目標を上回るパフォーマンスをあげています。歴史的にフォーリン・エンジェル・インデックスは広範なハイイールド債を大幅にアウトパフォームしており、当戦略の魅力は一段と高まっています。
ーーインデックスとの間でリターンに差が出た理由は?
パフォーマンスに差が出た要因としては以下が挙げられます。(1)新規フォーリン・エンジェル債のオーバーウェイトにしたこと。格下げの動きが活発な時期(2020年など)には、このファクターが特に効果的となる傾向があります。(2)クレジット・モデルによって、より質の高い債券やより割安な債券への小幅なオーバーウェイトも付加価値をもたらしました。(3)費用対効果の高い取引によって債券を安価に購入する能力は上記で述べたような他分野から得た付加価値の維持に寄与しているため、コスト削減はアルファの創出に直結しました。
――ハイイールド債運用におけるインサイトの強みは?
エフィシェント・ベータ・チームは、アクティブ/パッシブ、システマティック/ファンダメンタルを問わず、すべてのハイイールド債運用マネジャーが、取引コストの高さ、流動性の低さ、ハイイールド債の調達の難しさなど、リターンを低下させる大きな課題に直面していると考えています。一日に取引されるハイイールド債は、銘柄ベースで全体の3分の1に過ぎないと推定されます。インサイトの運用ノウハウは、システマティック債券インデックス戦略の運用マネジャーとしての深い経験と、ETFエコシステム内のクレジット・ポートフォリオ取引を通じてアクセスできる隠れた流動性の源泉を活用しています。
インサイトは、30年にわたる債券市場での経験に裏打ちされた、革新的でコスト効率に優れ、さまざまなアルファを目標にリスクを管理した戦略をお客様に提供できるよう努めています。
――現在の投資環境は、「フォーリン・エンジェル債」に投資するタイミングとしては良いタイミングといえるのでしょうか?
現在は、フォーリン・エンジェル債への投資を検討するには、興味深い時期です。まず、魅力的な利回りがあります。利回りは8%に近い水準にあり、投資家はフォーリン・エンジェル債から魅力的な利回りを得ることが可能です。フォーリン・エンジェル債は、主にBB格の債券で構成されており(現在ベンチマークの約85%)、これはハイイールド債の中で最も高い格付けであることに留意する必要があります。そのため、投資適格債の利回りの低さや、格付けの低いハイイールド債のリスクの高さを考慮すると、8%という利回りは特に魅力的です。
そして、金利環境は安定しつつあるります。過去2年間で5%の利上げが行われたことから、金利上昇環境はほとんど過去のものとなり、今後は金利上上昇余地は限定されるのでないかと思われます。
さらに、景気減速がより大きな機会をもたらす可能性があります。景気の減速(利益の減少、潜在的な株式リターンの低下)により、格下げが増加し、フォーリン・エンジェル債の供給が増加し、ミスバリュエーションの機会が増加すれば、逆説的にフォーリン・エンジェル債に大きな収益機会をもたらす可能性があると考えられます。しかしながら、根本的なファンダメンタルズ(フォーリン・エンジェル債の発行体における低レバレッジと高水準の現金残高)が強固であることから、景気減速の逆風がフォーリン・エンジェル債のデフォルト率を劇的に上昇させるとは考えていません。現在のスプレッド水準は、過去のデフォルト水準に関するインサイトの調査を参照する限り、デフォルトによる潜在的な損失を考慮しても十分すぎる利回りを提供していると思われます。
この機会に、「フォーリン・エンジェル債」に興味を持っていただき、「フォーリン・エンジェル債」を主たる投資対象とした「フォーリン・エンジェル・USハイイールド・ファンド」へのご投資をご検討いただければ幸いです。