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2023/08/03 18:39
日興アセットマネジメンは8月3日、「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」と「Tracers グローバル3分法(おとなのバランス)」について、2023年8月4日付で、「諸費用」の上限年率を引き下げると発表した。従来は、上限年率0.1%だったものを、上限年率0.03%に引き下げる。Tracersシリーズでは、「信託報酬」と「信託報酬以外の費用(その他の費用など)の双方において徹底したコスト削減に取り組んでいるが、今回、対象2ファンドにおいて、実際のコストを再点検し、さらなるチャレンジとして、諸費用の上限年率を引き下げたという。同社のETF事業本部長、ETF事業共同グローバルヘッド兼商品開発兼ETFビジネス開発の有賀潤一郎氏に、今回の取り組みの意図等を聞いた。 日興アセットの「Tracers(トレイサーズ)」シリーズは、ネット専用ノーロード・低コストのパッシブファンドシリーズで、「『こんなの欲しかった』をデザインし、ルール通りに運用(トレース)する」をコンセプトに、「米国S&P500配当貴族インデックス」、「グローバル2倍株(地球コンプリート)」などを商品化してきた。現在、シリーズは5ファンドになり、2021年12月のシリーズスタートから約1年半でシリーズ残高は100億円を突破している。 「Tracers MSCIオール・カントリー・インデックス(全世界株式)」は、新興国を含む全世界の株式市場の動きを示す「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(ACWI)」に連動するインデックスファンドだが、信託報酬率を「年0.05775%(税込み)」と年0.1%を大きく下回る水準に設定したことで注目を集めた。そして、「Tracers グローバル3分法(おとなのバランス)」は、リスク特性の異なる「株式」、「REIT(不動産投信)」、「債券」をリスク水準が等しくなるような「リスク・パリティ」をめざして配分比率を決定する運用を行う。このことによって成長資産に投資しながら、価格変動を抑えた運用が可能になると期待される。こちらも、リスク・パリティという投資手法を取り入れながら、信託報酬率を「年0.1089%(税込み)」と低く抑えたことで注目された。2ファンドは、ともに「つみたてNISA」の対象ファンドである。 日興アセットの有賀氏は、今回の諸費用の上限年率引き下げに2ファンドを選んだ理由として「信託報酬(税抜き)が年0.1%を下回る水準にあるファンドであり、ネット専用ということで固定費が少ないこと、かつ、つみたてNISA対象ファンドとしてコスト削減に努めてきたファンドであること」などを理由にあげる。信託報酬率が年0.1%というファンドで「その他の費用」が別途年0.1%かかるということになると、「その他の費用」の負担の大きさが際立って感じられる。Tracersシリーズをはじめ日興アセットの投資信託では、「その他費用・手数料」の内訳として「諸費用」、「売買委託手数料等」を設け、「諸費用」については上限を示してきた。そして、「諸費用」には指数ライセンスフィーなどを含めていたが、有賀氏は、「指数ライセンスフィーなど残高が大きくなることで、相対的にコストを抑えられるものもあり、今回の見直しにあたっては、実際にコストを再点検・検証し、実際のコストの上限を低くできる限界の水準にチャレンジした」(有賀氏)という。 有賀氏は、「Tracersシリーズは、徹底してコストを引き下げていくという商品性とともに、『こんなの欲しかった』という新しい商品の提供という側面もある。今後も引き続きコストの低減に努めるとともに、わくわくするような商品性を追求した商品開発にも取り組みます。魅力的な商品を提供することによって、ひたすら残高を増やしたいと考えています」と語っている。 投資信託協会では、投資信託のコスト開示について、信託報酬だけではなく、その他の様々な費用などを全て網羅した「総経費」について、投資家が購入する前に把握できるような情報提供を2024年4月以降に実施することを求めている。現在の開示基準では、総経費は「運用報告書」で当期中の運用・管理にかかった費用の総額として開示され、その期間の平均受益権口数と期中の平均基準価額(1口当たり)を使って「総経費率(年率)」を計算している。これを、ファンドの募集時に投資家が参照できる「交付目論見書」の段階で明示することを求めているのだ。現在、運用会社各社は、その準備を進めているが、日興アセットが今回行った「諸費用」の上限の開示は、この「総経費の事前開示」に至る過程で出てきているようにも感じられる。 投信のコスト低減競争は、今や信託報酬率の水準では「年0.1%」を下回る水準での戦いに進んでいる。その中にあっては、今回の日興アセットの取り組みにみられるように、かつては当たり前と感じられてきた「その他経費の年0.1%以下」というコスト意識も見直さざるを得ないことになってきたということだ。2024年1月には「新NISA」もスタートし、投資信託の利用は一段と活発になると考えられる。その前に、削ることができるコストを徹底的にそぎ落とすことつながる「投信のコスト低減競争」が一段と厳しくなってきた。(イメージ写真提供:123RF)
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