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2023/08/10 18:42
高齢化が進む日本において、国民が豊かな生活を不安なく送ることができるためには、老後の暮らしを支える年金制度の充実が欠かせない。そのために国は、「100年の安心」(2004年に打ち出した『年金100年安心プラン』)を掲げ、様々な制度改革を行ってきた。ただ、現役世代が年金世代を支える賦課方式を採用する日本では、少子化で現役世代が減り続け、高齢者が増え続ける現実を前に制度維持は困難を極める。そこで、厚労省の諮問機関である社会保障審議会では、就労引退から公的年金の受給開始までの間を私的年金や貯蓄等でつなぐという考え方(WPP:Work longer,Private pensions,Public pensions)をベースとした議論が進んでいる。議論が続く「企業年金・個人年金部会」を振り返って、今後の年金制度と私たちの老後について考えてみたい。 「年金100年安心プラン」は、(1)保険料の上限を固定した上で引上げ(2016年度で引上げ終了)、(2)国民年金(基礎年金)の国庫負担率を2分の1に引き上げ、(3)保険料積立金の活用、(4)給付水準を自動調整する「マクロ経済スライド」の導入(調整されても厚生年金の標準的な年金世帯の給付水準は現役世代の平均的収入の50%を維持)――によって、公的年金制度を100年間維持できるようにしたということだ。年金制度が100年続くということと、私たちの老後生活が安泰かということは別問題ということになる。「現役世代の平均的収入の50%で暮らしてゆけるか?」ということが問われている。しかも、ここでいう「現役世代の平均的収入」は、「賞与を含む月額換算で43.9万円」を指している。2023年時点では標準的な専業主婦のサラリーマン世帯の年金受給額は月額22万円程度になっている。 今後は、共働きの夫婦も増えていくものと考えられ、「大卒男子」と「大卒女子」の組み合わせで、夫婦2人ともに大学卒業後に正社員として働き、60歳定年後は65歳まで非正規社員として再雇用された場合の年金額を「平均的な年収」に基づいて試算すると月額39万円程度になる。専業主婦(夫)の世帯の22万円と比較すると、かなり余裕のある金額に思える。しかし、大卒男女のカップルがともに定年まで勤め続け、定年後も65歳までは働き続けるという前提は、夫婦のどちらかが途中で就労を辞めてしまえば狂ってしまう。「年金生活のために、互いに65歳まで働き続ける人生というのは、よほど仕事が気に入っていないと難しいかもしれない」などと、公的年金だけで豊かな生活を送ることの限界を考えてしまう。 そこで、厚生労働省などが制度整備について考えていることが「WPP」という発想だ。「Work longer(長く働く)」は、まず国民に受け入れてもらって、「Public pensions(公的年金)」以外に、「Private pensions(私的年金)」という2つの年金を持つことによって、老後の生活に安心感を持ってもらおうということだ。もちろん、私的年金については、その保険料を現役時代の収入の中から生活費の一部を削って拠出してもらうことになる。このことによって、専業主婦(夫)世帯の年金22万円では足りない部分を私的年金で補ってもらおうということだ。 このため現在、社会保障審議会の企業年金・個人年金部会においては、私的年金である企業年金とiDeCoなどの個人年金について、国民の多くに関心を持ってもらい、利用促進につながるような方策を検討している。現在のところ、公的年金加入対象6729万人に対し、私的年金の加入者は、国民年金基金34万人、iDeCo290万人、企業型DC805万人、確定給付企業年金(DB)911万人、厚生年金基金12万人で延べ2052万人と30%程度に過ぎない。重複して加入している人もいるため、実際の加入者数はもっと少ないということになる。もちろん、生命保険会社の「個人年金保険」の保有契約件数は2000万件程度あるが、これも重複が多いと考えられ、少なからぬ「私的年金に加入していない人」が存在する。国の政策として「WPP」を打ち出すのであれば、もっと私的年金の活用が進むことが求められる。2024年1月からスタートする新NISAも重要な資産形成をバックアップする制度といえ、「WPP」+「NISA」で国民の将来不安の解消を図りたいところだ。 現在のところ、企業年金・個人年金部会では有識者や業界団体からの要請をヒアリングする段階を終えたところだ。今後、「働き方・ライフコースに対応し公平で中立的な私的年金制度の構築」、「私的年金制度の普及・促進」、「資産形成を促進するための環境整備(投資教育・運用関係見直し)」などの視点ごとに、順次議論していくことになっている。より多くの国民が関心を持ち、積極的に加入を検討するような私的年金制度へと転換できるかどうか、今後の議論を見守りたい。(イメージ写真提供:123RF)
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