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2023/08/14 18:24
大手格付け機関フィッチ・レーティングスが8月1日、米国の信用格付けをAAAからAA+に引き下げた。その理由に、米国の財政状況の悪化、米国政府の差産む負担の増加、ガバナンス基準の低下などをあげている。信用格付けの悪化によって、米国の長期金利はやや上昇する動きを見せた。すでに、大手の一角であるS&P社は2011年8月にアメリカ国債の格付けをAAAからAA+に引き下げている。フィッチの格下げは約12年ぶりに米国の信用格付けを引き下げたことになる。残るムーディーズも現在のAAAの格付を引き下げるようにことになると、米国の金利や為替相場などに大きな変動要素になるかもしれない。アムンディ・ジャパンは、アムンディ・インスティテュートが発行したレポートを8月8日に公表し、「米国格付引き下げの投資への影響」を考察している。 フィッチによる格下げを受けた市場の反応は、米国10年債利回りが7月31日の3.96%から8月1日には4.02%と4%台乗せとなり、その後も4%台での推移を続け、8月11日には4.15%になった。この間、ドル円相場は143円から145円へとドル高・円安に振れ、ユーロドルも1.0997ドルが1.0949ドルへとユーロの安値を試す展開になった。米国債利回りの上昇が、ドルを押し上げている格好だ。信用格付けの引き下げによるドル資産への信認の低下にはなっていない。このような動きに対して、アムンディは、フィッチが、米政府系機関(GSE)の格付けをAAAに据え置き、米国の債務上限も調整しなかったことに注目し、「格付けのカスケード(連鎖反応)を防いだ」とし、「格付けに敏感な投資家に売りを強制することにはならないことを意味し、市場の反応を和らげた」と評価している。 また、アムンディのレポートでは、「重要なのは、米国の財政赤字が、AAA格付国(ドイツ、デンマーク、オランダ、スウェーデン、ノルウェー、スイス、ルクセンブルグ、シンガポール、オーストラリア)の財政赤字よりもかなり高いことである。これらの国々と比べると、アメリカの財政赤字は2倍、場合によっては6倍である」と指摘する。フィッチによると、米国の財政赤字は、2022年の国内総生産(GDP)比3.7%から、2023年には6.3%に増加すると予想している。そして、米国の債務残高対GDP比は2020年の122.3%から2023年は112.9%に低下したものの、パンデミック前2019年の100.1%という水準を上回っており、2025年までに118.4%に拡大すると見通している。これは、経済協力開発機構(OECD)の試算によるAAA格の信用発行体の債務比率がGDP比39.3%、AA格でも44.7%という中央値に対し、2倍以上になっていることを指摘している。 アムンディはレポートで、「今回の格下げは、最近の債務上限問題で政治家がデフォルト(債務不履行)を早期に回避できたにもかかわらず、米国の政治的不安定さという『ニュー・ノーマル』の事態を招いてしまったことを反映している」と分析。そして、「インフレや経済問題に対する『認識』の方が、格下げよりも重みを持つだろう。したがって、バイデン政権がウクライナ支援を縮小し、米国の財政健全化を図る可能性は低い」と予測している。 そして、この格下げが市場に与える影響について、「重要なのは、AAAからAA+への格下げが、中核的な期間投資家の米国債への需要を後退させないであろうということである」という見方を示す。バーゼルの枠組みでは、AAAからAA−に格下げされても、市中銀行における国債の自己資本要件は変わらない。同様に、一般的に長期の負債に見合う長期の資産を必要とする年金基金も、金利リスクを適切にヘッジしたリターンを重視する傾向があるため、「1ノッチ格下げによる影響は限定的」とみる。そして、米国債のもうひとつの大きな投資ニーズであるグローバルでの外貨準備でも、AAAとAA+ではあまり差はないであろうと分析している。格下げ後の市場が、大きく反応しなかったのは、このような実態面を反映した結果とみている。 ただし、最終的な結論としてレポートでは、「今回の格下げによる短期的な経済への影響は限定的で、長引く可能性は低いと思われるが、財政状況の悪化に対処する政治的・政策的な決意が弱まっていることを示唆していることもあり、その影響は長期化すると思われる」とし、「長期的にみれば、今回の格下げは世界の基軸通貨としての米ドルの地位に悪影響を及ぼす可能性がある」と結んでいる。また、3大格付機関の中で米国債にAAAの格付けを維持しているムーディーズも、「安定的からネガティブに、AAAからAA+に格下げする可能性が近いと思われる」と予見している。 米国債は、資産運用の現場にあっても、軸になる安定資産として位置付けられることが多い。現在では年4%程度に上昇した金利水準の魅力によって、積極的に米国債への投資比率を引き上げようという動きもある。これらの動きによって、米国債も米ドルも比較的しっかりした値動きを続けている。ただ、3大格付機関のうち2社が最高格付けから一段下げた評価をしているという事実の重みは小さくない。まして、3大格付機関が揃ってAA+という評価をするようなことになれば、今回はさざ波程度だった影響が、より大きなインパクトになって市場を動揺させることになるかもしれない。フィッチの格下げの影響が静かに漂い続けていることを忘れずに、リスク管理について常に意識した投資を心掛けたい。(イメージ写真提供:123RF)
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