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2023/08/24 16:54
米カンザスシティ連銀は8月24日〜26日、ワイオミング州ジャクソンホールで年次の経済政策シンポジウム、いわゆる、「ジャクソンホール会議」を開催する。同会議の招待者のリストには、世界中の中央銀行、財務大臣、学者、金融市場関係者が含まれ、参加者の講演内容などが毎回注目される。昨年は、米FRBのパウエル議長が、インフレとの戦いについて「前途多難」と警告し、急速な金融引締めのペースを維持する姿勢をみせた。今回のテーマは「グローバル経済の構造転換」。同会議を注目している市場関係者は、長期的に経済を均衡させる「Rスター(自然利子率)」、すなわち、「実質中立金利」についての考え方が議論されるとし、また、それに関連して中央銀行のインフレ目標を「2%から3%に引き上げるべきだ」との意見にどのような見方が示されるかが注目されるとしている。 「グローバル経済の構造転換」を考える際に、急速な利上げを続けてきた米国の金融政策の「転換」が大きなポイントになる。「(金利を)より高く、より長く」と唱え続けて遂に年5%を超える水準にまで政策金利の水準を引き上げたが、この水準を一段と引き上げるかどうかという判断だ。FRBがインフレ率2%を目標とする限りにおいて、少なくとも、現在の3%台のインフレ率の状況では、政策金利の維持、もしくは、一段の引き上げという選択肢しかないようにみえる。しかし、昨今、格付機関による銀行の信用格付けの引き下げが話題になっているように、雇用こそ堅調とはいえ、米国経済に変調の兆しが表われている。「これ以上の利上げは、景気後退の引き金を引くことになる」という見方もある。そこででてきているのが、「インフレ目標が2%であることがそれほど特別か」という声だ。これと並行して「Rスター」の水準を巡る議論がある。 ジャクソンホールでの議論に注目しているナティクシス・インベストメントは8月24日、「パウエル議長は、過去の講演で、Rスターは測定可能なデータポイントではなく、理論的な議論であることから、この概念を好まないことを示唆している」と指摘。「(FRBは)これまで強調してきたように、データに依存し柔軟に判断する。前進はしているがまだやるべきことがあるため、金利の『より高く、長く』を予想する」と見通し、「結局のところ、ジャクソンホールで大きなサプライズが発表されることはないだろう」との見方を示している。 また、ピクテ・ジャパンは8月23日、「ジャクソンホール会議を前に自然利子率を考える」というレポートを発表し、「足元まで長期FFレートの見通しが、コロナ禍の一時期を除いて、2.5%で不変です。コロナ禍により経済の混乱はあったものの、長期FFレート、もしくは、自然利子率は変わらないと解釈できそう」と、Rスターの水準変更は今は適当ではないという見方を示した。ただ、自然利子率は推定値であり幅をみる必要があると指摘。実際にNY連銀の推定値も計算に使うモデルの種類によって差があるほか、ダラス連銀の推計値とも差があるなど、「地区連銀を超えた推定結果の整理が必要」と推定が容易ではないことに留意する必要があるとしている。 さて、ジャクソンホールでは上述したような今後の金融政策の方向性に関わる議論もあるだろうが、投資家の立場で考えると、米国の景気の先行きが懸念され始めていること、そして、世界的に金利水準が上がってきていることが重要なのではないだろうか。米国の景気が不透明であるということは、より経済規模が小さな新興国にとっては、より大きな変動リスクが生じるということだ。さらに、米国株式市場では、しばしば「NYダウ」と「NASDAQ総合」の株価の動きが異なるように、企業業績に良いところと悪いところの差が大きくなってきている。一般的に大型株の動向に影響を受けやすいインデックスへの投資では、満足するパフォーマンスを得ることが難しくなったり、成果を得るまでに時間がかかるようになってしまうかもしれない。 このような景気の変調、景気後退の懸念が高まっているような時には、資産を分散することによって価格変動リスクを抑えることが推奨されてきた。景気は循環するため、好景気も不景気も永遠に続くものではない。不景気になると株価は企業の業績悪化を嫌って下落する傾向にあるが、そのような経済環境になると、中央銀行は金融政策を緩和(金利を低めに誘導)するようになるため債券市場にはプラス(債券価格の上昇)の恩恵が出やすくなる。現在、資産の大半を株式に投資している投資家は、債券への投資を加えるようなことも考えたい。また、株式や債券と値動きの異なる「金(ゴールド)」などへの投資も1つの選択肢だ。長期の資産形成を考える場合、今後の下落が予想されるような局面では下落率を小さくする工夫をすることが肝心だ。下落率が小さく抑えられれば、株価上昇時にそこに追随する成果が得られれば、下落率が小さかった分、トータルでのリターンを押し上げることができる。経済環境に対応した運用を心掛けたい。(イメージ写真提供:123RF)
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