2023/08/29 11:06
野村アセットマネジメントは8月25日、東京・丸の内の東京會舘にて投資信託の販売会社向けのセミナー「プロダクトカンファレンス2023」を開催した。会の冒頭であいさつに立った同社取締役兼常務CIO本間隆宏氏(写真)は、「前年は『インフレ』をテーマにお届けした本セミナーでしたが、今年は『新NISA』をテーマに設定しました。岩盤ともいえる預金を投資に動かすドライバーとして新しいNISAは大きな期待があり、その中心にあるプロダクトは投資信託です。新しい制度を長期的な投資マインドの醸成にいかにつなげていくのか、販売会社の皆様と一緒に取り組んでいきたいと思います」と狙いを語った。セミナーは2部構成で実施され、第1部は「各国金融政策の今後とマーケットへの影響」、第2部は「新NISAの多角的展望」として専門家によるパネルディスカッションを行った。
第1部のパネルディスカッションには、野村総合研究所シニアチーフリサーチャーである井上哲也氏と、野村アセットのシニア・ストラテジスト石黒英之氏が登壇し、当面の金融政策の見通しについて議論した。井上氏は「潜在成長率を実現できる金利といえる『自然利子率』が低下してきた中で、名目金利が上がるとすれば、これは、コロナ後に増加した政府債務への懸念が主因になる」と各国の財政リスクの高まりに警鐘を鳴らした。これを受け、石黒氏は「自然利子率の水準を米国の実質FFレートが上回る逆転現象が起こっている。逆転時には、過去にはFRBは利上げ停止に動いており、今回も米国金利はピークアウトし緩やかに金利が低下する局面にあるのではないか」という見方を示した。そして、米国の金融政策については、「1990年代半ばのような状態になるのではないか。当時は高めの政策金利を維持する期間は長くなるが、米国景気のリセッション(景気後退)は回避され、米国株価は上昇を続けた」(石黒)と見通した。
一方、日本については、井上氏が「企業の価格設定行動が明らかに変わってきた。これまでは、他社も値上げしないので、自社でも値上げを見送るというスタンスだったが、現在は他社も値上げするので自社も値上げするという行動となり、長らく続いてきた低マージン(利ざや)を転換しつつある。このため、賃金を引き上げられる環境となり、今では、人材をつなぎ留めておくためにも賃上げは必要と考えるようになっている。デフレの心配は後退し、日本もようやく普通の経済になってきた」と評価した。そして、日銀の金融政策は、今後のインフレ率の動向に左右される要素は強いものの、「来年度の前半には、政策金利を利上げできるような環境になるのではないか」と予測していた。
そして、今後の注目する資産クラスについては、2人とも中国については警戒する必要があるという見方を示した。その上で、井上氏は、「欧米の長期金利は、緩やかな景気後退の下で上がりづらいだろうから、債券投資でキャピタルゲインが狙える環境になった。また、リセッションが起きないならば、株価は今後の景気回復を徐々に織り込むことが期待される。日本では、非製造業のデジタル化やグリーン化に関連する動きが注目されるだろう」と語った。石黒氏は、「米株と日本株が注目される」とし、「株価は業績に収れんされることを考えれば、過去最高益の更新が見込まれているS&P500やNASDAQ100は、株価も過去最高値を更新することは時間の問題。また、日本株はROE(稼ぐ力)が世界で最下位に沈んでいたが、8%程度だったROEが今年8月には8.7%に上昇し、将来的には2ケタも視野に入っている。日経平均株価が3万7000円台にトライすることも期待できる」とした。
第2部は、新NISAをテーマに格付投資情報センターの投資評価本部副本部長兼投信事業部長の岡忠志氏、野村資本市場研究所の副主任研究員の中村美江奈氏、そして、野村アセットの常務CIO(日本株アクティブ)の村尾祐一氏が、野村アセット資産形成ソリューション部長の川嶋昭臣氏の進行の下で議論した。
まず、英国ISA(個人貯蓄口座)を研究した中村氏が、1999年に当初は期間10年の時限制度として導入されたISAが、2007年に恒久化が決定され、現在では残高7506億ポンド(約130兆円)に成長し、家計金融資産の10%を占めるまでになったと制度概要を紹介。英ISAは、恒久化や年間非課税枠が7000ポンド(約100万円)から、2万ポンド(約360万円)に拡充されたことが飛躍の1つのきっかけになっており、2024年からの新NISAによって非課税枠が年間360万円(つみたて投資枠120万円と成長投資枠240万円の併用)までと大きく拡大することが利用促進につながる可能性があるとした。ただ、「英ISAには1人当たりの非課税枠の上限(新NISAでは1800万円)がなく、英国ではISAが『預金型』『株式型』『イノベーティブ・ファイナンス』『ライフタイム』など種類が多く、異なる金融機関への移管や商品の買い替えが可能等の自由度がある」とした。野村アセットの川嶋氏は「日本の個人金融資産に占めるNISA制度開始後の買付総額は1.5%程度と非常に限られている(2023年3月末時点)。日本の制度がどれだけ利用されるのか注目している」とした。
また、英ISAの残高の60%程度は「株式型ISA」であり、「株式型ISA」では4分の3が投資信託で運用されているという。そして、「株式型ISA」が拡大した背景の1つに、「ISAミリオネア」といわれるようなISAを使って100万ポンド(約1.8億円)を作り出した人が既に4000人程度も存在し、その人々が株式型ISAで投資リスクをとった商品を活用して資産を増やしたことが紹介され、株式型ISA利用のきっかけになっていると紹介した。
そして、新NISAで投資したい商品として村尾氏は、「日本株は、グローバル株式と株式益回り(PERの逆数)で比較すると過去50年間で最も割安な水準にある。ただ、株価評価の安さはROEの低さで説明される部分もあるので、同じROEの水準で比較するために、日本企業でROE12%以上の企業を選んだ。この水準以上の企業の数は564銘柄となるが、この銘柄群を選ぶと、米S&P500の全体の平均的なROEと同水準のROEを持つことになるからだ(2022年12月末現在)。560以上の企業がある事実は、日本株に十分な銘柄選択の余地がある事を意味するが、より重要なのは、この高ROE母集団の株価評価(PER)の低さとバラツキである。全体のPERが低い事に加え、米S&P500では59%がPER20倍以上になっているところ、東証プライムでROE12%以上のものは、PER5倍以下が10%、5倍から10倍が27%、10倍から15倍が26%など、PERの水準がばらけているのも特徴。このようなことから、日本株はアクティブ運用で超過収益を稼ぎやすい市場ということができる」と国内株式市場の特徴を語った。そして、「かつてPER50倍だった日本株市場は、現在では15倍程度と普通の市場になっている。東証のPBR1倍割れ企業への是正の呼びかけなど、株式としての魅力向上に努めている現在は、魅力的な投資対象といえる」と日本株への注目を呼びかけていた。
最後に、新NISAに向けた商品として、様々な投資ニーズの横断的プロダクトとして「のむラップ」や「はじめてのNISAシリーズ」、そして、「米国配当貴族(Funds−i/年4回)」、「野村世界6資産分散投信」などを紹介。年金の補完等でインカムを定期的に取りたいという「インカム」ニーズには、「好配当シリーズ(日本/世界)」、「J−REITシリーズ」など。中長期の資産形成とともに社会に貢献したいという「地方創生」のニーズには、「グローバルESGバランス」、「野村ACI先進医療インパクト」など。中長期の資産形成を考えてインデックス投資の次を考えたいという「グロース」のニーズには、「ノムラジャパンオープン」、「米国NASDAQオープン」、「野村未来トレンド発見ファンド」など。そして、中長期の資産形成に異なる資産に投資したいと「国内」への投資を求めるニーズには、「ノムラジャパンオープン」、「J−REITシリーズ」、「小型ブルーチップオープン」など、「ベーシックに幅広いニーズに応えられる商品、様々な個別ニーズに応えられる商品を幅広く用意しています」(川嶋氏)と商品ラインナップを紹介した。