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2023/09/11 18:18
2022年7月29日に設定された「グローバル・アグリカルチャー&フード・ファンド」は、設定から1年超を経過して基準価額は9800円台(分配実績なし)と厳しいパフォーマンスになっている。ロシアによるウクライナへの侵攻によって世界的な食糧危機が話題になり、かつ、イノベーションによって農業が変わるという非常に高い成長期待を感じて投資した投資家には残念な結果といえよう。このような期待と実績のギャップは、特定の分野に焦点を絞った投資を行う「テーマ型ファンド」では珍しくない。「グローバル・アグリカルチャー&フード・ファンド」の現状を見ながら、テーマ型ファンドに投資する際の心得を考えたい。 「グローバル・アグリカルチャー&フード・ファンド」が注目する「農業」と「食糧」というテーマは、近年、様々な変化が押し寄せる激動期に入ったように感じられる。世界の人口が増加し続けていることで食糧不足が懸念されていたところへ、2022年2月24日に食糧の物流拠点であったウクライナにロシアが侵攻したことで食料の流通が阻害され、一段と食糧がひっ迫した。世界の人口は2022年11月に80億人を突破し、2058年には100億人を超えると予想されている。これから毎年米国の人口(約3.3億人)くらいの人口が増え続ける見通しだ。今までの作付け面積を増やすか、一定面積の収穫量が増えないことには、増大する人口を養っていけない。農業の効率化を促す社会的な意義は強い。 さらに、農業に自動運転技術やドローンなどを活用するスマート農業が始まるなど、農業分野の技術革新も進展している。農業は、これからの成長産業という見方も出ている。たとえば、「グローバル・アグリカルチャー&フード・ファンド」が投資する米ディアは、世界各地で農業、建設・林業、商業などを対象に各種機械の製造・販売を行う機械メーカーだが、近年は、精密農業、および、農業の自律化(AI搭載型ロボットは、自ら状況を判断して作業を行う)などに注力している。設定から1年を記念して発行した特別レポートでは、同ファンドの運用を実質的に行っているラザード・アセット・マネジメントLLCは、「バリュエーションの観点では、過去5年間のPER(株価収益率)でみると、割安な株価水準にあるとみており、魅力的な投資タイミングが到来している」とみている。 また、米ゾエティスは、家畜やペットなど動物向けの医薬品やワクチンの研究・開発から製造・販売を行うアニマルヘルスケア企業だが、近年は魚類ワクチンの開発・商品化、水産養殖向けワクチンの接種・診断サービスの提供を行う企業を買収するなど、世界的な魚肉需要の増大に対応するビジネスを展開している。このような、新しい成長分野を切り拓こうという企業の株価が、依然として割安な株価水準にあるのが現状だ。これが、設定来の基準価額が横ばいに推移することの要因の1つになっている。 「グローバル・アグリカルチャー&フード・ファンド」のパフォーマンスは、2023年8月末を基準にすると、過去1年間のトータルリターンがマイナス2.29%。この間に全世界株価指数「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み、円ベース)が20.36%と20%超の成長をしていることと比較すると、パフォーマンスの悪さが目立つ。 テーマ型ファンドは、その着眼点がわかりやすいものが多い。「グローバル・アグリカルチャー&フード・ファンド」は、「世界の食糧危機から人類を救う企業群」と聞けば、素直に応援したくなるところでもあり、かつ、昨今の自動運転技術などの発展が農業の在り方を変えつつあるという報道等に触れれば、農業の将来性に期待も高まる。ただ、そもそも農業や食糧は、人間の生命にかかわる分野であり、国は保護政策を実施し、安定的に成長する産業といえる。これまでも、いわゆる「ディフェンシブ銘柄(株価の下落に比較的強い銘柄)」に区分され、成長株としてのイメージが馴染まない産業だった。現在、同ファンドが注目する企業群が割安といえる株価水準にあるのは、産業に対するイメージのギャップが大きいために、企業の変化や成長を株式市場が十分に評価できていないことの表れと解釈することもできる。 過去1年間のパフォーマンスが「鳴かず飛ばず」の状況だった「グローバル・アグリカルチャー&フード・ファンド」だが、この状況を、どのように考えるのかは思案のしどころになる。今後、人類規模で向き合っていかなければならない「食糧不足」という問題に果敢に挑んでいる企業群の成長に期待できるのであれば、現在のところ1万円を割っている同ファンドを購入するということは1つの投資行動になる。過去1年間が横ばいだったことを考えれば、一括で投資するより、毎月のつみたて投資のような時間を分散した投資の方が良いだろう。長期でつみたて投資をして、長期にわたる「食糧危機」と向き合っていくという姿勢で投資するのが正しい投資態度といえるのかもしれない。 一方、過去1年間のパフォーマンスによって、「グローバル・アグリカルチャー&フード・ファンド」は、「全世界株式(オール・カントリー)」や「S&P500」などのインデックスファンドとは、異なる値動きをするファンドであることを示したといえる。現在、「全世界株式(オール・カントリー)」や「S&P500」のインデックスファンドを使ってつみたて投資をしている投資家は多いが、このような方々が、異なる値動きをするファンドを併せ持つことによって価格変動率を抑制する分散投資効果を得ることもできる。長期の資産形成を考える時には、1つの商品等に集中するのではなく、複数の商品に分散投資し、資産全体の値動きを抑えるという発想が大事になる。その複数のファンドを選ぶ際にポイントになるのが値動きの違いだ。できるだけ異なる値動きをする商品を組み合わせることが重要だ。(グラフは、「グローバル・アグリカルチャー&フード・ファンド」1年間のパフォーマンス推移)
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