前のページに戻る
2023/09/12 19:15
国内10年国債利回りが9月11日、2014年1月以来、9年8カ月ぶりに0.7%台に乗せた。日銀の植田和男総裁が読売新聞のインタビューに答えて「年内にも(マイナス金利の金融政策の変更を)判断できる材料が揃う可能性がある」と発言したことがきっかけと考えられる。これで、長期金利が4%台になっている米国や英国、2%台半ばのドイツなどと合わせて日本の金利も「ゼロ金利」からの脱却に向けて動き出したことになる。世界的に金利が上昇し、国債や社債などの債券利回りの水準が上がる中、株式の高い配当利回りに着目して投資する「好配当株ファンド」の魅力は、相対的に低下する懸念がある。株式よりも相対的にリスクが小さい債券の利回りが上昇すると、「好配当株」の高い配当利回りの魅力が低下し、株式の持つ高い価格変動率というデメリットが意識されるためだ。「好配当株ファンド」の代表的な銘柄である「ピクテ・グローバル・インカム株式ファンド」(通称:グロイン)を事例に、高金利時代の「好配当株ファンド」の動向について考えてみたい。 「グロイン」は、8月末を起点とした過去1年間のトータルリターンがマイナス4.91%と、同期間の「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み、円ベース)」の20.36%と比較して大幅に劣後している。同ファンドの「毎月分配型」は、残高が1兆円に迫る我が国を代表するファンドであるだけに、「好配当株(インカム株式)」に投資するファンドのイメージを左右する存在だ。実際には、「好配当株」には様々な視点でアプローチが可能であり、たとえば、日用品メーカーのように安定的な収益(キャッシュフロー)が期待できる企業群の中で株価が割安な企業に投資することもあれば、何らかの悪材料により実力以上に株価が下落した企業の配当利回りに着目するという投資の仕方もある。「グロイン」の場合は、電力・ガス・水道など公益企業の中から配当利回りの高い銘柄に注目して投資をするファンドだ。 「グロイン」のパフォーマンスが過去1年で優れなかった理由について、ファンドを運用しているピクテ・ジャパンでは、8月に公開した動画「金利上昇後の公益株式の投資魅力」の中で「あまりにも急速に米国の政策金利が上昇したことの影響を受けた」と解説している。米国の政策金利は、2022年3月までは0%〜0.25%だったものが、2023年7月には5.25%〜5.50%になった。過去に例がないほどのスピードで金利が引き上げられたことになる。この急速な利上げによって、米国の企業活動などが抑えられる(金利の上昇によって借り入れコストが上がるため設備投資などの投資活動が鈍化する)などによる景気後退が懸念されるまでになっている。この警戒感から、公益企業の株価が値上がりせずに横ばいになった。これに対して、半導体関連などのハイテク企業等の株価は業績の進展などを手掛かりに上昇したため、公益株と一般の株価インデックスの間で格差が出てしまった。 ただ、かつての利上げ局面では、公益株は株価が上昇することが一般的な傾向だった。金利の上昇は、その背景には好景気があり、好況下では公益企業の業績は良く、業績に伸長を評価して株価も上昇してきた。今回の急速な金利上昇に対する公益株の株価動向は、かつての動きとはことなる異例の動きだった。実際に、足元で発表されている公益企業の業績は好調を維持している。「株価が横ばいだった期間に好業績によってEPS(1株あたり利益)は向上したためPER(株価収益率)が下がって、公益株は全般に割安な状態になっている」と現状を分析している。 金利が上昇した局面では、株価が全般的に値上がりするということは難しくなる。その中で株価が上昇する傾向が強いのは、市場の期待通り、または、期待を超えて業績を伸ばしている企業群ということになる。実際に、足元の株式市場では、発表される企業業績によって好業績企業の株価は上昇し、業績が悪化した企業の株価は下落するという傾向が明瞭だ。そして、これまでに発表された企業業績を合計すると、米国株式のEPSはマイナス成長になっている。EPSがマイナスになる中では、株価の上昇は期待しづらい。その中で、業績が向上している企業群に投資していることが重要だ。「グロイン」の傾向は、全ての「好配当株ファンド」に当てはまるものではないが、今後に期待が持てるファンドを選ぶ際のヒントになる。投資している企業の業績動向に注目し、今一度注目して新規投資、あるいは、継続保有しても大丈夫であるのかを判断する目安にしたい。(グラフは、「グロイン」の過去3年間のパフォーマンス推移)
ファンドニュース一覧はこちら>>