2023/09/14 11:18
フィデリティ投信は、リスクを抑えながら、市場環境に応じて資産配分を柔軟に調整し、安定的なリターンを目指すバランス型ファンド「フィデリティ・ロイヤル・コア・ファンド」を9月8日に新規設定した。基本資産配分比率を「株式25%、債券75%」とし、株式では先進国・新興国・大型・中小型・グロース・バリューなど多様な資産に分散投資し、債券も先進国・新興国・ハイイールド債、物価連動債などに分散し、コモディティまでも組み入れる「マルチ・アセット」といわれるバランスファンドで、「インフレ率を上回るリターンを安定的に得る」ことを目的に運用する。同ファンドの設定の狙いと運用の特徴をフィデリティ投信の投信営業部長の新村光秀氏(写真:左)とシニア・プロダクト・スペシャリストの高橋諒氏(写真:右)に聞いた。
――新ファンド「フィデリティ・ロイヤル・コア・ファンド」設定の狙いは?
新村 これまで続いてきたデフレからインフレに転換し、経済環境が大きく変化しています。デフレ経済の下では、ゼロ%金利の預貯金でも十分に資産の価値を守ることができましたが、インフレになると預金だけでは資産の価値を守ることができません。何らかの対策が必要になります。
そこへ政府も「新NISA」を打ち出すなど「貯蓄から投資へ」を積極的に後押ししています。少子高齢化で世界の先頭を走る高齢社会を迎えた日本では、もはやものづくりで外貨を稼ぐということではなく、金融資産を豊かにすることで国の富を増やす政策に転換しようとしています。これは、かつての英国など先進国がたどってきた道でもあり、日本も覚悟を持って「貯蓄から投資へ」という資金シフトを実現しなければなりません。
このような社会的な背景を考えた時に、日本の投信市場で足りない商品は、リスクを抑えた「マルチ・アセット(多資産クラスに分散投資するバランス型ファンド)」だと思いました。インフレに負けないで資産を守ることを第一義として、数年先には使うことになるような資金でも安心して投資できるような商品です。それが、新ファンド「フィデリティ・ロイヤル・コア・ファンド」がめざす運用です。
今、一部の若者がネット証券に口座を開いて米国株インデックス「S&P500」に連動するインデックスファンドや新興国も含む全世界(オール・カントリー)の株式インデックスに連動するファンドを使った積立投資が広がっていますが、外国株式のインデックスファンドは、長期の投資期間が必要です。過去10年くらいは、米国株が好調に推移していますので、米株インデックスへの投資に過剰な期待があると思いますが、1960年代〜70年代には米国にも「株式の死」といわれた時代があって15年くらいにわたって株価が横ばいでした。たとえば、今の60代の方が運用を始めて、10年たっても投資資産がマイナスというような状況には耐えられないと思います。「10年投資したのに、結局マイナスリターンだった」という経験をすれば、その方は、二度と投資などしたくないと思ってしまうでしょう。そのような投資とは異なる手段を提供することが重要なのです。
これまでも、ラップ型ファンドで「保守型」「積極型」などいくつかのコースを設けて「マルチ・アセット」の商品が提供されてきました。ただ、これでは、本当は大きなリスクを取ってほしくない方が「積極型」を選ぶことを止めることができません。新ファンドで名付けた「ロイヤル・コア」とは、まさしく「王道」を意味します。特に、退職を控えた60代から退職世代の方々に、安心して投資していただける「王道」を用意し、コアとなる資産を投資していただきたいと考えて設計したファンドです。世界中の様々な資産クラスに分散投資し、外国債券への投資では基本的に為替ヘッジをするなど、徹底的にリスク抑制にこだわった運用で安定的な収益の獲得をめざします。
――ファンドの運用の仕組みは?
高橋 基本的な資産配分比率は、株式25%、債券75%です。これは、日銀が目標としているインフレ率2%を上回るリターンが期待できます。過去20年間でシミュレーションしたところ株式25%、債券75%の比率で年率3.7%のリターンでした。同じ期間に債券100%で運用した場合、年率1.4%のリターンで、株式100%ですと年率7.5%のリターンでしたが、リスクの水準が大きくなりました。
株式100%で運用した場合、たとえば、全世界株式インデックスに投資していたとすると、「リーマンショック」の時にショック前の高値に戻るまでに約4年間が必要でした。この間は、資産は元本を下回る状態が続いていたことになります。ところが、株式25%と債券75%という組み合わせで運用した場合は、約1年間で高値に戻りました。あまりにマイナス評価期間が長くなると、運用を継続することが難しくなってきます。インフレに勝つということに加えて、市場の危機において下落率を抑えるという点からも、株式の組み入れ比率を25%にした基本配分比率は重要だと思います。
新村 米国では多くの国民が401k(企業型確定拠出年金)で資産を作っていますが、企業に勤めている間はほとんどのプランでデフォルト商品(運用先を指定しない場合に自動的に選定される商品)として組み込まれている「ターゲット・デート・ファンド」で運用し、退職後に資金を預け替える先として選ばれる傾向にあるが、「株式20%、債券80%」のマルチ・アセット・ファンドです。一定の資産を作った後で、老後に資産を守りながら運用しようと考えた場合、やはりインフレに勝つことを考えると20%程度は株式で運用することが必要になります。このような退職者の運用に近い資産配分比率を採用しています。
――資産の機動的な配分は、何を根拠に市場の潮流変化を見抜くのですか?
高橋 フィデリティはボトムアップの企業調査で世界の企業を調査・分析し、株式や社債の運用に調査結果を活かしていますが、マルチ・アセットの運用でも同じようにボトムアップの企業調査の結果を活かしています。フィデリティのアナリストは、少なくとも四半期に1回は投資先企業や投資候補先企業で面談調査を実施し、1年間で約1万9000回の面談を行っています。これは、営業日数で割ると1日当たり70件くらいの面談を行って、情報内容を更新し続けているイメージです。
このように世界中の企業調査情報を集約することによってマクロの投資判断に利用ができる独自の指標を作っています。たとえば、グローバルに見て業績が伸びているセクター、あるいは、同一セクターにある企業が国別で業績の好不調があることなど、ボトムアップで積み上げてきた情報を分析することにより、マクロ経済の変化を捉えることが可能になります。
ポートフォリオ・マネージャーは、このようにフィデリティのボトムアップの調査から得られる定量的な指標に加えて、その時々の経済情勢を定性的に分析して「攻めの局面」と「守りの局面」を判断します。「攻めの局面」では株式への投資比率を最大40%程度まで高めて積極的に収益の獲得をめざします。「守りの局面」ではキャッシュ(現金)の比率を高めて資産を価格変動から守ります。
――フィデリティは、株式のアクティブファンドの運用者として世界で高い評価を得ていますが、マルチ・アセットの運用の分野での評価は高いのですか?
高橋 マルチ・アセット運用チームは30年以上の歴史があり、約7兆円(約480億ドル)の資産を運用しています。「フィデリティ・ロイヤル・コア・ファンド」を運用するチームは、運用主担当をロンドンに在籍するサラ・ジェーン・コースレイが務め、共同運用担当者としてシンガポールのイアン・サムソンと東京の白井匡が就きます。主担当のサラは2000年からマルチ・アセットの運用経験があり、白井は約15年、イアンは約10年の経験があります。この3人の運用担当が、フィデリティ・インターナショナルのマルチ・アセット運用チーム100人超のサポートを受けて運用にあたります。
マルチ・アセットのポートフォリオは、基本的に株式25%、債券75%ですが、株式のポートフォリオの中に、先進国株式、新興国株式、業種別株式、また、グロース株式、バリュー株式、大型株式、小型株式、最小分散株式など様々な資産クラスに分散し、債券の他、コモディティ(金、銀、プラチナ、先進国リートなど)も投資対象として、環境の変化にきめ細かく対応してリスクを抑えた運用を行います。
マルチ・アセット運用チームの旗艦ファンドは残高が約9000億円のインカム収益重視で安定運用を行うファンドですが、10年以上のトラックレコードがあって、この間の年率平均リターンはコスト控除後で2.1%になっています。
――非課税期間が無期限の「新NISA」が2024年1月に始まる予定で、長期の資産形成を考える人が増えています。このファンドを資産形成においてどのように使っていくことを想定していますか?
高橋 当ファンドの基本的な資産配分で、月次にリバランスして運用したシミュレーションでは、2003年4月末を100とすると、20年後の2023年4月末に200超の成績になります。20年で資産価値が2倍になりました。ここに年率2%のインフレ率で物価の上昇推移を重ねると、物価は20年間で100が150に50%上昇することになります。もし、この間をゼロ%金利の預貯金に資金を置いていたら、資産の価値は50%目減りしたということになります。インフレの時代を迎えた今、資金を預貯金で寝かせておくのではなく、しっかりとバランスの取れたマルチ・アセットのファンドで運用することが重要になると思います。
新村 日本の個人金融資産は「バーベル型」をしているといわれます。片方の端に預貯金というリスクのない資産を手厚く保有し、一方の端には、テーマ型の外国株式ファンドのようなリスクの高い資産を手厚く持っています。これからの時代は、「バーベル型」ではなく、もっとバランスの取れたポートフォリオを取り入れるべきだと考えます。
たとえば、積立投資で「S&P500」のインデックスファンドを毎月数万円の積み立てる場合、そのお金は「当面は使う予定のない資金」ということだと思います。預貯金の大半が相当する「いつかは使う資金」は、リスクを抑えた運用をするマルチ・アセットのファンドに投資し、「インフレに負けない運用」を目指す、つまりお金の性質によって、利用するファンドを使い分けるということが、これからの資産形成では非常に重要になってくると思います。
「フィデリティ・ロイヤル・コア・ファンド」は、大きく目減りしては困るような資金をお預かりし、預貯金ではできない「2%のインフレ率を上回るリターン」の獲得をめざすファンドです。ゼロ%金利の預金から100兆円が2%超のリターンをめざすマルチ・アセット・ファンドに移れば、年間で2兆円の金融収入が得られる計算です。これからの日本経済の成長を下支えするのは、このような着実なリターンを得られる資産を増やしていくことが大事だと考えます。ぜひ、「フィデリティ・ロイヤル・コア・ファンド」を資産形成のコアとなるファンドとしてご活用ください。