2023/09/22 10:12
フランスを本拠地とし、世界の企業と比較して日本企業を評価しているコムジェスト・アセットマネジメント代表取締役社長の高橋庸介氏(写真:右)に、ウエルスアドバイザー代表取締役社長の朝倉智也(写真:左)が、コムジェストから見た今後の日本株について話を聞いた。
◆日本企業をグローバルな視点で評価するコムジェスト
朝倉 世界経済が大きな転換期を迎えています。その中で、日本株が世界から注目されるようになってきました。世界を俯瞰して日本株を運用しているコムジェストグループとして、日本株について、どのように見られていますか?
高橋 昨今の日本株の上昇は、海外の短期筋が消去法的に日本株に目を付けたことがきっかけになっていると見ています。私どもは、海外の長期投資家である年金、ファミリーオフィスなどに注目していますが、長期投資家が日本企業の実力に着目し、かつ、評価が低いというところに気付き始めたのは、2023年の春先のことでした。実際に、私どもの日本のオフィスにヨーロッパや中東、南米などの年金のお客様が来日されて、日本での企業調査に同行されるようなケースが増えました。
日本の機関投資家、個人投資家が、この日本株の上昇に乗ることができなかったということはとても残念なことです。
朝倉 海外から日本に投資をされた投資家の方々の反応はいかがですか?
高橋 これまで海外投資家は、日本の企業を見ていないケースが多かったのです。その理由は、1つには、日本の企業の情報発信が不得手ということがあります。英語でのディスクロージャーについても、中国やインドの企業に後れを取っているという部分も多分にあります。
朝倉 コムジェストグループは世界中の投資家の意を受けて日本企業の調査を行っていると聞いていますが、日本株の運用体制について教えてください。
高橋 日本株専任のアナリスト5名の体制です。アナリストはポートフォリオマネージャーも兼務しています。また、6名のグローバル株式チームも日本株を調査していますので、日本企業の調査を担当し、直接企業訪問などをしているのは11名の体制になります。運用チームの規模は決して大きくはありませんが、私どもは投資先を絞り込んで厳選投資をしますので、調査対象の深堀調査は十分にできています。
コムジェストの株式運用は、グローバルに50名体制ですが、これが「ワンチーム」として連携を密にしていること、つまり、真のチーム運用を実践していることが大きな特徴です。5年先の企業利益を予測し、年率2ケタ以上の成長が見込めない場合は投資をしません。
たとえば、ユニクロを展開するファーストリテイリングの場合、5年先の利益を予想するにあたって、国内事業だけを見ていても正しい予測はできません。売り上げのほとんどは海外市場であり、グローバルで競合しているZARAやH&Mなどとの比較が必要です。
私どもはまず、5年先の世界のアパレル市場の見通しをベースに置きますが、その中でファーストリテイリングと共にグローバルトップ3を形成するZARAを展開する業界最大手のスペインのインディティックス、スウェーデンのH&Mの情報が必要です。実はこの2社には、既に欧州株戦略での投資実績があるため、十分な調査・分析が行われており、この情報と日本株チームのファーストリテイリングの調査結果を比較・分析します。さらに、この3社とも、アジアにおける重要市場が中国ですので、中国のアパレル市場の情報が必要になりますが、これは香港にいる中国株チームが現地で調査しています。したがって、中国市場の見通し、3社の業績予想など、あらゆる情報を突き合わせ、比較することで初めて5年後のファーストリテイリングの利益見通しが浮かび上がってきます。このように、米国、欧州、新興国にまたがるグローバルな調査力を結集できることが私どもの強みです。
◆長期にわたって2ケタ成長ができる企業とは?
朝倉 グローバルな運用体制の中で、日本株への投資金額も増えていますが、日本ではどのような企業に投資しているのでしょうか?
高橋 投資対象は、長期的、持続的に2ケタの利益成長が可能であるということが大前提です。この2ケタの利益成長を支えるものとして、資本効率を見ます。たとえば、ROE(自己資本利益率)の水準が高いこと、また、ROIC(投下資本利益率)を見て真の実力を測ります。たとえば、粗利益率8割のキーエンスという企業は、世界でも例のない稀有な企業です。信越化学は、営業利益率が低い傾向にある化学業界において20%台後半の営業利益率をたたき出しています。これら企業には経営の力があります。この他にも、リクルートホールディングス、HOYA、半導体関連企業など、これからの巨大な成長産業に投資しています。
朝倉 調査に当たっては、各社の工場なども見て回るのでしょうか?
高橋 経営者とお会いするのが一番大事なことだと考えています。経営者がどこを見ているのか? 足下のぬかるみ(短期的な決算)ばかりを気にしているような企業には投資しません。長期に明確なビジョンを持って10年先、20年先を考えているような会社に投資します。このような企業こそが、海外の投資家も興味を持つ企業です。それと同時に、経営者のビジョンと工場等で働く従業員が同じベクトルを共有しているかどうかも工場等を訪問することで確認します。
朝倉 グローバルで事業展開する大手企業が中心で中小型企業は調査しないのでしょうか?
高橋 現在のポートフォリオは大型株中心になっていますが、決して中小型株に投資しないわけではありません。あくまでも2ケタの利益成長が見込める企業に投資するというスタンスです。
朝倉 「クオリティ・グロース」という言葉がありますが、コムジェストの考え方に近いのではないでしょうか?
高橋 そうですね。投資先企業の選定基準は、2ケタの利益成長と高い利益率、資本効率のよさといった「質」に着目しています。また、企業のビジネスモデルとして高い参入障壁を持っていることなどが投資する企業を見極めるポイントになります。
◆企業評価と一体化したESG
朝倉 企業を評価する上で、ESG(環境・社会・ガバナンス)、SDGs(持続可能な開発目標)への対応など、非財務情報も重要になってきます。私どもが連携している米モーニングスターの運用会社評価においてコムジェストのESG投資に関する評価はすごく高いのですが、それは、会社全体の文化になっているのですか?
高橋 昨今のESGブームは、私どもからみると、日本においては多少誤解があるのではないかと感じています。そもそも2006年に国連がPRI(責任投資原則)で、企業の持続的な成長を見極めるために、ESGを手段として活用しなさいという指針を示しました。一番大事な目指すべきゴールは、「企業の持続的な成長」です。そことESGは、極めて親和性が高く、長期で持続的な成長を目指す投資においてESGは不可分なものなのです。
長期で成長できる企業は、ガバナンスが効いていないはずはなく、環境に配慮していないはずがないのです。従業員の生産性をいかに高めていくかという点で社会要素は重要です。ESGは、その全てが長期的な企業の持続的成長に合致している項目なのです。
ですから、財務情報を分析することと一体でESGを見ています。たとえば、「S」の部分で、離職率などは財務諸表に出てきませんが、次代を担う30歳代の中堅社員がどんどん辞めていくような会社に長期的な成長はありません。ですから、離職率が上がっているような場合は、その理由をとことん聞いて調べます。改善策も聞きます。これが、長期投資におけるESGの活用です。決して、財務分析とESGは別々なものではないのです。ですから、私どもでは「ESG投資」という言葉を使いません。
朝倉 最後に、お聞きしたいのですが、昨今の投信市場ではパッシブファンドが人気を集めていますが、アクティブファンドの魅力をどのように考えていますか?
高橋 インデックスファンドのようなパッシブ運用の商品が今、人気化して投資家を増やす役割をしてくれていることは好ましいことだと感じています。パッシブファンドを通じて投資に興味を持っていただいた方が、長期的な投資効率を高める上でアクティブファンドをもっとよく知っていただきたいと思います。良いアクティブファンドはあります。
朝倉 アクティブファンドの中で、良い運用会社、良いファンドマネージャーを見極めていくということですね。日本の投資家の方々へのメッセージをお願いします。
高橋 日本の企業には素晴らしい企業がたくさんあります。童話に「青い鳥」の話がありますが、一生懸命によい投資先を探して海外に目を向けられた方も、実は、「青い鳥」である素晴らしい投資対象は、身近なところにあったんだということがあると思います。ぜひ、日本の個人投資家の皆様には日本の素晴らしい企業に目を向けていただきたいと思っています。