2023/10/10 11:06
「ノムラ・ジャパン・オープン」に資金流入が続き、純資産総額が1000億円の大台に迫ってきた。同ファンドの残高が1000億円に乗せると、2008年8月以来、約15年ぶりのことになる。多くの日本株アクティブファンドの中でも、同ファンドが強い支持を集めている理由はどこにあるのだろうか? 同ファンドの魅力について、野村アセットマネジメントのシニア・プロダクト・マネージャーの阪上雄貴氏(写真)に聞いた。
――「ノムラ・ジャパン・オープン」が復調した背景は?
市況の変化とファンド運用面の変化という2つの側面があると思います。市況面の変化とは、約40年間にわたって続いてきた「デフレ(物価下落)」の環境が転換し、「インフレ(物価上昇)」が期待できるようになってきました。インフレの要因は、円安を中心として原油高等の商品市況の高騰による外部要因が大きいのですが、この原材料高に対し、企業が値上げできるような環境になっていることが大きな変化だといえます。
当社では、2022年4月に「プロジェクトブリッジ(Project BRIDGE)」を立ち上げ、内外の投資家に対して日本株式の魅力を訴える運動を始めました。プロジェクト開始当時は、国内の個人投資家の方々も含め、ほとんどの投資家が米国のGAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト)に代表される米国テクノロジー株に注目し、日本株は見向きもされていませんでした。しかし、2012年のアベノミクス以降10年間の日本株市場のパフォーマンスは、米国株式市場と比較してもそん色のないパフォーマンスを残していたのです。
そして、日本株は1980年代後半のバブル期には企業利益に対して、行き過ぎた株高といえましたが、90年代の調整を経て2000年代前半頃からは、企業の利益成長に連動して動く、一般的な市場になっていました。日本企業の利益(東証株価指数TOPIXのEPS=1株当たり利益)は2013年頃から拡大基調が続き、2023年末、2024年末と過去最高益を更新する見通しです。もっと日本株が評価されていいはずだという思いを世界の投資家の方々に届ける運動が「プロジェクトブリッジ」なのです。
また、日本株全体(TOPIX)では米国「S&P500」に見劣りするパフォーマンスだったにしても、ROE(株主資本利益率)が12%以上の企業だけをピックアップしてポートフォリオを作ると、米国株(S&P500)とも遜色なく、かつ、株価の水準もPER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)などで割安な水準にあるなど、日本株が非常に魅力的な投資対象になっています。
一方、ファンドの運用面では、2022年4月に当ファンドの主担当を福田泰之が引き継ぎました。福田は、「情報エレクトロニクスファンド」、「小型ブルーチップオープン」、また、野村SMA(エグゼクティブ・ラップ)向けの「野村セレクト・オポチュニティ」のマザーファンドの運用等で実績のある当社屈指の日本株アクティブ運用者の1人です。
「ノムラ・ジャパン・オープン」は当社の旗艦ファンドとして長い歴史のある個人投資家向けの公募投信です。主たる投資対象を企業の規模(大型・小型など)や業種、あるいは、投資テーマを限定することなく、かつ、投資スタイルもグロース(成長株)やバリュー(割安株)などに特定せず運用しています。このような運用を「コア型」と呼んでいます。
「ノムラ・ジャパン・オープン」は1996年2月の設定で、1999年末に残高が約4000億円まで拡大したことがありましたが、その後は基準価額が低迷したこともあって、残高は300億円を下回るような時代が続いていました。それが、福田が担当し始めた頃から基準価額が反転上昇に転じ、2022年10月からは資金流入も目立ってきました。ちょうど、福田が担当し始めるとともに、日本株も上昇し始めたということも重なって、ファンド残高が再び1000億円の大台をうかがえるまでになってきたと思います。
――ファンドの運用コンセプトは、「変化」を投資軸とし、「臨機応変」と「メリハリ」を特徴としているということですが、ファンドが注目する「変化」とは?
福田の運用の特徴として、業績悪化などの悪材料によって株価が下落し、それ以上の下値はないというくらいに株価が下がってしまった企業を「見捨てられた企業」といって注目しています。その見捨てられた状態から、経営者の交代や新分野への進出などによって会社が大きく変わるタイミングを狙って投資することがあります。
業績好調な企業が、そこからさらに成長することは至難のことです。利益率15%の企業が、翌年は20%になることは非常に難しいといえます。しかし、業績が低迷し、利益率1%程度の企業が、翌年に3%となれば、その変化率は3倍ということになります。よい企業がより良くなるよりも変化率はよほど大きくなります。
このような銘柄選択をしていることもあって、福田の運用するファンドでは株価の下落局面で下押しが小さく、上昇局面では市場平均を上回る上昇率を稼ぐという傾向があります。
――「臨機応変」とは、具体的にどのような行動なのですか?
福田が担当してからの当ファンドの組み入れ上位銘柄の変化をみると、たとえば、2023年2月末現在の組み入れ上位10銘柄には、メガバンク2グループが入り、セクターとして銀行業をポートフォリオ全体の10.7%保有していました。当時は日銀総裁の交代が予定され、金融政策の変更が期待されていました。超低金利で厳しい経営を強いられてきた銀行に復調の期待が持てたのです。
ところが、3月に米国でシリコンバレーバンクという地方銀行が経営破たんし、銀行業に対する見方が急速に悪くなりました。このため、銀行株は売買益が得られる水準に値上がりしていたこともあって3月に大きく売却し、代わりに、半導体関連株を追加購入しました。半導体関連市況の一部が出直ってきていることが確認できたため、半導体関連企業の業績が上向くことが予見できたためです。
このように、その時々の経済や市況の環境に応じて柔軟に組み入れ銘柄を入れ替えています。「コア型」の運用ですので、運用担当者が最善と考えるポートフォリオを常に維持するように大胆に組み入れ銘柄を変更することも特徴の1つです。
――このファンドの投資行動として「メリハリ」がわかる事例は?
野球で3割を打てるバッターが少ないように、幅広い銘柄に分散投資しても、投資先の企業が狙い通りに値上がりするというものではありません。打率をかさ上げしようとするより、当たった時の飛距離を伸ばすことを考えています。飛距離を伸ばす工夫が、変化率の大きな企業を探していることと、確信度の高い銘柄については、思い切って投資比率を高めることです。
たとえば、2023年8月に組み入れ上位銘柄の第2位にトヨタ自動車が入りました。これまで日本の自動車メーカーは、電気自動車(EV)の開発で中国企業等に置いて行かれているという見方が強かったのですが、このほどトヨタが「全固体電池」を搭載するEVを2027〜28年に実用化をめざすという意欲的な計画を打ち出したことで、トヨタの変化への期待が大きく高まったため、組み入れを強化しました。国内株のアクティブファンドで、今の段階でトヨタにこれほどの投資比率を持っているファンドはないと思います。
――コア型の運用は、運用担当者の裁量が運用に活かされる点が特徴ではありますが、運用の主担当が事故に遭って不在になれば、運用が一気に崩れるというリスクがあるように感じますが、その備えは?
当ファンドは、他ファンド担当者も含めて7人の体制でチーム運用を行うことで、運用の継続性を担保しています。福田は大変優秀な運用者ですが、生身の人間ですので、福田が不在でも当面の運用に困ることがないように、副担当を置くとともに、ジュニア・ファンドマネージャーも含めて運用にあたっています。この7人の間のミーティングは頻繁に行われ、福田は他者の意見にも真剣に耳を傾け、良いアイデアは躊躇なく採用しています。
また、国内株のアナリストは福田のチームだけではなく、当社の株式運用チームの共有のプラットフォームになっています。運用担当者が銘柄選定のベースにしている企業業績見通しなどは全社で共通のプラットフォームを使っています。
――日本株は長らく低迷の時期がありましたので、実際に日本株ファンドに投資するのをためらう投資家が少なくないと思いますが、今後も日本株に投資する魅力はあるのでしょうか?
一般に資産運用をしている世界の投資家には「ホーム・カントリー・バイアス」があって、自国の資産を手厚く持つ傾向がありますが、日本の投資家は、これが逆で日本の資産をあまり保有せず、米国をはじめとした海外の資産を手厚く持っていると思います。この現状を見直す時ではないでしょうか? 40年ぶりのインフレが見直しのきっかけになると思います。
日本への投資を考える時、多くの方々が日本は人口減少社会で、今後、国内経済の発展は望みにくいと考えると思います。実際に、人口そのものは減り続け、労働力さえも減って人手不足が深刻になってきています。労働人口が減るということは、1人当たりの給与が上がるということにつながります。インフレに対して給与を上げて国民の生活水準を維持し、給与が上がることによってインフレでもモノやサービスが売れ、企業業績が上がりやすくなる経済に変わりつつあります。過去最高益を塗り替えていくような日本企業の利益成長が、今後も日本株の支えになっていきます。
また、世界の株式市場の中で、日本株市場はアクティブファンドがインデックスに勝ちやすい市場になっています。この背景の1つには、国内に進出していた大手の海外運用会社が相次いで日本株運用から撤退していったという事実があります。日本株担当のアナリストが減り、アナリストがカバーする銘柄が減少することは、魅力的な銘柄を発掘できるチャンスが増えることにつながります。
日本株は依然として相対的に割安であり、魅力的な銘柄が数多く存在します。このファンドは、来年1月からの新NISAの「成長投資枠」の対象ファンドにもなります。中長期の資産形成の手段としてご活用いただきたいと思います。