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2023/10/16 17:24
米国や欧州の経済見通しが不透明となり、2024年にはリセッション(景気後退)入りするのではないかという見通しが強まると株価が大きく下落するという動きが続いている。欧米の中央銀行は、歴史的なスピードで引き上げた政策金利の利上げサイクルの最終局面に入っているとみられ、景気を過度に冷やすことのないタイミングで利上げの停止がいつになるのか注目されている。このように先行きの不透明感が強い時には、何かのきっかけで株価が大きく下落することがある。当面は、投資には慎重な姿勢で臨み、資産を分散することによって株価のショック安に備えることが重要だろう。株式を主たる投資対象として保有している投資家は、株価の動きとは異なる理由で価格が変動する資産を、ポートフォリオの一部に加えておきたい。その候補になるのが、「金(ゴールド)」、「原油」などのコモディティ(商品)だ。 過去3年間では、「原油」に投資するファンドのパフォーマンスが極めて優れている。たとえば、原油先物指数に連動する運用成果をめざす「UBS 原油先物ファンド」の3年(年率)トータルリターン(2023年9月末基準)は54.59%になっている。これは、同期間の全世界株式インデックス(MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス配当込み、円ベース)の20.70%、米「S&P500」の24.08%、そして、日本の「TOPIX(東証株価指数)」の12.65%を大幅に上回っている。 2020年のコロナ・パンデミックで原油価格は1バレル=20ドルを大きく割り込む水準にまで下落したものの、その後、世界経済が再開する中で徐々に価格を戻し、加えて、ウクライナ紛争など地政学的なリスクの高まりとともに、2022年には1バレル=100ドルを超える価格に上昇し、近頃再び90ドルを超える原油高になっている。わずか3年の間に、20ドルの価格が100ドルを超えるとは5倍以上に値上がりしたということであり、これは、調子が良かった米国株式の上昇率をも大幅に上回っている。 原油価格の動向は、基本的には世界の経済が良好な折には原油の需要も増大し価格も上がるという流れで考えればよいものの、主要な産出国が紛争の絶えない中東やロシアなどに偏在していることもあって、地域紛争などの影響で価格が大きく動くことが少なくない。また、石油輸出国機構(OPEC)による生産調整を巡る交渉によっても動くことがある。株式市場が基本的には企業業績の見通しによって動いていることと、原油価格が動くきっかけは直接関係していない。原油は、今のところ世界のエネルギー源としての存在感が大きいため、原油価格の動きと企業業績はつながっているものではあるが、その動くタイミングと動く大きさには相関関係が低い。 一方、「原油」に並ぶコモディティの投資対象である「金(ゴールド)」は、過去3年(年率)トータルリターンがマイナス0.52%とほぼ横ばいだった。「金」の値動きも株式とは異なる値動きを続けていることがわかる。過去3年間にわたって、株式は緩やかな右肩上がりの値動きを続けてきた。この間に、「金」は小さな値幅の中で横ばいを続けるうごきだった。「原油」が結果的に大きなリターンをたたき出したことと比べると、「金」は一見すると投資する価値がなかったように見えるが、株式とは明らかに異なる値動きをしていることに価値がある。今後、株価が大きく下げる時に大きく値上がりするようなことになるかもしれない。 伝統的には、「株式」と「債券」が異なる値動きをする資産だったため、多くの投資信託で、「株式」と「債券」に同時に投資するバランス型の運用が採用されている。しかし、近年は「株式」と「債券」の値動きが同調する傾向が強くなり、伝統的な分散投資の手法では「株式」が下落する影響を抑える効果が薄くなってきているようだ。現在の市場の見通しでは、2024年は欧米がリセッション(景気後退)に陥る可能性があるとされている。浅いリセッションであれば良いが、想定以上の深い景気の落ち込みとなった場合は、株価も大きな調整安になる可能性がある。「債券」が十分なリスクヘッジの手段として期待できないのであれえば、「原油」や「金」をポートフォリオに加えることも検討したい。「債券」や「株式」と比較して、「原油」や「金」というコモディティは、利息や配当を生まないというデメリットがある。価格変動のみが収益の源泉であり、保有資産の大半を投資できるような資産とは言い難い。資産を守る保険のつもりで、投資資産の一部を振り向けるような投資を検討したい。(グラフは、「UBS 原油先物ファンド」と主要インデックスの推移)
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