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2023/11/13 18:12
社会保障審議会企業年金・個人年金部会が11月13日に開催され、「加入者のための企業年金の見える化」をテーマに議論した。DB(確定給付企業年金)など企業年金の運用状況の「見える化」については、平行して議論が進む「資産運用立国について」の対策会議でも「アセットオーナーシップ」の方向性の一環としても議論されている。資産運用立国を巡る議論では、企業年金の運用状況について「海外の例も参考にしつつ、加入者が他社と比較できるよう、資産運用状況に関する情報開示を進めるべき」という意見がでているが、参加した企業からは「DBなどは退職給付制度の一環で人事政策として戦略的に取り組んでいる部分がある。年金財政の状況や運用方針は各社バラバラの状態であり、運用利回り等の数値だけを横比較されても加入者にとって意味のある情報とはいえない。あくまでも従業員に約束した給付水準を支給できるのかという点が重要であって、運用利回りが高い方が良いというものではない」という意見が繰り返し出された。「見える化」といっても「誰のため、何のための見える化」であるのか、目的や対象を明確にした議論が重要との見方で一致している。 運用状況等の「見える化」については、企業年金・個人年金部会では過去の議論を通じて何度となく開示内容や開示方法について意見が出され、開示内容の拡充と分かりやすい開示の仕方について改善が図られてきた。委員の間からは、「開示が必要と考えられる情報については、概ね情報は開示されていると考えられる」という指摘があった。問題は、「必要な情報が必要な時に入手しやすい場所にあるのか?」という点にある。また、情報に関しては「周知することが重要だと考えられているが、必ずしも広くあまねく周知する必要のない情報もある。たとえば、DBの運用利回りについての情報などは、厚生労働省で毎年報告を受けているのであるから、それらを集計して企業規模ごとの数値をまとめて公表するなど、情報提供の方法について整理すれば良いのではないか」という意見もあった。 DBの運用に関する情報は、事業主が事業年度ごとに厚労省に「DBに係る事業及び決算に関する報告書」を提出し、その報告において、政策的資産構成割合等、期待収益率、リスク、予定利率、調整率、資産別残高、運用期間別資産残高等、総幹事会社名、運用コンサルタント会社名などの情報を得ている。また、決算について貸借対照表や損益計算書だけでなく、積立金の額と責任準備金の額、及び、最低積立準備額、並びに、積立上限額との比較、並びに、積立金の積立に必要となる掛金の額を示した書類も受け取っている。 一方、米国ではERISA法に基づき、企業年金の運用状況等を含む年次報告書が労働省のウェブサイト上で公開されている。公開内容については、運用に係る資産の構成割合などは加入者が1000人以上の場合に限定するなど、規模等によって開示内容に違いがある。これに対し、日本においては、事業主・基金から厚労省が報告を受けているものの情報公開は義務付けられていない。事業主。基金は加入者に対し通知、または、周知が義務付けられているが、情報公開の義務はない。この日米の情報開示姿勢の違いは、「アメリカは秘匿すべき内容以外は公表することを基本にしている」という文化的な背景の違いと説明された。これに対して委員からは「カナダでは、監督局が統計処理した情報を公開するなどより簡易な情報公開がなされている。参考とするのであれば米国以外の状況についても参考にすべき」との意見が出された。 また、運用責任を個人で負うDC(確定拠出年金)については、運用商品等の情報開示については整備が進んだ状況にある。ただ、実際の運用状況では米欧と比較して日本では「元本確保型商品」での運用が非常に多くの比率を占めるなど、改善の余地が大きいと考えられている。このため、「情報開示や情報提供については、投資教育の充実と一体として考え、実際の投資行動に有益な情報提供ができているかという視点で考える必要がある」との指摘があった。企業型DCにおいて、「元本確保型(預貯金・保険)」のみで運用している加入者の割合は依然として約3割にのぼるというデータもあり、インフレ等によって将来の年金の受給額が十分な価値で確保できない状況(ゼロ%利回りの元本確保型の運用では運用成果が実質的に積立元本より目減りする結果になることも)が懸念されている。 「資産運用立国について」の議論は、年内に政策プランを策定することをめざした議論になっているが、企業年金・個人年金部会では、年金制度改定に向けた議論を継続することにしている。(イメージ写真提供:123RF)
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