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2023/11/17 19:03
今年10月23日に新規設定された「ドナルド・スミス米国ディープ・バリュー株式ファンド Bコース(為替ヘッジなし)」は、設定額が約385億円と比較的大きかったが、その後、基準価額が上昇していることもあって設定から1カ月足らずで純資産残高は520億円を超える水準になった。昨年来、世界の金利水準が上がったことで「バリュー株(割安株)」への人気が強まっている。金利上昇期にはバリュー株が活躍するとの経験則のままに「バリュー株相場」になっているためだ。現在は、米国や欧州では引き上げた金利について、いつまで金利水準を維持し、いつから金利を引き下げるのかということが議論されている。景気が大きく加速するようなことがなければ「グロース株の復活」とはいかないだろうが、過去の株式市場の歴史は「バリュー」と「グロース」が交互に市場をリードしてきた。バリュー相場からグロース相場への転換のタイミングを計ることは難しい。両方のファンドを保有するような対応も1つの方法だろう。 2023年10月末現在で過去1年間のトータルリターンの上位をみると、日本株ファンドではトップにETFの「(NEXT FUNDS)銀行上場投信」が入り、第3位に「日本製鉄グループ株式オープン」、第5位に「日経平均高配当利回り株ファンド」など、銀行や鉄鋼などの景気敏感株や「高配当」などバリュー株の性格を持った投資対象に投資するファンドが並んでいる。一方、国際株式型ではトップが「iFreeNEXT FANG+インデックス」で第3位に「野村 世界業種別投資シリーズ(半導体)」、第6位に「ニッセイ 新興国テクノロジー関連株式(資産成長型)」などグロース系のファンドが並んでいる。これは、過去数年間のグロース株ファンドのパフォーマンスの出方が大きかったために、「グロース」から「バリュー」の流れがランキング上は分かりにくくなっている部分がある。 そこで、国際株式型のファンドでバリュー投資で歴史のある「グローバル・バリュー(確定拠出年金)」とグロース株投資で歴史のある「アライアンス・バーンスタイン・グローバル・グロース・オポチュニティーズDCつみたて」の基準価額の動きを過去10年間で振り返ってみた。そうすると、2016年から2018年は株価下落への抵抗力が強いという性格が活きて「グローバル・バリュー」のパフォーマンスが優れていたものの、2020年3月の「コロナ・ショック」後の立ち直り局面では「アライアンス・バーンスタイン・グローバル・グロース・オポチュニティーズ」の値上がり率の大きさがわかる。しかし、グロース株ファンドは2022年11月をピークにして上昇が頭打ちとなり、2022年3月を底にバリュー株ファンド優位な展開になっていることがわかる。 この2つのファンドのパフォーマンスを振り返ると明らかなように、「グロース」と「バリュー」で、どちらが優位かということは言い難い。今回比較した2ファンドは20年以上の運用実績があり、比較可能な2002年6月18日から2023年10月31日までの20年余りの期間をとってみると、グロース株ファンドが設定から基準価額が3,3倍になったことに対し、グロース株ファンドは4.2倍になった。ただ、これは今回選んだ2つのファンドの成績の違いということに過ぎない。当然、バリュー株ファンドがピークをつけた2021年11月時点で比較すればグロース株の方が優位という結果になっている。どこから、どこまでの期間で比較するかということでも「バリュー株ファンド」と「グロース株ファンド」の優劣は違って見えるため、「グロース」か「バリュー」かということを決めつけて判断しない方が良いと考えられる。 中長期の資産形成を考える場合、「株式」を投資対象に選ぶことは重要な選択といえる。「株式」は自ら成長することによって企業価値、すなわち、株価を高める性格をもった資産だ。もちろん、そのすべての株式が成長を成し遂げるわけではない。株式にインデックスファンドで投資する場合は、そのインデックスを組成している会社が、インデックス採用銘柄の選定を行っている。アクティブファンドの場合は、そのファンドを運用する会社が個別銘柄の調査・分析をして存続ができないであろう企業を排除している。さらに、「ファンド(投資信託)」という形になった段階で、少なくとも数十銘柄、多い時には数百、数千という銘柄に分散投資しているため、その中から突然経営破たんする企業が表われても、ファンド全体に与える影響は抑えられる仕組みだ。 そして、株式に投資する場合、可能であれば、「バリュー」と「グロース」という異なる投資スタイルのファンドを同時に保有するような投資方法を考えたい。「バリュー」と「グロース」では、その活躍のタイミングがずれているため、その両方を持っていれば、現金が必要になってファンドを一部解約する時に、その解約のタイミングで優れたパフォーマンスをあげているファンドを解約すればよいということになる。そうすることで、解約のタイミングを選ぶ必要がなくなる。「グロース」と「バリュー」を同時に持つことによって株式の成長による投資収益を獲得しつつ、タイミングを選ばずにいつでも解約して現金化できるという安心感につながるのではないだろうか。安心して長期にファンドを保有し続ける工夫をしていきたい。(グラフは、長期の運用実績のある「バリュー」と「グロース」ファンドのパフォーマンス推移)
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