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2023/11/24 18:12
フィデリティ・インターナショナルは、自然喪失(Nature Loss)を食い止めるための取り組みについて「サステナブル投資」において重要な優先事項の一つと位置づけ、自然喪失への対応をさらに前進させるため、「ネイチャー・ロードマップ(Nature Roadmap)」を発表した。特に、世界的に進んでいる「森林破壊」について緊急性のある課題と位置付けて、投資先企業とのエンゲージメント(建設的な対話)に力を入れている。日本においては「ESG(環境・社会・ガバナンス)投資」は、一種のブームのように盛り上がって今は下火になっているが、グローバルな投資家の間では依然として強い関心のある取り組みとして根付いてきている。日本においても、改めて「ESG投資」や「サステナブル投資」について見直しが進むことを期待したい。 世界経済フォーラムによると、自然の喪失は今後10年間に人類が直面する最も深刻なリスクの一つであり、重大なシステミックリスクと考えられている。フィデリティは、今後数年間で「ネイチャー・ポジティブ」(生物多様性の喪失を食い止め、回復させていくこと)は新しい「ネット・ゼロ」になると考え、「ネイチャー・ロードマップ」を策定し取り組みを強化する。 そのロードマップは、スチュワードシップのプロセスに自然喪失を阻止する取り組みを統合させるためのアプローチをとるなど、自然関連のリスク管理と機会などについて一連のアクションにつながっている。たとえば、自然関連を含む持続可能性に関連する課題のガバナンスとその監視を行う。また、ESG評価、持続可能な開発目標(SDGs)ツール、気候評価を含む独自の環境・社会・ガバナンス(ESG)ツールに「自然」を統合するとともに、自然に関連する影響、依存関係、関連するリスクと機会のインテグレーションを強化する。さらに、スチュワードシップと議決権行使における自然関連を取り入れる。そして、ポリシー・エンゲージメント(政策立案者や規制当局に対する働きかけ)とシステム全体にかかるスチュワードシップ問題解決のための議決権行使を検討するなど。 フィデリティはCOP26において、2025年までに森林破壊リスクのある農産物による森林破壊活動を排除するという目標に向けて、エンゲージメントを通じて最善を尽くすとし、「農産物生産による森林破壊を防止する金融機関のコミットメントレター」にも署名した。 フィデリティ・インターナショナルのチーフ・サステナビリティ・オフィサーであるジェン・ホイ・タン氏は、「自然資本の喪失は資本市場にとってシステミック(組織的な)リスクであり、そのため、生物多様性と生態系の健全性と保全を優先することが不可欠です。私たちの『ネイチャー・ロードマップ』は、森林破壊の議決権行使ガイドラインの適用とともに、自然資本保全への私たちのコミットメントを示し、私たちが選択したアプローチを示し、投資と管理プロセスに自然を統合するために私たちが自由に使える幅広いツールを明確に示しています」と語っている。 一方、日本においても、もっとも重要なテーマのひとつは森林破壊に関連するリスクであるとしている。日本では、直接的な森林破壊活動が少ないため、そのリスクはまだ顕在化されていない。自動車メーカー、コンビニ小売、飲料会社、銀行などの金融機関もリスク抵触の精査の対象だが、「ほとんどの企業がサプライチェーンの川下で事業を展開している日本では、この問題はまだ認識され始めたばかり」とする。たとえば、アジアではインドネシアにおけるパーム油の生産が、森林破壊に直接つながる脅威として認識され、パーム油の主要な輸入国である中国において、この問題を議論する動きが強まっているが、日本国内においては、そのような事例が少ない。 このため、フィデリティ投信のエンゲージメント・アナリストの村田裕香氏は、「私たちは対話を通じて、企業にサプライチェーンを精査し、トレーサビリティを向上させるように促しています。その結果として投資家が適切に自然関連リスクを評価するために必要な情報開示についても改善されることをめざしています。また、大手企業を介して、変化を起こすうえで影響力の大きい生産者や商社にも問題意識が共有されることを期待しています」と語っている。たとえば、国内の大手食品メーカーとのエンゲージメントにおいて、グローバルな食品企業の取り組みを紹介したところ、非常に強い興味を持たれ、具体的な企業戦略として森林破壊などの自然環境を保護する活動の検討が進むようになるなど、個々の企業との対話によって変化のうねりが起きつつあると語っている。(イメージ写真提供:123RF)
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