2023/12/13 14:09
「フィデリティ・Jリート・アクティブ・ファンド」は、過去10年(年率)トータルリターンが7.57%と、国内リートカテゴリーの平均5.84%を大きく上回り、過去5年、3年、1年と、どの期間をとってもカテゴリー平均を上回る安定した好成績を残している。同ファンドの運用を担当するフィデリティ投信のポートフォリオマネージャーの村井晶彦氏(写真)は、「新NISAを使って始める中長期の資産形成には、リートの活用は重要な意味がある」と語っている。村井氏に、リート投資の魅力について聞いた。
――TOPIXなどと比較すると東証REIT指数の動きは過去3年間で非常に鈍い。このようなパフォーマンスの差が出てきている理由は?
短期的には長期金利の上昇が影響している。株式の中にも金利上昇に弱い銘柄があるが、リートも金利上昇がマイナスの影響になりやすい性格を持っている。
ただ、金利の見通しは、グローバルで見てピークアウトしている。FRBの「ハイヤー・フォー・ロンガー(より高く、より長く)」の金融政策があってもインフレ率が思ったよりも下がってこなかったため、長期金利水準が上昇していたが、インフレ率が低下してきたことで、長期金利も低下してきている。
そもそも、本来の意味でインフレを定義するのであれば、CPI(消費者物価指数)ではなくマネーサプライの伸びに注目すべきだ。米国では昨年初頭からマネーサプライは既に下がってきていた。市場の変化を本質的に捉えようとしている人たちにとっては、米国のインフレや金利上昇がピークアウトする可能性が高いことはわかっていたことで、実際に、金利が低下する局面でパフォーマンスが良くなる投資対象への資金シフトもおこなってしかるべしである。金利が低下する方向に向かうとリートには追い風になる。
日本の金利は依然として低いままだが、世界の金融市場とつながってもいる。米国の金利のピークアウト感は、日本では長期金利が0.9%台に上昇したものが0.6%台に低下するという動きになった。ただ、米国株などが金利低下を材料に大きく値上がりしたことに対し、Jリートは国内長期金利の低下に反応しなかった。世界的に金利上昇がピークアウトしてきたという環境を織り込んでいないJリートは、いずれ出遅れた分をキャッチアップすることになると考えている。
――Jリート市場の中心的な存在である「オフィス」については、リモートワークの定着によってオフィス需要が減退するのではないかという懸念がある。オフィスREITの低迷が、Jリート市場全体のパフォーマンスを悪化させているのでは? 村井さんは「オフィス」に代わる主役として「物流」に注目しているが、「物流」が「オフィス」に勝るような市場に育つ可能性はあると考えるか?
足元の値動きでは、「オフィス」が上昇し、「物流」が下落するという展開になっている。コロナ禍でリモートワークが一般化してオフィスの需要が減退する中で「オフィス」は大きく下落した。その行き過ぎた下落の巻き返しが起こっている。一方、「物流」は高成長セクターとして位置付けられ、金利低下期に買い上げられていたので、その反動安が起きた。
中長期的にみると、「オフィス」の成長は厳しいものとなり、「物流」との成長格差がますます意識されるようになると思う。市場は、「オフィス」について心配しなさすぎだ。確かに、コロナ期を経てオフィスの空室率の上昇は上げ止まり、賃料の下落も下げ止まってきつつある。しかし、上昇しない長期金利が象徴しているような経済悪化がやってくると、今後は真っ先にオフィススペースの削減を実施するだろう。リーマンショック時以上のマイナスインパクトがオフィスリートには起こる可能性がある。
一方、「物流」は、eコマースの発展による物流拠点の高度化やAI(人工知能)の成長などによるデータセンターの急成長など、今後に楽しみが多いセクターといえる。現在、Jリート市場全体で各種リートのオフィス部分も含めて「オフィス」の占める割合は3分の1程度で、「物流」は20〜25%程度を占めているが、これが近い将来に逆転するようなことは十分に起こり得る。
ただ、「オフィス」が悪いといっても、Jリートが保有するオフィスビルは都心の一等地にあるクオリティの高い物件だ。しかも、リートは不動産のプロが運用し、物件の入れ替えやバリューアップなど、様々な手段で価値の保全を図っている。一般にいわれるようなオフィス不況とは異なる動きをするだろう。それでも現在のバリュエーション(価値評価)は高過ぎるのではないかというのが私の見解だ。
――「フィデリティ・Jリート・アクティブ・ファンド」は、東証REIT指数や他のJリートファンドと比較して優れたパフォーマンスを残している。その理由は?
市場参加者は常になんらかの非合理な行動をとるものであり、価格にゆがみが生じている。その市場のゆがみを合理的に捉えて、冷静に資産価値よりも割高になったものを売って、割安なものを買う。それをコツコツと積み重ねた結果がパフォーマンスになっている。
たとえば、つい2023年11月初めくらいまでには、市場は「ハイヤー・フォー・ロンガー(より高く、より長く)」が続くと考え、金利上昇が続くことに賭けるポジションを取る投資家が多かった。しかし、私はマネーサプライ等の動向を見て、インフレが続くとは思えなかったし、金利もいずれピークアウトする蓋然性も高いという見通しを持っていたため、市場全体の動きとは逆のポジションを取った。その結果、11月には超過リターンが得られた。
――今後、Jリートが株式に勝るパフォーマンスになる可能性があるのだろうか?
ここ3年間くらいのパフォーマンスではJリートは株式に劣後しているが、2003年から過去20年のパフォーマンスでは、東証REIT指数(配当込み)はTOPIX(配当込み)を上回るパフォーマンスを残している。中長期的に考えると、Jリートは非常に魅力的な資産であると考える。
もうひとつ、中長期的な観点で考えれば、ニクソンショックで金(ゴールド)との兌換性を失った通貨(マネー)は、どんどん価値を失ってきている。すなわち、構造的なインフレ(物価上昇)が続いていることを忘れてはならない。世界的な金融緩和を通じて通貨が大量に印刷され市場に流通してきた結果として、ニクソンショックから米ドルの価値は対ゴールドで98%失われたと試算されるほど、通貨の価値は毀損している。
新たな景気悪化に対して通貨価値の更なる毀損を伴う大規模金融緩和を行う可能性は中長期的に高く、そのような金融ショックの時に、頼りになるのは、ゴールド(金)のようにストックの限られた資産だ。そして、その限られた資産に裏付けされた金融商品ということになる。リートが裏付けとしているクオリティの高い不動産は、世界で限られた資産だ。金融ショックが起こった時には、ゴールドと同様に資産を守る重要な役割を担ってくれるだろう。
――来年1月からの新NISAのスタートを機に、資産形成を始める人も少なくないと考えられるが、資産形成においてJリート(Jリートファンド)は、どのような役割が担えるだろうか?
リートは通貨価値が毀損される際、ダウンサイドリスクが小さい資産として頼りになる。「株式60%、債券40%」のポートフォリオが株式と債券が互いの価格変動を補い合うことでスタンダードなポートフォリオとされてきた。しかし、このようなポートフォリオは必ずしも通貨価値の毀損に強いポートフォリオではない。リートは実物資産を裏付けとした強みがある。
通貨価値が毀損していく中では金や不動産のような価値ある実物資産を保有していることが重要だ。たとえば、持ち家がある人に対して賃貸住宅に暮らしている人は、資産形成の以前に実物の不動産を持つということでリートを購入することには意味がある。価値ある実物資産を持つ人と持たざる人の格差が大きく広がるような事態がやってくる可能性がある。常に、そういう不測の事態を意識した運用を続けていただきたい。