前のページに戻る
2023/12/21 18:33
投資信託協会は12月21日、「資産形成学生論文アワード2023年(第1回)」の受賞者を発表した。大学生と大学院生を対象に、「日本の未来を『投資による資産形成』の観点から考えてみませんか?」と呼びかけ、論文の執筆を呼びかけたもの。残念ながら、第1回において最優秀賞は「該当なし」の結果になったが、優秀賞には大阪経済大学の松本航輝さんの「家計の金融資産保有の決定要因〜G7を対象とした国際パネルデータ分析〜」が選ばれ、佳作に筑波大学の岩崎朝妃さんの「高等学校における経済教育と金融リテラシーに関する研究:公民・家庭の教科書分析」が選ばれるなど、ユニークな視点で資産形成を考える論文が集まった。今年始まったばかりのアワードだが、学生の間から資産形成について考えるきっかけを与える取り組みとして、今後の発展が期待される。 優秀賞に選ばれた論文は、G7各国において家計の金融資産の保有比率が異なることに着目し、リスク性資産の保有比率には、どのような要因があるのかをOECDデータを使って分析したもの。先行する研究において、「高学歴な国民が多いほど、リスク資産の保有比率が高まる傾向がある」という事例について検証もしている。 金融庁が発表した「平成28事務年度金融レポート」において、1995年から2015年までの20年間で、アメリカの家計金融資産は3.14倍になったことに対し、日本の家計金融資産は1.51倍の増加に留まっている。その理由が、金融資産に占める投資信託や株式等のリスク資産の保有比率にあるのではないかという指摘があった。実際に、日本の家計の金融資産に占める投資信託の比率は4.4%、株式等は11.0%であり、アメリカの投資信託11.9%、株式等39.4%とは大きな違いがある。この家計の資産構成比の違いに着目し、日本において株式や投資信託等のリスク性資産の保有比率を上げることによる「資産運用立国」をめざそうという動きになってきている。 優秀賞に選ばれた論文は、正に今、金融界が総がかりで取り組んでいる「貯蓄から投資へ」の動きを、いかに加速させるかという課題に正面から挑んだものだった。残念ながら、「分析の内容及び分析結果の提示方法や解釈、また、提言としての具体的な解決策等について改善の余地がある」と判断されて最優秀賞にはならなかったものの、先達の論文等も踏まえた上で、オリジナルな視点で原因究明に取り組んだ姿勢が評価された。 また、佳作に選ばれた論文は、高校の授業で使われている教科書の内容を分析したものだ。学習指導要領の改定によって金融経済教育が高等学校の学習指導要領に盛り込まれたことを受けて、学校での金融教育の現状と課題を教科書の内容から迫った。2024年から始まる新NISAも、「資産運用立国」にしても、その成功の基礎となるのは、金融知識や金融教育の普及であるとされている。学習指導要綱の改定も国策としての金融教育の普及という流れに沿った動きだ。それを教科書の内容を分析するという斬新な手法で行ったことが評価された。 この他、入賞した論文は、「FIRE(Financial Independence=経済的自立、Retire Early=早期退職)を巡る複雑な現実世界を、数理モデルを用いてシミュレーションする」ことに挑んだもの。また、確定拠出年金におけるESGを用いた長期投資について論じたものなど、学生ならではの柔軟な姿勢で金融や資産運用に向き合った論文だった。 2024年1月にスタートする新NISAは、投資収益非課税期間が無期限、かつ、1人当たりの非課税枠は年間360万円で総額1800万円という大きな枠が使える制度になっている。文字通り、「資産運用立国」を支える制度になることが期待されている。新NISAの定着と成長には、20代、30代からの長期にわたる継続投資の普及がポイントと目されている。この論文アワードの目的は、直接、投資行動を促すものではないが、資産運用について早くから関心を持って考えることが、その後の投資行動につながっていく期待がある。アワードへの参加者がより多くなり、息の長い活動として定着することが期待される。(イメージ写真提供:123RF)
ファンドニュース一覧はこちら>>