2023/12/25 17:06
野村アセットマネジメントは12月22日、2024年の証券市場を展望する記者向けセミナーを開催した。「2024年の2大テーマ(マクロ経済、債券市場、日本株市場)」と題して、3つの領域について2つの大きなテーマを設定して、その予想の背景等を解説した。大きな流れとして「米国経済は年前半に一段と減速し、利下げ転換の期待が強まるものの、その到達点は予測しづらい」(チーフ・エコノミストの胡桃澤瑠美氏)とし、債券市場も日本株市場も個別の銘柄選択が重要になるという見通しだった。
マクロ経済の2大テーマについて胡桃澤氏は、「米国の『利下げ到達点』はどうなるか」と「日本の『利上げ到達点』はどうなるか」という2つのポイントを取り上げた。2024年は米国は2022年以来2年間にわたって続けた利上げを転換し、利下げに動き出すとみられ、反対に、日本はマイナス金利政策を転換し、長らく続けてきた超低金利政策を打ち止めてマイナス金利からプラス金利へと利上げに動くタイミングが注目されている。大方の予想は日米ともに年前半に動きがあると予想されているが、胡桃澤氏は「政策転換のタイミングや金利変動幅を事前に予測することが難しい」とし、市場の予測よりも後ずれし、緩やかな変化になる可能性が強いという見方を示した。
たとえば、米国においては、現在のところ利上げ効果が強まって景気減速を示す経済指標が出てきているが、「2024年前半にもう一段の景気減速を予想し、FRBは金融引締め『度合い』を調整するための利下げ局面入りする」という大きな流れは、市場の平均的な見方と一致するものの、「どの程度のスピードで利下げをするのかということは予測が非常に難しい」とした。それは、いわゆる「Rスター(自然利子率)」(経済に対して金融緩和的でも引締的でもない実質利子率)という利下げの到達点を探る際のカギが不明瞭なためという。FOMC参加者の中立金利予想では中央値が2.5%となっているが、この見通しのレンジが徐々に引き上げられる動きにある。ここから、「高インフレを経験したばかりのFRBが慎重な利下げをするのではないか」という見方ができるとした。同社の見通しとして2024年年末のFFレートは市場の織り込みよりも高い水準となる4.5%と置いている。
また、日銀については、1月、または、4月にマイナス0.1%の短期金利をゼロに戻す「マイナス金利解除」に動くという見方が強いものの、胡桃澤氏は政策変更のタイミングを「早くても4月、7月、ないしは、10月になる可能性が強い」と見通している。理由として、米国経済の不確実性が強まっていく中、日銀が年初の早い段階で動き市場が大きく反動した場合などに「日銀の失敗」と捉えられるリスクが高いことなどを挙げた。さらに、政府の「デフレ脱却宣言」に合わせて日銀の政策変更を実施したいという思惑もあるように感じられるとした。ただ、短期金利の引き上げは、住宅ローンの変動金利上昇に繋がり、特に、住宅ローンの負担が大きい30代、40代という若い世代に大きな影響がでる可能性がある。「変動金利型経済」になっていることから、日銀は利上げの影響を慎重に見極めたいという姿勢を強くするのではないかとみていた。
債券市場の2大テーマについてシニア・インベストメント・オフィサーの前田有司氏は、「日銀17年ぶりの利上げの影響」と「国・セクターごとの違いが生じるか」ということをあげた。特に、日銀の利上げについては2007年2月以来の久々の利上げで、当時の市場を知っている市場参加者が少なくなり、市場の反応が予測しづらいこと。また、「マイナス金利からプラスへの変更」であり、市場の動きが大きくなることも考えられるとした。それは、グローバルな機関投資家の中にはマイナス金利の債券には投資しないというルールがある投資家もあり、欧州中央銀行のケースでユーロ圏の金利がプラス圏に復帰することによって債券市場が大きく動いたように、通常とは異なる動きが出やすいとした。また、金融政策で短期金利は上昇するものの、長期金利については「米国は利下げの方向にある中で、日本の金利だけが上昇することは考えにくい」とし「市場の反応を予測することは非常に難しい」と語った。
そして、債券市場の物色動向について、「この2年間は、国債が上昇する場合は、投資適格社債など国債よりも信用リスクが高い債券は国債よりも大きく上昇し、反対に、国債が下落する場合には、国債以外の債券はより大きく下落するという動きだった。しかし、この動きに変化が出て来ると考えている」とした。「深刻な景気後退が視野に入る場合は、企業業績や投資家心理の悪化を通じて社債などは売られやすく国債とのスプレッドが拡大することが考えられる」とし、市場の変化を慎重に見極める姿勢が重要と語った。
最後に、日本株についてシニア・ポートフォリオマネージャーの佐藤智喜氏は、「米国の景気が減速し、日本では利上げが予想される中、日本株式が全体的に上昇するという展開は考えにくい。個別銘柄の格差が大きくなるのではないか」と見通した。そして、その銘柄間格差を大きくする要因として「株主還元」の姿勢が注目されるとし、2大注目ポイントとして「『減益増配』企業が増えるか」と「『累進配当』方針が広がるか」に注目しているとした。佐藤氏は、「配当利回りが高くても将来に業績悪化等で減配懸念があるような企業は敬遠される。配当利回りが高く、かつ、将来的に配当成長が期待できる『好配当企業』こそがこれから期待できる」とした。
佐藤氏は日本企業の配当政策について「1990年代までは『安定配当』が良しとされていた。しかし、2000年代に入ると、企業は業績に応じて増配や減配をするようになった。これには、2001年の商法改正による自己株式取得・保有(金庫株)の解禁、そして、2006年の会社法施行によって三角合併が解禁されたことで外国企業が株式交換によって日本企業を買収することが容易になったことが大きく影響していると考える。買収をされないためには、株価を高くする必要が生まれ、そのために配当利回りを高める増配が活発に行われるようになった」と2000年以降に企業の増配につながるような政策や提言等がなされてきたことを振り返った。この結果、日本企業の配当総額は2000年以降、リーマンショックやコロナショック等で一時的に減額することがあっても相対的に右肩上がりで拡大してきた。
そして、「2023年3月に東証がPBR1倍以下の企業に対し、資本コストや株価を意識した経営を行うよう要請したことで、企業に株価を意識しなければならない時代が再びやって来たことを意識させた。これは、2006年の会社法施行以来のことだ」と解説した。企業収益が伸びた場合は必要な投資をして残った利益は内部留保として積み上げてきた企業は多い。このため、例えば、足元の業績が悪くても内部留保がしっかりある企業は、将来を考えて増配することも考えられる。また、長期にわたって減配せず、配当を維持、あるいは増配する還元方針である「累進配当」という方針を打ち出す企業が増えることも期待される。企業にとっては、長期投資家を株主に迎える大きなチャンスであるとした。(イメージ写真提供:123RF)