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2023/12/26 19:00
2024年の世界市場を展望した時、「GX(グリーントランスフォーメーション)」は大きな潮流になってくる可能性が高い。NHKが「沸騰する地球」という特集を組むほど、地球温暖化は進行し、カーボンニュートラルへの取り組みは「待ったなし」の状況にある。世界的なESG(環境・社会・ガバナンス)投資の視点では、日本は化石燃料(主に石炭と天然ガス)への依存度が高ことから、「気候変動への取り組みに課題がある」と目されてきた。東日本大震災における原発事故の関係で、国内で原子力発電所の再稼働への心理的な抵抗感が強く、化石燃料依存を強めてしまった。しかし、イーストスプリング・インベストメンツは12月に発行したレポートで、「日本のグリーン分野の投資機会は過小評価されている」とESGの視点から日本市場を評価している。 イーストスプリング・インベストメンツのレポートでは、「日本のサステナブル投資残高は、過去5年間で16.4%の年平均成長率(CAGR)を記録した」として、日本市場におけるサステナブル投資の可能性の大きさを強調している。そして、「2050年までに低炭素経済へ移行するという日本の政府と企業の強いコミットメント姿勢は、今後さらなる投資機会を生み出すだろう」(イーストスプリング・インベストメンツ(シンガポール)ポートフォリオ・マネジャーのSam Hoang氏)と、日本市場におけるESG分野での投資拡大が、今後の株価等へのポジティブな影響が出て来ると期待している。 日本でのESG投資の先行者は世界最大級の年金基金である「年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)」だ。2017年度からESG投資を開始し、他の機関投資家もそれに倣うようになった。そして、政府や日本企業は、「G(ガバナンス)」改革に継続的に取り組み、ベストプラクティス(最適な方法)の採用、株式持ち合いの解消、非中核事業の売却などを進めた結果、株主資本利益率の改善が進んだ。加えて、上場企業の女性役員がいない企業の割合は2013年は84%だったが、2022年には18.7%になるなど、女性の登用も進み、政府はプライム市場に上場する企業に対し、2025年までに最低1名の女性取締役を擁し、2030年までに女性役員の割合を30%以上にすることをめざすという目標を設定することで、男女の多様性のさらなる向上に積極的に取り組むんでいる。また、「S(社会)」の面では、日本企業は常に他のステークホルダーの利益を優先するという独自の慣行を守り、良い結果を残してきた。 その中で、世界の潮流から遅れているとみられてきた「E(環境)」の分野でも、2023年2月に「グリーントランスフォーメーション(GX)実現に向けた基本方針」を政府が策定し、2050年までに日本がネットゼロの目標を達成するためのロードマップを示した。2030年までに再生可能エネルギーが電源構成の37%を占める最大の電力供給源となり、温室効果ガス排出量を2013年比で46%削減することを目標に掲げている。そもそも日本企業は、自国の資源の乏しさを考慮し、エネルギー消費の削減とエネルギー効率の最大化に取り組んできた長い歴史がある。高い技術力を発揮して低炭素技術分野においても特許の保有件数は世界のトップクラスにあることも事実だ。ただ、韓国や中国などの企業が技術革新のペースを加速させており、「日本企業が国内外で成長機会を獲得するために、これら技術をより迅速に商業化できるのかという点が課題」としている。 イーストスプリング・インベストメンツは、「日本のグリーン分野の投資機会は過小評価されている」として、「炭素回収・貯留」「水素」「燃料電池」などの開発中のものから、「電気自動車」「再生可能エネルギー発電」「エネルギー効率」「汚染防止」「廃棄物処理・管理」「水処理・インフラ」など幅広いセクターに多様なグリーン投資の機会があるとする。 日本の株式市場は、2023年は「コーポレートガバナンスの改善」などが評価され、多くの外国人投資家の資金が流入する結果になった。今回、イーストスプリング・インベストメンツが指摘するように、「E」の分野における日本企業の価値が広く世界の投資家に知れ渡るようになれば、日本市場に対する一段の投資を呼び込む機会になるかもしれない。2024年を前にして、改めて日本株式市場への期待を感じさせるレポートだった。(イメージ写真提供:123RF)
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