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2024/01/18 17:21
日興アセットマネジメントのチーフ・ストラテジストである神山直樹氏が1月18日、メディアを対象としたオンライン勉強会で「グローバル経済・市場の見通しと投資戦略」を語った。神山氏は、2024年の金融市場に対する大きなポイントとして「中央銀行の臆病さ」をあげた。「米国FRBは政策金利の上限金利が年5.5%になった水準から今年は利下げを実施する見通しだが、その利下げのスピードは市場が考えているよりも緩やかで遅いと考える。反対に、日銀は金利を引き上げる立場だが、その利上げのペースも非常にゆっくりしたものになるだろう。その背景には、経済を慎重に見極めようとする中央銀行の臆病な姿勢がある」とした。このような金融政策を受け、市場に台頭している「ゴルディロックス(適温相場)」といえるような動きも考えられ、中でも日本株が最も期待できる市場になると語った。 神山氏は、米国経済について「コロナ前」の水準を大きく上回って拡大している雇用者数や、従来のトレンドを上回って大きく伸びてきた小売売上高などの指標が、徐々に伸び率を鈍化させ「2024年の米国はGDP成長率が年率1.5%程度の横ばい」を想定している。「2四半期続いて成長率がマイナスになるテクニカル・リセッションの可能性は否定しないが、年間の成長率がマイナスに落ち込むようなことは、よほど想定していない変化がなければ考えにくい。大統領選挙でどの候補が勝っても経済市場への影響はほとんどないと考えている」とした。 そして、米FRBは前年比4%台で成長している米国の賃金が3%程度に低下し、それによってインフレ率を3%台から2%程度に引き下げたいと考えているとしながら、「低下してきた賃金の伸び率が、やや下げ止まったように見えることが気がかりで仕方がない」と解説する。米国のインフレ見通しは賃金の上昇率がポイントであり、賃金上昇率が4%程度で横ばいになってしまうと「インフレ高進の再燃が懸念され、利下げに踏み切れない」と読む。ただ、「高い金利を続けていると、米国はリーマンショック後のような1.5%程度のインフレ率に落ち込んで景気が悪化するため、賃金上昇率が3%程度になったら、より思い切った利下げをして政策金利を2.5%程度に抑える必要がある。賃金やその他の経済指標を見ながら政策金利のコントロールに神経質になっている」とみている。それが、結果的にFRBの政策変更を遅れさせるとした。 一方、日本は、インフレ率を2%程度に引き上げて定着させたいと考え、その中で政策金利をマイナスの状態からゼロ%、さらには、プラス圏に引き上げていきたいと考えている。その場合も、賃金の上昇がカギを握っていると解説した。「2023年は物価上昇率が3%程度で、賃金の伸びは2%程度となり、実質的な賃金上昇率はマイナスになった。賃金の引き上げが足りなかったということだが、会社員等の給与でベア(基本給うのベースアップ)といわれる昇給について、労働者を代表する連合がベア3%アップを要求している。これがどの程度まで実現できるかが問われる。ベアが2%台の後半などになれば、2024年はインフレよりも、給与が上がったことが実感できるような1年になるのではないか」と見通した。 また、米国経済が成長の鈍化はあってもマイナスにはならないという「横ばい」の状態であることは日本経済にとっても重要だと説いた。米国経済が景気後退にならないことによって、現在のところリーマンショック前の水準にまで高まっている日本の実質輸出が維持できる見通しとなり、日本の実質輸出が低迷していた期間に抱えてきた「ヒト・モノ・カネの余剰」という問題が「不足」に転換し、これによって「インフレ経済を定着させることが可能になる」と期待している。「現在は、外需産業と内需産業の間でヒトの争奪戦が起きていて、外食産業などではパートやアルバイトの時給を引き上げて募集しても人が集まらず人手不足が解消しない」という状況だ。2023年はパートやアルバイトといった非正規雇用の賃金上昇が著しく進んだが、春闘などを通じて正社員の賃金の引き上げが実施されれば、日本にも賃金上昇によるインフレが定着する好循環が生まれるとする。「物価が上がって、それを追いかけて金利が上がっていくというのは望ましい姿だ」として、そのような環境があることによって日本株は一段高が期待できるとした。 日興アセットマネジメントと予想している主要な指標の2024年12月末時点での予想値は、米政策金利(FFレートの誘導目標のレンジの上限)が2023年12月末時点の5.50%から4.75%、日銀の当座預金金利は一部でマイナス0.10%だが、12月末には0.60%と予想している。全世界株指数である「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス」は2023年末の1654ポイントが12月末には1688ポイントと23年末を上回る見通し。米NYダウも23年末の3万7689ドルが12月末には3万8000ドルとみる。そして、日経平均株価は23年末の3万3464円が12月末には3万6500円としている。「日経平均株価が3万8957円の史上最高値を更新するのは日本企業のEPS成長率が今年度に続いて来年度も2ケタで成長するような企業業績の進展を確認する必要がある。2025年に株価の過去最高値更新が実現するというのが自然ではないだろうか。企業が賃金を上げるということは、将来の成長に自信を持っていることの表れであり、今年の春闘から来年の春闘にかけて賃上げの機運が継続することが重要だ」と語っていた。(イメージ写真提供:123RF)
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