2024/03/04 16:18
2024年のインド株市場はどうなるのだろうか? 2023年は中国株市場が低迷する中、インドの株式は2ケタ成長を記録した。2023年11月末現在で、過去1年間のトータルリターン(配当込み、円ベース)は、全世界株式(MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス)が21.38%に対し、新興国株式(MSCIエマージング・マーケッツ)は12.61%で、これは、中国(MSCI中国)が3.54%と不振だったことが響き、インド(MSCIインド)は13.36%を新興国市場のけん引役の1つだった。このインド市場の好調は2024年も続くものなのか、インドで最も長い運用経験を持つUTIアセットマネジメントのヘッド・オブ・エクイティで、「SBI・UTIインドファンド」の運用責任者でもあるアジェイ・ティアギ氏(写真)に聞いた(このインタビューは2023年12月に実施した)。
――「SBI・UTIインドファンド」は好調なパフォーマンスを続けていますが、2023年の年初から運用にプラスに寄与した代表的な銘柄やセクター、それらの株価が上がった理由を教えてください。反対に、運用にマイナスの影響を与えた銘柄やセクターを教えてください。
2023年を振り返ると、ITサービスとヘルスケアの分野への投資がプラスに寄与し、消費サービスとインフラ投資関連がマイナスに働きました。インフラ投資関連は、株価は上がったのですが、当ファンドではそれらの銘柄を保有していなかったので、ベンチマークとの対比でマイナスに寄与することになりました。
ITサービスの分野については、グローバルで人工知能などの分野が大きく成長した流れを反映した動きといえます。インドのITサービス産業は、米国のようなイノベーティブなことを仕掛けていくようなところではなく、確立された技術等を実践に役立つ形で広く普及させるという分野に力があります。
ヘルスケア分野は、国内で医療関係の支出が伸びています。また、いわゆる「チャイナ・プラスワン」で製薬会社が中国製造拠点を中国以外に移そうという動きによって、インドにも拠点を設けるなど恩恵を受けています。
そして、インフラ分野への投資については、当ファンドの基本的な投資姿勢は「ハイクオリティ銘柄に投資する」という考えですので、バランスシートが強固で安定的なキャッシュフローを稼ぎ出すビジネスモデルを持っていることなどをチェックします。インフラ投資関連はシクリカル(政策や景気動向に業績が左右されやすい)銘柄で業績などの中期的な見通しが立てにくく、バランスシートも脆弱な傾向にあるため、投資を避けています。ここ数年間は、過去平均を上回る予算が計上されてインフラ投資が活発に行われたため、足元でインフラ投資関連の株価は大きく上がりましたが、このような勢いは長続きしないと考えています。
――インド株式市場は2018年以降、上昇を続けています。株価が割高になってはいませんか?
インド株式市場はこの5年間ほど上昇を続け、バリュエーション(株価評価水準)は過去10年平均を上回る水準にまで上がっています。今後の成長期待があるため市場全体がオーバーバリューの状態にあるとは思いませんが、一部のセグメントにはかなり割高感があるといえます。ひとつは、ここ急速に値上がりした中小型株です。そして、インフラ関連株も割高な水準にあると思います。インド市場が長い期間にわたって値上がりしてくる中で、足元では出遅れ気味だった中小型株がキャッチアップのために急速に値上がりしたという印象です。市場が上げ潮に乗っている時には、中小型株が上がりやすいという傾向がありますが、市場の上昇力が弱まった時に大きく崩れやすいのも中小型株です。
また、インフラ関連株についても、2023年の政府支出は過去の平均よりも大きな支出になっていましたが、2024年以降は正常化するとみられます。また、これまでのインフラ支出によって道路や港湾は整備され、停電が問題視された電力についてもかなり良い状態になりました。工業生産や人々の生活が困るような停電は起こらなくなっています。インフラ投資に莫大な予算をかける必要はなくなっているのが現実です。
――過去3年ほどを振り返ると「SBI・UTIインドファンド」のトータルリターンが年率19.53%に対し、「SBI・UTIインドインフラ関連株式ファンド」は34.89%と圧倒的に優れた成績になっています。一方で、過去10年という長期でみると、「SBI・UTIインドファンド」が年率16.66%で、「SBI・UTIインドインフラ関連株式ファンド」の同13.06%を上回ります(トータルリターンの実績は2023年11月末時点)。インフラ関連に割高感があるということなので、今後の見通しでは「SBI・UTIインドファンド」の方が良いという考えですか?
はい、そうです。「SBI・UTIインドインフラ関連株式ファンド」はインフラ関連という限られた銘柄群にしか投資しませんが、「SBI・UTIインドファンド」は様々なセクターから魅力的な銘柄を選んで投資しますので、幅広い投資機会を捉えることができます。「SBI・UTIインドファンド」は、インド株投資のフラッグシップとして中長期的な成長が期待できると思います。
――近年、インド株式市場に日本を含む外国からの資金が大量に流入するようになっていますが、その関係でインドの株式市場で選好される銘柄の規模や投資スタイルなどに変化が起きていませんか?
「中小型株」については、インドの個人投資家が好んで投資しています。海外の投資家は、大型株で流動性の高い銘柄を好みますので、その点では海外投資家の参入によって市場の変化は起きつつあるのかもしれません。
ただ、現在のインド株式の保有に占める外国人投資家の比率は20%程度です。インド国内の機関投資家が16%程度、企業のオーナーや親会社、当社のような運用会社が50%程度、残る14%程度がインド国内リテールという比率になっています。
――IMFの成長率予測で、インドは2024年の成長率が6.3%(2023年10月現在、2024年1月に6.5%に上方修正)と主要国が1〜2%程度の低成長が予想される中で抜きん出た成長率になっています。UTIの見通しは? そして、インド株式市場は2024年も堅調に推移すると考えますか?
私たちも2024年のインド経済成長率は6%を超えると予想しています。インフレ率も落ち着いてきているため、株式への投資環境としては良い状況が続くと考えます。ただ、一部のセグメントには割高な水準に買い上げられた銘柄があります。このため、2024年の年初から数カ月にわたって株価は高止まるのではないかとみています。
――インドは2024年4月〜5月に総選挙があります。選挙結果は株式市場に影響するでしょうか?
過去30年間でインドでは4回の政権交代がありましたが、どの政権であっても経済成長率等に大きな変化はありませんでした。これは、インド国内の2大政党といえる現与党のインド人民党(BJP)と野党の国民会議派が、「自由経済」、「市場開放」などの政策で共通した考え方を持っているためです。2024年の選挙によってモディ政権の3期目に入る可能性が高いとみていますが、そうであれば、これまでの経済の高成長が継続するでしょうし、もし、モディ政権を支えるBJPが敗れたとしても、インド経済がそれで変調するような心配はないと考えています。
――2024年は米国がリセッションに陥るのではないかという見方をする運用会社もあり、欧米の先進国の経済は厳しい経済環境を迎えると考えられています。欧米が景気後退になるような局面でもインドの経済は大丈夫でしょうか? インド株式に投資する上でリスクとして意識しておいた方が良い点を教えてください。
米国がリセッション入りするなど西側先進国の経済が厳しい状況に陥ったとしても、インド経済が受ける影響は限定的なものでしょう。インドの株式市場は過去に比べて割高な水準にあるため、株価が上がりにくいということはあるかもしれませんが、大きく崩れる心配はないと考えます。
インドの経済構造が輸出依存ではないからです。インドでは中間層の成長による力強い内需経済が成長してきており、それがインド経済の力強さのベースになっています。
あえて、リスクを考えるのであれば、1つには原油価格の高騰があります。インドは国内需要の80%を輸入しているため、原油価格が1バレル100ドルを超えて上昇するようなことがあれば、インフレの再燃も含めて経済に大きなダメージになる可能性があります。
また、中国との国境近辺での紛争が戦争に発展する可能性もゼロではありません。そして、政府が今の経済改革重視の政策を180度変えてしまうような政策転換を行った場合は、株式市場には大きなダメージになると思います。ただ、これらの懸念は、いずれも実現性の薄いリスクだと考えますので、インド経済や株式市場について悲観的な要素はあまりないと思います。
私が怖れることをあえて言えば、ここ1年〜2年のインド株のパフォーマンスが2024年も続くものと決めつけた投資家が多く存在し、実際のパフォーマンスがその期待に届かなかった時に、投資家が失望してインド株式を売却してしまわないかということです。バリュエーションの調整で2024年の年初から数カ月は市場がもたつく場面があると想定していますが、ここに投資家の失望売りが重なれば、調整局面が長引く可能性があります。
私は、過去13年くらいの間、来日してインド株式市場の魅力を日本の皆様に語ってきていますが、その際に必ず申し上げているのは「5年間くらいの期間で株式に投資なされるのであれば、インドは非常に魅力的な市場です」ということです。私は過去13年間、この言葉を言い続けてきましたが、これは今でも通用すると思っています。これから5年、10年という投資をお考えであれば、インド株式をポートフォリオに加えてください。良い結果が得られると思います。