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2024/03/12 17:06
年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は3月11日、「GPIFの運用機関が考える『重大なESG課題』」を発表した。GPIFはスチュワードシップ活動原則(財産を管理することを任された者=受託者の責任における活動原則)で、運用機関に重大なESG課題について積極的なエンゲージメントを求めており、これを踏まえて、GPIFは毎年、運用機関が考える「重大なESG課題」について確認している。その確認は2018年(債券は2020年から)に始まり、今回で6年目になった。今回の調査対象は、国内株式13機関、外国株式28機関、国内債券14機関、外国債券9機関だった。 ESG課題は、「E(環境)」、「S(社会)」、「G(ガバナンス)」のそれぞれに複数の課題があり、その中で何を重視し「重大なESG課題」として積極的に対話をしていくかということは、その時々の時代背景によっても変化することがあるだろう。ただ、運用を専門とする機関が、最終的には投資先の持続的な成長、企業品質の向上につながると考える項目は、ある程度の共通項はある。今回の調査で、運用機関が重大なESG課題として挙げたのは「気候変動」「情報開示」「ダイバーシティ」という課題だった。 国内株式の運用を委託している運用機関が、今回の調査で「重大なESG課題」として全社が挙げた項目は、「気候変動」「情報開示」「生物多様性」「人権と地域社会」「取締役会構成・評価」「少数株主保護」「資本効率」「ダイバーシティ」「サプライチェーン」「不祥事」だった。この中で、「気候変動」と「情報開示」は、パッシブ運用でもアクティブ運用でも重要な課題にあがった。パッシブ運用者とアクティブ運用者では重視する項目に違いがある。パッシブ運用では、従来から「ダイバーシティ」「サプライチェーン」「人権と地域社会」など「E」や「S」を含む長期的な課題を重大なESG課題として認識していた。今回、新たに「生物多様性」が重大なESG課題に加わった。これは、昨年9月に自然関連財務情報開示タスクフォース(TNFD)の最終提言が公表され、今後、自然関連の情報開示が広がっていく見通しにあることが背景にあると考えられる。 また、アクティブ運用の運用機関では、従来から「取締役会構成・評価」「少数株主保護(政策保有株等)」「資本効率」といった「G」の課題を重大なESG課題と認識する傾向があった。今回も従来と同様の回答になっている。前回調査から「気候変動」と「資本効率」が重大なESG課題と位置付けるようになったが、「資本効率」については、2023年3月に東証から「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応等に関するお願いについて」が公表されたこともあり、今後、企業との対話が進んでいくものと期待される。 一方、外国株式のパッシブ運用機関が挙げる重大なESG課題は5年連続で「気候変動」「ダイバーシティ」「情報開示」になった。これらは、国内株式のパッシブ運用でも重要な課題として認識されている項目で、共通認識になっている。 このような株式運用の運用機関からの答えには共通項が見いだせたが、債券に関しては、全運用機関が一致して重大と考える項目はなかった。債券に関しては、社債投資家として考える重大なESG課題について2020年から確認している。今回の調査で4回目となったが、国内債券では「情報開示」と「気候変動」が重大な課題としての回答率が最も多く、外国債券では「気候変動」が最も多く挙げられた。 GPIFは、投資先および市場全体の持続的成長が運用資産の長期的な投資収益の拡大に必要との考えの下でESGを考慮した投資を行っている。また、このESG投資については、運用委託先の選定のみならず、パッシブ運用における採用するESG指数についても年々改善に向けた取り組みを重ねている。このようなGPIFの運用姿勢は、GPIFが運用を委託する運用機関のみならず、国内の機関投資家にも影響を与えている他、海外の機関投資家からも注目されている。ESGに関しては、「グリーンウォッシュ問題(環境関連への配慮が不十分であるにもかかわらず、環境保全ファンドなどと強弁するファンドがあったこと)」などの影響もあって、投資手法として投資家の関心が低下するようなこともあったが、GPIFのESG投資は検証を重ねながら着実に進展していることがうかがえる。(イメージ写真提供:123RF)
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