2024/03/13 13:51
株式にアクティブで投資する投資信託のだいご味は、市場平均を大きく上回る投資成果をあげることだ。新NISAで得られる投資成果非課税のメリットも、投資信託のリターンが大きい方が大きくなる。2024年1月末現在で、過去10年(年率)トータルリターンが全ファンドでトップの成績は「野村世界業種別投資シリーズ(世界半導体株投資)」だが、この投資信託の運用を担当する野村アセットマネジメントのシニア・ポートフォリオマネージャーの加藤明氏(写真)が担当する「野村グローバルAI関連株式ファンド」も、過去1年間のトータルリターンが66.88%(Bコース)と「S&P500」や「NASDAQ総合」を超える大きな成長を実現している。加藤氏に「半導体とはまた別な魅力的な成長機会がある」というAI関連業界の現状と展望について聞いた。
――「AI(人工知能)」の成長性に着目し、投資対象を「AI関連株」に特化して運用を行う「AI関連株式ファンド」は国内にも複数ありますが、当ファンドの特徴は?
AI関連ファンドというと、IT(情報技術)関連企業を中心にしたポートフォリオになっているケースが多いと思いますが、当ファンドではIT以外の分野でもAIの恩恵が広がっていく業界や産業に幅広く投資しています。このため、IoTやロボット、自動運転等、そして、医療・ヘルスケア関連など、対象とする分野を広くとっていることが特徴です。この結果、2024年1月末現在のポートフォリオに占めるITの組み入れ比率は66.7%で、30%程度はIT以外の分野に投資しています。AIの恩恵が及ぶ様々な関連企業を幅広く投資対象と考えているため、比較的新しい企業も投資ユニバースに入ってきますので、相対的に中小型株の組み入れ比率が高いことも特徴の1つといえます。
新NISAが始まって投資信託を使った資産形成が注目される中、多くの個人投資家の方々が米国の「S&P500」や「全世界株式(オール・カントリー)」という株価指数に連動するインデックスファンドの積立投資を選択なさっていると耳にします。その場合は、実質的な組み入れ上位銘柄は、マイクロソフトやアップル、アマゾンといった、いわゆる「マグニフィセント・セブン」といわれる米国のハイテク大手企業です。これらをコア資産として保有する投資家の方が投資資産を分散する方法としても、当ファンドは投資先が大きく異なるという点で注目していただけると思います。
――新興国を含む世界の上場株式を投資対象としていますが、そもそも新興国に将来有望なAI関連企業は存在するのでしょうか?
新興国の中では、中国はBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)に代表される大手ハイテク企業でAIの開発や活用が活発に行われ、インドでもAI関連で注目の企業が複数あります。また、ブラジルなどの南米は、電子決済が発達していて決済データをAIで分析して様々なサービスにつなげようとする企業があります。現在のAI市場は米国中心であることは間違いないのですが、中長期的なAI市場の発展を展望すると、新興国にも多くの投資機会があると考えています。
――銘柄選定の際に利益成長に着目して銘柄を選ぶということですが、「利益成長」について2ケタ成長、あるいは、業界平均よりも高いなど基準等はありますか?
AIの高い成長期待を背景に、市場平均の売上成長の2倍、もしくは、2倍の利益成長があげられる企業群を選ぶということをベースにしています。AI関連企業は、スタートアップといえるほど若い企業もあり、それらは投資が先行して利益があげづらい企業も含まれますので、利益は出ていなくても売上が市場平均の2倍以上伸びている企業は投資対象に加えるようにしています。
――AIのような最先端の産業では、技術力の評価が難しいと思いますが、どのような体制で調査しているのでしょうか?
東京とニューヨークのグロースチームに所属するアナリストやファンドマネージャーがチームになって調査しています。このチームは、私が担当する「野村世界業種別投資シリーズ(世界半導体株投資)」の調査も担当している同じチームです。AIの技術力やその技術の競争力を判断するのは、様々な情報に基づいた総合的な判断が必要になります。チームは年間で数百社の企業取材や経営者インタビューを繰り返しています。これらの調査結果を持ち寄って、定量的・定性的に成長が確信できる企業を選んでいます。
――ファンドのパフォーマンスを振り返ると、2024年1月末現在で直近1年間ではトータルリターンが66.88%(Bコース)と「S&P500(配当込み・円ベース)」の40.90%や「NASDAQ総合(円ベース)」の53.95%を大きく上回るものの、過去3年(年率)では17.64%と「S&P500」の24.39%や「NASDAQ総合」の17.98%を下回ります。過去5年(年率)でも「S&P500」や「NASDAQ総合」に負けています。AI関連は2021年頃に大いに注目され、2022年11月に公開された「ChatGPT」など生成AIによって再び注目度が高まるなど、業界としての成長・発展に波があるのでしょうか?
2020年から21年の頃に「AI」が投資テーマとして注目された当時は、AI市場にとっては「導入期」といえる状況だったと思います。小売り店舗におけるレジなしの自動精算や防犯画像からの不審者の特定、レントゲン画像解析による病気の発見などAIを使ったサービスが現実の世界で活用され始めた時期です。企業としてAI関連サービスで利益があげられていたわけではなかったとしても、その成長性を評価して株価も上昇するという段階でした。
AIについては、「ディープラーニング」といわれる機械学習手法の進化を背景にAIの実用化が進んだ2015年ごろが、、インターネットビジネスにおける「Windows95」が発売された1995年に相当するといわれています。1995年を「インターネット元年」というように、2015年は「AI元年」といえる年であり、2024年の現在は今まさに「AI導入期」が終わり「AI成長期」の入り口に立っているところだと思います。今後、コンピュータの性能向上やAIソフトウェアの普及に伴って、AI関連ビジネスは私たちの生活シーンのあらゆる場面で普及・拡大していくと考えられます。
――「野村世界業種別投資シリーズ(世界半導体株投資)」と比較すると、当ファンドの基準価額の値動きは穏やかになっています。これは、「半導体」に比べると「AI」の方が緩やかで安定的な成長が見込まれるということでしょうか?
「世界半導体株投資」と「野村グローバルAI関連株式ファンド」のパフォーマンスの違いは、産業の競争力の違いというより、ポートフォリオの特性の違いが表われていると思います。「世界半導体株投資」は、半導体産業という限られた産業に特化したファンドで、2024年1月末時点で組み入れ銘柄数は23銘柄と絞り込んだ厳選投資をしています。また、半導体業界は「シリコンサイクル」といわれる景気の波があるように、景気変動の影響を受けやすい性格があります。半導体の需要そのものは、コンピュータやデータセンターなどの利用拡大に加え、AIやIoT、自動運転など産業分野におけるデータ活用が広がっていくにしたがって、これまでにない大量の需要が発生することが考えられ、非常に大きな成長が期待できる分野です。
一方、「野村グローバルAI関連株式ファンド」は、AI技術が様々な分野で活用されることによる成長をファンドの成長につなげていきます。AIで利用される半導体の開発・製造等に関連する企業も投資対象の1つですし、半導体産業とは直接関係のない、ヘルスケアや資本財サービスといった業種の企業にも投資します。2024年1月末現在の組み入れ銘柄数は42銘柄です。「世界半導体株投資」よりも分散したポートフォリオになっています。AI技術も、今後様々な分野で活用が期待され成長のポテンシャルは非常に大きいと思っています。
ちょうど2つのファンドは、マザーファンドベースでそれぞれが2000億円程度の規模になりました。それぞれ今後の成長期待が大きい分野なので、それぞれのファンドの成長期待に共感していただける投資家の皆様に参加していただいて、両ファンドともに皆様と一緒にどんどん成長していきたいと思います。
――当ファンドの運用方針やポートフォリオ特性等から、ファンドの活用方法についてアイデアはありますか?
昨年1年間のパフォーマンスは、生成AI技術が「ChatGPT」のように実態を伴って立ち上がってきたことを株価が評価したと考えています。今後、5年、10年とAI関連ビジネスは中長期の成長が期待されるので、非常に楽しみなタイミングを迎えていると思います。
今後、先進国での人口減少は必然の動きです。人口が減る社会で、人間が行っていたことを代替するのがAIの役割になります。単純作業はAIに任せて、人間は新しいアイデアを出すなどクリエイティブな作業に集中することで、今後の産業を発展させていくことができると思います。ヘルスケア分野ではAIを使うことで新薬の開発がスピードアップしています。AIの活用は、自動運転や創薬、金融など、データが膨大に集まるところに大きなチャンスがあります。世の中には、AIによってなくなる職業など、AIの発展が人々の生活にマイナスの影響を与えるのではないかという話題がありますが、例えば、パソコンの普及が必ずしも人の職業を奪うことにつながらず、むしろ多くのことをもたらしてくれたように、AIと人間が共存する未来が期待できるのではないでしょうか。
AIは、今後、ありとあらゆる分野で活用が進み、当ファンドが銘柄選定で重視している市場平均の2倍で成長するような企業がたくさん出てきます。非常に高い成長が期待できるAIに投資するこのファンドが、中長期の資産形成の一助となれば嬉しいです。