2024/04/03 12:18
宇宙ビジネスは今、民間によるロケットの打ち上げが活発に繰り広げられ、ロケットや人工衛星の小型・低コスト化が進展している。ちょうど、インターネットが普及し始めた1990年代半ばのIT産業のような黎明期にあるといわれる。東京海上アセットマネジメントが設定・運用している「東京海上・宇宙関連株式ファンド」は、過去1年間のトータルリターンが全世界株式指数「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(配当込み、円ベース)」を超え、大きな成長がいよいよ株価に織り込まれ始めた動きを感じさせた。同ファンドを実質的に運用するヴォヤ・インベストメント・マネジメントのシニア・ポートフォリオ・マネジャーのレイモンド・クーニャ氏(写真)に宇宙産業と同ファンドの運用について聞いた。
――当ファンドは、日本を含む世界の取引所に上場されている株式等の中から、成長が期待される宇宙関連企業の株式等に投資しますが、「宇宙産業」の現状や特徴は?
宇宙関連産業の市場規模は、2022年の約5460億ドルが2030年には1兆ドル超へと拡大することが見込まれ、現在の規模が約2倍に成長することが期待されています。宇宙ビジネスの成長ドライバーは「小型化」、「低コスト化」、そして、「宇宙ビッグデータの解析」という3つの側面があり、今後は成長が加速していくと考えられています。
小型・低コスト化によって、ロケットや衛星の開発期間の短縮化、製造コストの低下が進み、民間の事業者の活躍余地が広がります。そして、衛星の大量生産、大量打ち上げが実現すると、その膨大な宇宙データを解析することで、現在も行われている気候・気象予測の他、各種サプライチェーンの運用を宇宙から監視するなどにおいて様々な宇宙データを活用したビジネスが発展していくと期待されています。
――宇宙開発にはロケットの打ち上げ失敗によって開発が想定以上に長引くリスクなど、事業としてのリスクが大きいようにも感じられますが?
民間宇宙事業者によるロケットの打ち上げ失敗の件が、大きなニュースになりますが、実際には失敗は一部の出来事であり、失敗もまた様々なデータを取得する機会として有益です。ロケットの打ち上げ失敗確率は1%程度という統計があるように、ロケットの打ち上げに失敗するという事例は非常にまれなことなのです。これまでも失敗を重ねながら、着実に打ち上げの実績を重ねており、宇宙ビジネスは実験的な段階を超えて、現実に事業の果実が得られる段階に入ってきていると考えられます。
――当ファンドのポートフォリオの特徴は?
当ファンドでは投資対象を4つのグループに分けています。(1)ロケット・衛星開発製造、打ち上げサービス、(2)宇宙データの利用サービス、(3)宇宙ビジネスを支えるITシステムや宇宙食、保険などの関連ビジネス、(4)宇宙ツアー、宇宙ゴミの除去、宇宙資源開発、宇宙太陽光発電、火星探査など新たな宇宙ビジネスの4つです。このようにビジネスを区分しているのは、宇宙ビジネスの成長・発展の段階に応じて、ポートフォリオの構成を変化させていこうという意図があったためです。
2018年にファンドを設定した当初には、(1)と(2)がポートフォリオ全体の85%程度を占めていました。ロケットを飛ばして衛星を軌道に乗せ、宇宙から送られてくるデータを活用するという宇宙ビジネスのインフラともいえる部分です。この分野は主に伝統的な大企業が担っていて、安定的な業績が期待できる分野です。
そして、時代が進むにつれて、(3)と(4)の分野の比率が高まってきます。この分野こそ、テクノロジーによる創造的破壊が起こるところで、未上場のスタートアップ企業も非常に多く存在します。現在は(3)の分野が急速に伸びているところで、(1)と(2)が50%程度、残りを(3)と(4)で占めるようなポートフォリオ構成になってきました。
(3)と(4)に区分される企業は、売上高やEPS(1株当たり利益)成長率が(1)と(2)のグループより、高い傾向にあります。
(4)は、まだポートフォリオの5%程度を占めるにとどまります。私たちの見通しでは、より高い成長分野にポートフォリオをシフトさせることで、2030年段階で(1)と(2)が各20%、(3)が40%、(4)が20%という構成割合になっているのではないかと考えています。
――実質的に運用を担当するヴォヤ・インベストメント・マネジメントの運用の特徴について教えてください。宇宙関連のファンドを運用するにあたっての強みは?
宇宙関連の投資で強みがあるのは、サンフランシスコに調査・運用の拠点を置く立地が大きなプラスになっています。サンフランシスコは、半導体の一大拠点として知られるシリコンバレーで有名ですが、宇宙関連のスタートアップも非常に多くあります。車で2時間も走れば3社〜4社の宇宙関連企業を訪問することができます。
ヴォヤは、テーマ型株式に特化した運用チームを揃えています。同じサンフランシスコを運用拠点として「AI(人工知能)」に特化した運用を行うチーム、また、「グローバル・テクノロジー」を担当するチームもあります。これらのチームのメンバーと情報交換をし、意見を戦わせることで、新しい投資アイデアが生まれることもあります。この密な情報連携が運用の強みにもなっています。
――2018年9月の設定から5年超の運用実績があります。「MSCI ACWI(配当込み、円ベース)」と比較すると、3年、5年では「MSCI ACWI」に負けて、過去1年では近いパフォーマンスを残しているという結果です。過去1年間は宇宙産業に大きな変化があったのでしょうか?
当ファンドの組み入れ銘柄は、業種でいうと「IT」、「資本財」、「通信サービス」の3つの比率が高くなっています。この業種は、2021年、22年のような金利が上昇に転じるような局面でのパフォーマンスは厳しい傾向にあります。3年以上のパフォーマンスが劣後するのは、この組み入れ銘柄の業種特性によるところが大きいです。2023年以降は、「IT」や「通信サービス」などの銘柄群が出直ってきたために、ファンドのパフォーマンスも良くなってきました。
――当ファンドの活用のイメージを教えてください。たとえば、「全世界株式(オール・カントリー)」のようなインデックスファンドなどをコアとしてしっかり投資し、資産の一部で投資するイメージでしょうか?
投資対象を宇宙産業に特化して宇宙産業の発展に投資する「テーマ型」のファンドですから、安定的に成長するコア・ファンドとはイメージが異なります。特に、宇宙ビジネスとして成長著しい分野の企業などには株式市場に上場したばかりの若い企業群も少なくないため、株価変動が大きくなる傾向もあります。これから、宇宙ビジネスが拡大・発展期を迎えると新興企業を組み入れる機会も、今まで以上に多くなります。その点では、安定的な成長が見込まれる資産や投資信託をコアとして保有しておられる方が、プラスαで収益を上積みする目的で購入されるファンドという位置づけといえます。
年金運用を考えると、国内株式や債券など様々な資産に分散投資することが重要とされ、その分散投資先の中に、「中小型株式」や「新興国株式」などシグニフィカント・グロース(重要な成長を期待する資産)を加えることが必要とされます。その重要な成長を狙える重要なツールとして当ファンドを活用いただきたいと思います。
当ファンドでは、宇宙ビジネスのこれからを捉えることを目的に中小型株の組み入れも積極的に行っているため、いわゆる「マグニフィセント・セブン」といわれる超大型株は3銘柄だけしか組み入れていませんし、その組み入れ比率も一般の米テクノロジー株ファンドと比較するとアンダーウエイトしています。その点では、「S&P500」や「NASDAQ100」など米株指数に連動するインデックスファンドを保有されている方に、分散投資ツールとしてご活用もいただけると考えます。
宇宙産業は、今まさに大きな成長に向けた転換点を迎えています。宇宙ビジネスにとって民間によるロケットの打ち上げが始まり、衛星が小型化している現在は、IT産業にとってインターネットが商用化された1990年代半ばという産業の黎明期と同じ段階にあるといわれます。インターネットの普及によって多くのIT企業が大きな成長を遂げたように、宇宙ビジネスからもアップルやマイクロソフト、グーグルなどという企業が誕生する期待があります。そんな10年先、20年先を見据えて、大きな成長が期待できる当ファンドにご注目いただきたいと思います。