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2024/04/10 18:36
6月の米FOMC(連邦公開市場委員会=金融政策決定会合)で利下げに転じる可能性は、現在のところ五分五分とみられている。消費者物価指数(CPI)などの物価指数の推移によって利下げ時期が後ずれすることも考えられ、今後の経済指標の行方が注目されている。昨年末時点では、利下げ開始は決定的とみられていたが、今年に入ってからの物価指数が比較的高い水準で推移していることから、利下げ期待はやや後退した見通しになっている。このような見通しの変化によって米国の債券市場は上下に振れているが、政策金利が5.25%〜5.50%という水準に引き上げられた金利が、ここをピークとして遠からず下がっていくことが期待されている。このような金利のピークアウト期に活躍するのが債券ファンドだ。金利が下がっていく局面は、景気が悪化していることが多く、企業業績の悪化から株式市場が軟調になりやすく、なおのこと債券のパフォーマンスが際立つことになる。 代表的なグローバル債券ファンドのパフォーマンス(2024年3月末時点)を調べると、例えば、「野村PIMCO・世界インカム戦略ファンドBコース」の過去1年間のトータルリターンは22.18%となっている。しかも、リスク(標準偏差)は8.34%とリスク当たりのリターン(シャープレシオ)は2.66と、非常に効率的で高いリターンを残している。この水準は、今流行りの「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」のトータルリターン41.10%、シャープレシオ3.47と比べると見劣りするが、1ケタのリスクで年20%を超えるリターンを稼ぎ出す投資商品は、なかなか優れた商品といえるだろう。 ただ、この債券ファンドのパフォーマンスは、多くが円安・ドル高の恩恵によるところが大きい。ドル円は、2023年3月末の132.97円から、2024年3月末に151.35円へと約14%の円安になっている。外国債券ファンドの投資対象の債券はドル建てがメインで、この円安分だけでパフォーマンスの大半が説明できてしまうような状況だ。実際に、為替ヘッジをした「野村PIMCO・世界インカム戦略ファンドAコース」のトータルリターンは1.13%で為替ヘッジコストを負担する関係もあって、ほぼ横ばいのパフォーマンスにとどまっている。 為替の円安影響を受けない債券ファンドのパフォーマンスが厳しいのは、過去1年間は世界的にインフレ(物価高)を抑制しよううと各国の金利が上昇傾向にあったためだ。たとえば、米国10年債利回りは昨年3月末の3.47%が今年は4.20%、英国10年債は3.49%が3.93%、ドイツ10年債は2.292%が2.298%だった。金利の上昇は債券価格の下落を表しているため、債券ファンドの運用には非常に難しい環境だったことになる。各国の中央銀行もインフレの高進を懸念して引き締め気味の金融政策を維持したため、債券で運用して収益をあげることは難しい状況だった。 ところが、今年は、米国やユーロ圏など先進国の中央銀行は金利を引き下げる段階に来たという認識で一致している。一時期よりもインフレ率の伸びが鈍化してきていること、それぞれの国において(日本を除く)、インフレを退治するために急速に引き上げた金利の水準を続けると、景気の腰折れにつながりかねないためだ。各国の中央銀行それぞれに経済指標に注視しながら、利下げのタイミングを測り始めている。世界の株価は、その動きを先読みして「利下げ期待の株高」を演じたというのが、今年1月〜3月だった。米国やドイツの株価は主要株価指数が史上最高値を更新している。 そして、これまでの市場変動をふりかえると、政策金利が利下げに転換するような局面では、株式市場は軟調に推移し、債券市場が好調な展開になった。たとえば、ITバブルが崩壊した2000年5月末から2003年6月末まで、政策金利は6%超の水準から1%台まで引き下げられた。この間に米国株式は28.2%下落したが、米国債は35.6%上昇した。また、リーマンショックの2006年6月末から2008年12月末までに政策金利は5%台からゼロ%近辺に引き下げられたが、この間に株価は25.1%下落し、米国債は29.5%上昇した。利上げの停止から利下げが続いている期間は景気減速による企業業績の悪化やデフォルト率の上昇などによって株式やハイイールド債等のリスク資産は軟調になりやすいが米国債などの高格付けの債券は堅調なパフォーマンスになってきた。 現在の環境は、必ずしも米国経済が不況に落ち込んで、米国企業の業績が悪化する見通しにあるというものではない。このため、米国の利下げ転換のタイミングが後ずれしている。しかし、政策金利が5%超の水準で長期に固定されることは考えられないため、遠からず利下げが開始されると考えて良く、利下げは債券ファンドにとってプラスに働くことは間違いない。今後の政策変更を見越して、債券ファンドにも注目するタイミングに来ているだろう。 現在の米国債券市場の水準について債券の運用で世界最大規模の運用者であるPIMCO社は、今年2月28日に発行した「『野村PIMCO・世界インカム戦略ファンド』当ファンドのの足元の運用状況」というレポートで、「米国債券は米国株式対比での割安感も強まっています。1株当たりの純利益を株価で割って算出する米国株式の益利回りと米国総合債券指数の利回りを比べると、米国総合債券指数の利回りは過去20年間で初めて米国株式の益利回りを上回る水準となっています。相対的なバリュエーションの観点からも、債券への投資は魅力的であると考えられます」と指摘している。 今回の利下げ局面は、「コロナ・ショック」による未曽有の経済停止状態から回復しようと各国の中央銀行が一斉の利下げに動き、そして、経済回復に伴う急速のインフレの発生のために、一斉に利上げに動くという各国連動した動きを経た後での対応になる。各国それぞれの経済の強さによって、今後の利下げタイミングの見極めは個々の国や地域の事情を反映したものになるだろう。各国一斉の金利変更ということにはならないと考えられる。経済の分析力や中央銀行の対応に対する判断の良し悪しが債券ファンドの運用に格差をもたらすことになると考えられる。運用力に優れたアクティブ型の債券ファンドには、活躍期待が高まっている。(グラフはグローバル債券ファンドの為替ヘッジあり・なしのパフォーマンス推移)
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