2024/04/25 16:00
社会保障審議会 企業年金・個人年金部会が4月24日に開催され、「企業年金の加入者のための運用の見える化」について議論した。公的年金制度については、年金保険料の支払期間の5年延長の議論が話題になっているが、少子高齢化の進展に伴う年金制度の維持と同時に、公的年金を補完する私的年金である「企業年金・個人年金」の制度の拡充もまた重要な課題に位置付けられる。「運用の見える化」は、私的年金に関する国民の関心を高め、さらに、運用の効率化を促すためにも必要なことと位置付けられている。
「企業年金の加入者のための運用の見える化」については、2023年12月13日に発表された「資産運用立国実現プラン」において、確定給付企業年金(DB)の改革の項目で「運用状況や専門人材の活用に係る取組状況を含む情報の他社と比較できる見える化(情報開示)を行う。その具体的な方策については、規模等の状況にも配慮し、厚生労働省が情報を集約し公表することも含めて、次期年金制度改正に関する結論と併せて(2024年末)、結論を得る」とされた。また、企業型確定拠出年金(DC)の改革として、「事業主ごとの運用の方法のラインナップや運用状況等を含む情報の他社と比較できる見える化(情報開示)を行う。その具体的な方策については、厚生労働省が情報を集約し公表することも含めて、次期年金制度改正に関する結論と併せて(2024年末)、結論を得る」と定めている。
DBとDCについて、それぞれの制度特性に応じて開示する内容を例示し、「厚生労働省が上方を集約し公表することも含め」と情報公開の方法も示唆する内容が事前に示されていた。このため、今回の会議で示された厚労省の配布資料においても、見える化の開示方法については、「厚生労働省が公表を行う」という案が示された。そして、公表を行う項目については、厚生労働省が毎年、報告を受けている内容に一部追加して情報を取得して開示内容とする案が示された。これは、「見える化のために企業に新たな負担を増やして企業年金の新設等が敬遠されることを回避するため」と説明された。
この案に対し、公表を厚労省が行うことについて委員から特に反対の意見はなかったが、開示項目と開示対象の企業年金の範囲については、様々な意見が出た。厚労省が示した開示項目の案は、DBについては、(1)毎年の事業報告書・決算に関する報告書の報告項目をベースとする、(2)運用状況(運用の基本方針等)や専門人材の活用に係る取組状況を含む情報については新たに報告が必要(事業報告書に追加)。そして、開示対象要件として規模要件を設ける――とした。そして、DCの開示項目は、(1)毎年の事業主報告書・確定拠出年金運営管理機関業務報告書の報告項目をベースとする。(一部新規に報告)(RK経由の報告を想定)、(2)運用の方法の見える化については、運営管理機関等による取組の改善を促進する。また、開示範囲は全事業所を対象とするとした。
この開示内容について、企業側の負担を増やさないように、既存の厚労省への報告内容から比較可能な内容を公表するという方針については概ね委員は納得していた。ただ、たとえば、米国ではDBの運用に関する情報として「運用利回り」「資産の構成割合(加入者が1000人以上の場合)」「実効金利」「積立水準」などが公表され労働省のウェブサイトで一般に公開されている。日本では現在のところ厚労省に対して「積立金の運用収益または運用損失」「資産の構成割合」「積立水準」「運用の基本方針の概要」が報告され、その報告内容は情報開示されていない。委員からは「運用利回り等を他の会社と比較することに意味があるのだろうか?」、「運用利回り等の数字が独り歩きして会社の年金運用の優劣の比較など、加入者のためにならない使われ方をされないか?」などの懸念の声が出た。「公表するにしても大手企業のみ、あるいは、個別の企業名を公表しないで全体の傾向をまとめるなど、公表の仕方に工夫が必要ではないか」との意見もあった。
また、現在の厚労省への報告は紙に記入して報告されているため、それらを集約し、傾向をまとめてレポートが出るまでに1年〜2年の期間を要することがあることが指摘され、「報告をデジタル化し、可能な限りリアルタイムで情報が公開されるような仕組みが作られることが重要」との指摘もあった。
公的年金制度は制度の存続のため、「マクロスライド方式」を2004年に導入した。賃金や物価による年金額の改定率を調整して、緩やかに年金の給付水準を調整する仕組みにした。現役の被保険者の減少と平均余命の伸びに応じて算出した「スライド調整率」を賃金や物価による改定率から差し引くことで、少子化によって年金の担い手である現役世代が減少し続けても年金制度の維持を目的にした改定だった。このマクロスライド方式を導入した制度変更は「100年安心」といわれた。しかし、高齢者が老後の生活に困窮する「下流転落」という言葉ができるほど、現状でも高齢者の貧困が問題視されているところ、今後一段と年金受給額が実質減額されれば、貧困化が深刻になりかねない。
2024年1月の生活保護の被保護者調査(概数)では、生活保護者総数202万人のうち、高齢者世帯は55.1%を占めている。基礎年金は月額6万8000円(2024年度の満額)なので、この金額だけで生活することは難しいため、就労したり、仕送りが受けられたり、預貯金等の資産があれば生活はできるが、資産もなく働けもしない場合は、生活保護を受けるしかなくなる。高齢者の単身世帯が増えている中、高齢者の生活保護の申請が増大することも考えられている。
厚生労働省「厚生年金保険・国民年金事業の概況」(2022年度)によると、自営業者やフリーランス等が該当する国民年金の平均受給額は月額で5万6316円。男性の平均は5万8798円、女性は5万4426円だ。また、会社員・公務員等が該当する厚生年金は現役時代の年収水準によって差があるが、平均すると14万3973円。男性の平均は16万3875円、女性の平均は10万4878円となる。この平均値で年金をもらって生活していると仮定すると、たとえば、男性会社員で16万3875円での生活は可能だろうか? 生活保護を受けるほどには困窮しないにしても、また、住居が持ち家か賃貸かという点でも異なるだろうが、賃貸の場合は都市部で一人で生活するには厳しいのではないだろうか。夫婦世帯で考えると、2人とも会社員だった男女の場合は月額で26万8754円。夫が会社員で妻が専業主婦の場合は月額で21万8301円になる。
企業年金は、この厚生年金にプラスαの受給を行うことができる制度だ。退職時に1500万円〜2000万円程度の年金原資があれば、老後の生活プランがずいぶん楽になるだろう。企業年金制度は一部の企業に限られているが、小さな企業でも手軽に導入できる「iDeCo+」などの制度も活用して、より多くの企業で導入されることが望まれている。その普及にも、「企業年金の見える化」は効果があると期待される。年金制度改革の議論についても関心が高まり、ひいては、企業年金や個人年金についても関心が高まることが望ましい。(イメージ写真提供:123RF)