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2024/04/30 18:06
イーストスプリング・インベストメンツ(シンガポール)のマルチアセット・ポートフォリオ・ソリューションズ部門のポートフォリオ・マネジャーであるNupur Gupta氏は2024年4月に「まだ先が読めない米国経済の行方」と題したレポートを発表した。米FRBが直近で最初の利上げをしてから約2年間が経過したものの、米国のGDP成長率にはほとんど影響がみられず、24年3月の政策決定会合では米FOMCメンバーが2024年の米経済成長率を2.1%と予想し、23年12月の事前予想である1.4%を大きく上回った。Gupta氏は、「(マルチアセット・ポートフォリオでは)米国経済の力強い成長データを受けて、リスク性資産には強気だが、その一方で、より保守的でインカム志向のポートフォリオでは国債に大きな配分を置いている」とする。そして、「リスク性資産をオーバーウエイトしているポートフォリオであっても、オプション戦略を活用することで十分なダウンサイド・プロテクションが得られる」と、先行きの米景気変調にも備えているとしている。 2022年3月に米FRBが最初の0.25%の利上げによってゼロ金利政策を解除して以来、米国は約2年間が経過し、「金融環境は大幅に引き締まり、資本コストは約10倍に上昇した」。金融政策の波及経路の法則に従えば、米国経済は利上げによって減速し、米国経済は2024年に景気後退するというのが、大方のエコノミスト等が予測していたメインシナリオだった。ところが、実体経済は、「米経済のサービス部門のデータが軟調の兆しを見せ始めた矢先、製造業は底を打ち、再加速しているような状況」だ。Gupta氏はレポートで、累計で5.25%の金利上昇(利上げ幅)にもかかわらず、米国の家計と企業が比較的平然としている様子に対し、「金利と成長率の関係は切れたのか? もはや利上げは実体経済に影響を及ぼさないのか?」と問いかけている。 一般的な経済理論では金融政策によって資本コスト(資金調達コスト)が上昇すると経済成長率は低下し、経済主体(消費者、企業など)の借り入れと消費が減少する。その結果、物価は下がり、失業率は上昇し、この動きは家計所得の伸びの抑制(世帯収入の減少)につながり、これは、中央銀行が経済成長とインフレが十分に鈍化したと確信し、利下げに動くまで続く。この一般的なサイクルに反して現実の米国経済は、利上げ開始から約2年が経過し、その金利引き上げは迅速かつ積極的なものだったにもかかわらず、米国の実質GDP成長率はプラスを維持し、企業は労働者の確保のため賃上げを余儀なくされ、このため、インフレ率は押し上げられたことで実質家計所得は目減りしたものの、個人消費の落ち込みはみられていない。 個人消費の落ち込みが見られない要因の1つは、家計債務の大きな割合を占める住宅ローンにおいて、米国は長期固定金利が中心であるため(米国の住宅ローンの75%以上が10年以上の長期固定金利)、金利上昇による消費者の負債コスト上昇への直接的な波及効果が抑制されてことがあると解説。また、パンデミック後の貯蓄減少に対する消費者行動の構造的変化があったことも要因と考えられるとしている。そして、ほとんどのエコノミストが指摘するように「金融政策が実体経済に影響を与えるまでに2〜8四半期(6〜24カ月)のタイムラグがある」ため、現在がその影響が出て来る最後尾を迎えているという見方もでき、これから影響が現れる可能性もある。 ただ、米銀大手のバンク・オブ・アメリカが発表した最新のファンド・マネジャー調査によると、世界の投資家の23%が「ノーランディング(無着陸)」と予想し、「ハードランディング(硬着陸)」と予想しているのは11%に過ぎないということが明らかになっている。エコノミストの意見が一致しているのは、「FF金利がピークに達した」ということだけで、それぞれの2024年の想定シナリオは大きく異なっている。この予測範囲の広がりが市場のボラティリティを高め、投資機会を生み出すことにつながる。 イーストスプリングでは過去50年間にFRBが積極的な利上げサイクルを開始した9回のうち、5回は「ハードランディング」、2回が「ソフトランディング」となり、利上げ後も経済成長が比較的堅調だったは2015年から2018年にかけての1回だけで、この時にはその後のコロナ・パンデミックで大きな景気後退に陥ったという経験則に照らしても「FRBが『ノーランディング』のシナリオを実現できる可能性は低いと考えている」。「現在の米国の金融政策の波及経路は断絶しているのではなく、実体経済にその影響が現れるのが遅れているものと考えている」としている。とはいえ、「投資家としては、データを重視し機敏に行動し、柔軟な見解を持つことが不可欠」と指摘する。 現時点でのデータは、新規雇用者数、家計貯蓄率の動向、賃金上昇率などの主要データは成長が再加速する一方、インフレ率は低下するという「ゴルディロックス」のシナリオを指している。その場合、企業収益への期待が高まり株高が見通されることになる。ただし、成長かインフレのいずれかの要因が修正され、現在の「ゴルディロックス」(高成長・低インフレ)の状況が「低成長・低インフレ」、あるいは、「低成長・高インフレ」の状況にシフトすれば、株安に転じることも十分にあり得る。「どのようなマクロ経済シナリオが展開されるかが、今後数カ月のアセットアロケーションンの軌道を左右する」として、今後の行方を決して決めつけることなく、柔軟に対応できることが重要だと強調している。(イメージ写真提供:123RF)
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