2024/06/26 11:09
UBSアセット・マネジメントは6月24日、「UBSグローバル株式ロング・ショート・ファンド」を新規設定した。北洋証券が取り扱っている。富裕層向けの資産管理ビジネスで世界最大の金融グループであるUBSがグローバル株式運用の総力を結集し、非常に安定的なパフォーマンスを積み上げている運用戦略として近年注目を集めている商品だ。同ファンドの運用の仕組み等についてUBSアセット・マネジメント株式会社の取締役運用本部長の松永洋幸氏(写真:左)と投信営業部エグゼクティブ・ディレクターの藤崎隆弘氏(写真:右)に聞いた。
――「グローバル株式ロング・ショート・ファンド」を設定し、運用を開始する理由は?
藤崎 新NISAが始まったこともあって資産運用を始める方が増えています。資産運用が初めての方や効率的な運用を求めてアドバイザーを頼りにされる方も少なくありません。特に、新NISAは投資収益非課税期間が無期限になり、長期的視野に立った投資アドバイスを求められるようになっており、銀行や証券会社などでもそのようなニーズに応える資産管理サービスに力を入れています。その資産管理のアドバイザーの間で悩みの種となっているのが、世界的に金融資産の相関が高まっていることです。
たとえば、株式と債券は、本来は逆方向に動く傾向がありました。株式市場が好調な時には債券は不調、反対に、株価が下落するときには債券価格が上昇するものでした。このため、株式60%、債券40%というバランス型のポートフォリオが最強の組み合わせなどと評判をとっていました。ところが、パンデミックやインフレ、地政学リスクなど市場を大きく動かす要因によって株式も債券も一方方向に動くようになりました。近年では2022年が、株価が低迷する中で債券価格も下落する、分散投資の有効性がほとんどないような1年でした。
株式も債券も一方通行で上げたり下げたりすると、資産を安定的に増やしたいと考える富裕層は投資を敬遠したくなります。そこに、株式との相関関係が低い資産として「ロング・ショート・ファンド」の意味があると考えました。今こそ、日本の投資家の皆様にも分散投資ツールの1つとして「UBSグローバル株式ロング・ショート・ファンド」をご活用いただきたいと思います。
――グローバル株式を対象としたロング・ショート戦略の、既存の国内籍の運用成績は良くありません。新ファンドのパフォーマンスは?
松永 欧州では2012年8月末から運用実績がありますが、ユーロ建てで手数料控除後のリターンは、2024年5月末時点で設定来で年率5.48%です。過去10年で年率4.97%、過去5年で7.58%、過去3年で7.60%、過去1年で6.50%となっており、運用期間によるリターンのブレが小さく、安定的なパフォーマンスを示しているのが大きな特徴です。
ちなみに、これを円建てにすると、近年の円安の影響が出て、過去1年間のリターンは手数料控除後で24.54%になります。設定来のリターンは年率10.51%です。
この戦略が安定的なパフォーマンスを残している理由の1つは、ロング(買い建て)ポジションとショート(売り建て)ポジションの差を低位に保っているところにあります。ロング・ショート戦略の中には、株価の上昇が見込まれるときにはロングポジションを手厚くしてリターンを稼ごうとし、反対に、株価下落が見込まれるときにショートで収益を稼ごうというようなポジションをとる戦略もあります。これに対し、当戦略では相場が上昇する時でも、反対に下落する時でも、ロングとショートで差し引きプラス10%程度のポジションとすることで、相場環境に左右されにくいパフォーマンス特性を実現しています。
この戦略が注目を集めたのは2022年の相場でもプラスのリターンを残したことでした。当時、急ピッチの利上げを嫌気し、米ドル建てではS&P500はマイナスパフォーマンスに陥り、どの運用会社も収益を確保することに四苦八苦していたのですが、当ロング・ショート戦略は、堅調なプラスのリターンを実現していました。
――独自の株価評価モデルを活用してロングとショートのポジションをつくるということですが、「ロング」にする銘柄群の特徴、「ショート」にする銘柄群の特徴は?
松永 当社では、アナリストが常時カバーしている1500銘柄について、過去40年あまりにわたって向こう10年間の業績予想を行っています。その予想業績を基にUBS独自の株価評価モデルを使って本源的価値を計算し、割高・割安を判断しています。株式市場では、割高・割安は修正されるというバリュエーション裁定が働いているため、しっかりした業績予想があれば、割高銘柄をショートにし、割安銘柄をロングにすることで、市場の上昇・下降にかかわらず安定的に収益を獲得することが可能になります。
たとえば、「ロング」にしている銘柄としてマイクロン・テクノロジーがあります。半導体メモリーDRAMを作っているメーカーですが、DRAMメーカーはかつて乱立し、過剰生産で共倒れした歴史があります。その後、業界再編によって現在は世界的な大手3社に集約されています。業界再編の結果、残った3社はバランスの取れた競争環境の下で安定した収益を稼ぎだせるようになっています。
また、タイヤメーカーのミシュランも「ロング」にしている銘柄の代表です。成長性の高いEV(電気自動車)向けや新興国向けが強く、同社のタイヤは他社に比べて30%ほどプレミアムが付くという強い製品競争力を持っています。このように価格決定能力のある強い製品を持っている企業を選好しています。
反対に、「ショート」にしているのは、過当競争に陥っている業界などです。時間が経過するほどに設備投資と収益のバランスが悪くなっていって苦しい経営になっていくような企業は、ショートポジションの対象になります。
――当ファンドが採用するマルチ・マネジャー型運用の仕組みとは?
松永 当ファンドは、7つのサブポートフォリオで構成し、それぞれを実績に優れる運用者に担当させる体制としています。運用戦略としてロング・ショート手法を使っていますが、運用チームはヘッジファンド専業ではなく、ロングオンリーも手掛けるグローバル株式チームである点が特徴的です。
このグローバル株式運用チームには30名のアナリストが所属していますが、その中から魅力的な投資アイデアを多く持ち、運用成績も優れた7名のマネジャーを選抜して運用チームをつくります。この7名の選別、および、それぞれに任せる資金額の割り振りは、ファンドの全体を統括するポートフォリオ・マネジャーによって行われます。適宜入れ替えも行われ、常にベストなチーム状態を維持しています。
選抜されたアナリストは、それぞれ担当するセクターが異なるほか、得意とする市場環境が違うなどの要因によって、運用成績の相関が低いことも選抜では考慮されています。7人を起用することによって、どのような相場環境にあっても安定的な運用成績が期待できるようになっています。
――新ファンドの活用イメージを教えてください。
藤崎 ウエルスマネジメントでは、投資アドバイスをする場合、ポートフォリオで資産管理することが重要になります。その際に、資産を増やすポートフォリオの中心になる株式とは異なる動きをする分散投資のパーツとしてご活用いただけると思います。当ファンドは、ユーロ籍のファンドが2012年から運用実績がありますが、ユーロベースでみて、12年間の運用で年間のパフォーマンスがマイナスになったことは1回しかありません。非常に安定的な運用実績を持っています。
また、マルチ・マネジャー制をとっていることも含めて厳格なリスク管理の下で運用している商品ですので、大切な資産を守るための投資先としてもご検討いただけると思います。