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2024/07/19 17:33
世界をリードする債券のアクティブ運用会社であるPIMCOの公共政策担当のリビー・キャントリル氏(写真)が来日し、7月19日にメディア向けに「大統領選挙の見通しや影響」について説明した。キャントリル氏はFRB元議長のベン・バーナンキ博士を議長とする、PIMCOのグローバル・アドバイザリー・ボードとも密接に連携し、インベストメント・コミッティー向けに政治や政策リスクの分析を担当している。キャントリル氏は、最新の選挙情勢は、トランプ候補に対する銃撃事件以来、トランプ氏への支持が高まっているとしたものの「選挙まで4カ月もあるため、まだ何が起こるかわからない。今の段階で選挙結果を予測して戦略を立てることはできない」と語った。ただ、「いずれの候補者が勝ったとしても、敗者は米国財政。両者とも財政赤字を真剣に削減しようという姿勢がみられず、どちらが勝っても財政支出の拡大や減税など、財政赤字を一段と悪化させる方向に動くだろう。マーケットのマクロ環境に大きな違いはない」と見通していた。 トランプ候補から「大統領選挙に勝ったらFRB議長を交代させる」などという発言が聞こえてくるなど、トランプ大統領になれば、現在のFRBの政策に何等かの変更が加えられるのではないかという見方もあるが、キャントリル氏は、「FRBの独立が脅かされるようなことはない。議長の指名人事にしても上院の承認が得られなければ成立しない。第一次トランプ政権の折にはFRBの理事にトランプ氏が指名した人事が議会の承認を得られずに見送られたということもあった。大統領の一存で決められることは多くはない」と語り、大統領選挙の結果によって金融政策などが変わるという見通しがあることに対して、それを否定する見方を示した。 現在、選挙戦を優位に進めているトランプ氏が大統領になった場合、4つの点が注目されるとした。1つは、「財政政策の拡大」だ。2025年末で切れる「トランプ減税(所得税の最高税率を39.6%から37%に引き下げ、全納税者の基礎控除額を2倍に引き上げなど)」を引き延ばすなど、政府支出の拡大が避けられないとした。また、「関税の強化」について、中国に対し60%の関税を課すとしているほか、その他の国にも10%の関税をかけるなど自国の産業を保護する政策を強化する。「移民」の問題についても、新たな移民の流入を厳しく制限するとともに、すでに米国に暮らしている移民についても滞在し続けることを難しくするような政策を強化するだろう。これは米国の雇用に影響を与える可能性がある。最後に「規制の緩和」だ。新たな規制を極力設けないなど産業界にフレンドリーな政策になるだろうと見通している。 そして、キャントリル氏は、大統領選挙とともに、議会選挙の結果も重要だと強調した。現在の見通しでは、上院が民主党の多数から共和党の多数に変わり、下院は共和党の多数が維持されることで、上院・下院ともに共和党が過半数を抑える議会になるという見通しだ。ただ、「共和党が過半数を抑えるといっても、その差は僅差になると考えられる。トランプ政権になったとしたら、財政支出を増やしたい、減税したいなどの要請が強まるだろうが、同じ共和党だからと言って、その要求が簡単に議会で承認を受けられるとは限らない。政策を大きく変えようと思っても簡単に進まないというのが実態になるのではないだろうか」と語っていた。 キャントリル氏は、選挙戦で語られる政策は、実際に政策に移される際に、その程度の範囲でどの程度の変更が加えられるのかについて法案等が示されない限り、その影響を図ることはできないとして、「もし、トランプ2.0が実現したら」などという議論がいろいろあるものの、現時点で内容を評価することはできないと語っていた。ただ、「いずれの候補も減税や財政支出の拡大につながる政策を掲げている。米国の経済やマーケットに与える影響は、どちらが勝っても大きな変化はないだろう。ただし、たとえばトランプ候補が勝った場合は、規制緩和を進め業界フレンドリーな政策を強化することが考えられるため、総じて銀行など金融業には追い風になるだろうなど、セクターレベルでは勝ち組、負け組が出てくるだろう。今後も選挙の行方をしっかり見ていくことは重要だ」と語っていた。
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