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2024/07/23 18:18
フィデリティ投信は7月18日、フィデリティ・インターナショナルが実施した「フィデリティ・グローバル・センチメント・サーベイ 2023」の結果を発表した。この調査は、ウェルビーイング(人々の幸福度・満足度)、家計支出、貯蓄、老後準備などお金の事情に関して23カ国・地域の2万6000人を対象にした調査。今回、特に、「お金に関するアドバイスの入手先」という項目で、多くの国では、金融機関やファイナンシャル・アドバイザーといった専門家からお金に関するアドバイスを得ているが、日本では「友人・家族」に次いで、「ソーシャルメディア」の比率が高くなった。SNSがトップ2に入ったのは、日本とUAEのみだった。同調査結果を受けてフィデリティ・インスティテュート主席研究員の浦田春河氏は「個々人の状況に合わせた資産形成ができるよう、専門家からのアドバイスをもっと気軽に活用できるようになれば、日本は資産運用立国としてさらに発展していけるでしょう」とコメントしている。 「過去6カ月間で、ファイナンシャル・アドバイスを求めましたか?」という問いに対して、多くの国(英国、ドイツ、UAE、日本、中国、韓国など)が「友人/家族」を第一位にあげた。特に、「友人/家族」の回答率が高かったのは、UAEの31%、中国の26%などで、日本の14%は、英国の12%よりも高く、ドイツの15%と同等で欧州並みの回答率だった。米国の第1位は「FA(ファイナンシャル・アドバイザー)」で23%を占めた。また、香港(29%)やシンガポール(19%)では「銀行」が第1位だった。 そして、第2位の相談相手に、多くの国が「銀行」や「FA」という専門家を上げる中で、日本(9%)とUAE(22%)のみが「SNS」をあげた。金融アドバイスをSNSに求めるというのは、世界で珍しい行動といえることが、今回の調査で浮き彫りになっている。ネットを使った情報提供を得るという点では、中国が「デジタル/アプリベースの金融サービスプロバイダー」(25%)という独自の回答になっているが、中国でも専門家が回答の相手になっていることに変わりはない。いわば個人の個々の意見が広く流通しているSNSを使って、人生において大きな意味合いのある資産形成について相談したり、情報を求めているのは、日本に独特な現象であるようだ。 一般に、金融アドバイスで必要とされるのは、「客観性」だろう。特に資産運用にかかわるサービスについては、投資目的に適った投資が実行されているか、特定の資産に偏った投資をしていないか、リスクに耐えられるだけの備えがあるかなど、資産全体のバランスを第三者によって判断してもらうという側面が強い。1人の考えだけで資産運用を行っていると、当然ながら「自分が一番魅力的に感じる資産」に偏ってウエイトをかけてしまう。それを是正して、予測が外れた結果になったとしても、大きなダメージを受けないようにバランスをとることが重要だ。 ところが、SNSは、おおむね自分の好みに適った情報を集めてくる機能がついている。似たような意見がいくら集まっても、全体のバランスを考慮するようなアドバイスは得られにくいだろう。自分の考えを補強して、より前向きにしてくれるような意見ばかりになりがちなのではないだろうか。多くの国々で、お金のアドバイスにSNSを使っていないのは、このようなSNSの弱点がアドバイスにふさわしくないという判断をしているものと考えられる。 また、日本において、「銀行」や「FA」などといった専門家のアドバイスが一般的に活用されていないのは、これまでのアドバイザリー・サービスの在り方が、「アドバイス」と言いながら、「銀行の利益」「FAの利益」が優先される傾向が強かったということなのだろう。「銀行や証券会社の言う通りに行動したら損をする」ということが、日本国民の間で半ば常識のように思われているところがある。SNS等でも「銀行や証券会社は手数料の高い商品しか勧めない」などということが話題になることが少なくない。 日本の金融機関は、「フィデューシャリー・デューティ(顧客本位の業務運営)」の徹底が求められている。2017年に金融庁が「顧客本位の業務運営に関する原則」を提言し、個々の金融機関が「フィデューシャリー・デューティ宣言」を行って、もっぱら顧客のために、業務を行うことを従業員の義務として規定している。金融庁の提言から7年以上が経過している。事前に手数料率を明示し、顧客のニーズに適った商品・サービスを提供することを徹底しているはずだ。当然、金融機関は顧客と応対するアドバイザーの教育には、非常に力を入れて取りくんできている。 日本において、他国では例がないほどに金融アドバイスを「SNS」に求めているという実態があることは、「フィデューシャリー・デューティ宣言」以来の金融機関の努力が顧客には十分に伝わっていないことの現れともいえる。 ちょうど、来月からマネープランに関するアドバイス事業を推進する「金融経済教育推進機構(J−FLEC)」が本格稼働することになっている。認定アドバイザーを設けて、国民が金融アドバイスを受ける機会を増やそうというのがJ−FLECの大きな取り組みに位置付けられている。J−FLECの取り組みが浸透し、安心して気軽に相談できるアドバイザーが増えることが期待される。(イメージ写真提供:123RF)
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