2024/07/29 17:21
アセットマネジメントOneは7月26日、東京で販売会社向けの大規模セミナー「アセマネOneの会 商品戦略フォーラム」を開催した。コロナ禍によって対面でのイベントが制限されたため、久しぶりの開催となった大型イベントだった。セミナーは2部構成で開催され、「欧米の金利低下局面を迎え、次の選択肢として何があるのか?」というテーマで同社が厳選した商品を紹介した。第1部は「低コストパッシブ全盛時代における外国株アクティブファンドの訴求」と題して「One/フィデリティ・ブルーチップ・グロース株式ファンド」を紹介。第2部は、「日本企業の構造変化を受けた日本株ファンドの着眼ポイント」として同社が運用する日本株アクティブファンドを3本紹介した。ここでは、同社の日本株についての着眼ポイントを紹介する。
日本株について、アセットマネジメントOne常務執行役員運用本部長の丸山隆志氏(写真)は、「通常、魅力的な投資対象を紹介する際には、『今、なぜ日本株か?』という紹介の仕方をするものですが、実は、『これからずっと日本株』と言ってよいほど、大きな変化が起きています」とし、日本株に注目できる5つの観点があるとした。
その1は、「地政学」で、「いわゆる西側諸国と中国、ロシアの対立によって、軍事的、経済安全保障の観点で日本の重要性が改めて見直されている」とした。実際に、丸山氏は定期的に日本資産のプロモ―ションで中東やアジア地域などを訪問しているというが、「2022年頃から、明らかに訪問を歓迎されるようになった」という。そこには、アジアへの投資の選択肢として「中国」か「日本」という二択で「日本」の方が優位になってきたためだとする。それは、株価の推移、そして、2023年の名目GDP成長率でも日本が中国を上回るという実績が裏付けになっているとした。
その2は「政策」で、「2010年頃までは、新自由主義といわれ政府はできるだけ表に出ずに民間の競争に任せるような時代だったが、近年は政府の仕事として、自らリスクをとって補助金などを使って、今後成長が期待される分野に積極的に投資するようになった」とする。その結果、世界最大の半導体製造メーカーである台湾のTSMCが日本に工場建設を決定するなど日本の産業にも変化をもたらしている。また、「資産運用立国」を掲げて新NISAをスタートさせたことが、国内の証券市場を活性化している功績も小さくないとした。
そして、「国内経済」が、デフレを転換し成長経済に正常化してきたことをあげた。「従来は円安によって輸入価格が大きく上昇した際にも、日本の経営者は価格を変えないで利益を出す方法を考えていたが、今は、価格を上げることをためらっていない。その結果、賃金を引き上げることができるようになり、賃上げによって国内消費が刺激されるという循環が生まれている」と語り、今後、実質賃金がプラスに定着することによって、この良い循環が回り始めると期待していた。
さらに、「企業経営」は2013年の「日本再興戦略」の発表以来、10年以上の歳月をかけてコーポレートガバナンス変革に努め、ついに、東証が打ち出した「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」という『東証イニシアティブ』によって大きなうねりが起きているとした。「東証の改善要求は、口うるさい上司のように、毎月、開示企業一覧の公表リストを更新する念の入れようとなっている。もはや、上場企業は嫌でも取り組まざるを得なくなっている」として、これも企業を変える力になっていると評価した。
最後に「株主」の変化をあげた。「運用会社も含めて、インベストメントチェーンを回すために、株主がしっかりと役割を果たすという意識が高まった」とする。機関投資家は議決権行使基準を設け、それを公表し、さらに、実際の株主総会で企業側の提案に反対を表明することも増えている。この結果、「企業は、従前の期待を上回る企業価値向上を示すことが必要になっている」とし、それが、結果的に企業の成長を促す力につながっているとした。
このような大きな変化が起こっている日本の株式市場は、簡単には上昇基調が崩れるようなことはないという見方だ。日経平均株価が1日で1000円を超える下落に見舞われるようなこともあるが、「現在の水準で起こる調整安は良い買い場になると考えられる。様子見で市場から身を引くのではなく、市場に居続けることが大事だ」と語った。
そして、大きな変化を踏まえて運用会社には、この変化を捉えて成長を続ける企業を見極める「目利きの力」が求められているとした。アセットマネジメントOneは、運用力を高める努力を不断に行い、優れた企業を確信をもって見極めるリサーチ力、最適なポートフォリオ構築能力、そして、幅広い投資ユニバースの確保を進めている。中でも、要となるリサーチ力については、企業とのエンゲージメントを深化することに努め、2024年4月にセクターアナリストやESGアナリスト、エコノミストやストラテジストなど総勢46名からなる「リサーチ・エンゲージメント・グループ」を創設したという。「世界にも例がないほど、充実した日本株のエンゲージメント・チームを設けることで、他の運用会社にない付加価値を実現したい」と語った。
そのうえで、現在の市場環境にふさわしいと考えられる3本のアクティブファンドを担当する3人のファンドマネージャーを紹介した。1人目は、「DIAM割安日本株ファンド」を担当する安西慎吾氏。安西氏は、同ファンドについて2019年4月から担当し、TOPIX(配当込み)を大幅に上回る運用成績を残している。このファンドは、単なるバリュー株(割安株)戦略ではなく、割安株の中で業績が改善する企業に選別投資するという狙いをもって運用している。その業績改善期待を確かなものにするには、企業とのエンゲージメントが重要になるという。安西氏は、運用について「変化をとらえるカタリスト(変化を加速させるきっかけ)」が重要と考え、「バリュー・トラップ(株価が割安解消の上昇をしない状態)」を回避することに努めている。
「新光日本インカム株式ファンド(3カ月決算型)」を2022年8月から担当する吉澤朋哉氏は、「配当利回り」と「長期的な配当の安定性・成長性」を軸に投資魅力度の高い銘柄を選定する同ファンドについて、「過去10年間の配当成長率は年10%に達している。安定性と成長性を兼ね備えた投資戦略として非常に魅力的なファンド」とした。そして、高配当に着目したファンドでありながら、「競争力をみるROE」を重視し、ROEについては、担当アナリストとの協議を常に行い、自分の独善で企業価値を決定しないことを徹底していると語った。
そして、「ハイブリッド・セレクション」を2019年3月から担当する西田森氏は、グロース株とバリュー株に投資し、市場環境に応じてグロースとバリューの投資配分を変更して運用しているが、「柔軟に機をつかむ」ことを常に心がけていると語った。同社が運用するファンドで代表的な高パフォーマンス銘柄で人気もある「自由演技」を担当する酒井義隆氏とは同世代で同じチームに属して常に情報交換をしているという。「自由演技」が「大型株」と「中小型株」の配分比率を調整してプラスアルファの価値を付加しているように、「ハイブリッド・セレクション」では「グロース」と「バリュー」のスタイルの違いを見極めている。それぞれ異なる運用の仕組みで運用を行っているが、西田氏は「重要なポイントはボトムアップでいかに優れた企業を見出すかということ。そこには、アナリストチームの優れた分析力や業績予想の力がある」と語っていた。