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2024/08/29 17:42
8月28日に発表された米半導体大手エヌビディアの第2四半期決算(5−7月期)は、売上高が前年同期比2.2倍、純利益が同2.7倍という好調な内容で、第3四半期(8−10月)の売上高予想も約325億ドルと、市場予想の平均317.7億ドルを超える強気の見通しだった。にもかかわらず、同社株価は決算発表直後の時間外取引で6%超も下落した。純利益が3倍近くに成長し、かつ、500億ドルの自社株買いをも発表しても株価が下落するというのは、これまでに同社株価がいかに割高な水準に買われてきたかということを示しているようにみえる。期待を上回る決算を発表しても株価が下落するなら、期待を下回る決算には、より大きな株価下落が待っているかもしれない。米国には利下げ期待があるものの、その背景には景気の鈍化、そして、景気後退(リセッション)への懸念がある。米国株への投資に慎重に取り組むとともに、米国以外の成長市場への分散投資も検討しておきたい。 昨年来、米国大型ハイテク株には「割高」の指摘がある中で、実際の株価は高値を更新してきた。大型ハイテク株の株価の影響を受けやすい「S&P500」や「NASDAQ総合」は、今年7月まで史上最高値を更新した。中でも、AI(人工知能)関連の中核として注目されてきたエヌビディアの株価上昇は割高懸念を吹き飛ばす勢いがあったが、いよいよその勢いにも陰りが見え始めたのかもしれない。 エヌビディアの株価は、2022年12月末の14.61ドルが、2023年12月末には49.52ドルに1年間で3.4倍に上昇した。そして、2024年6月の高値は140ドルを超えた。2022年12月末と比較すると約9.6倍という株価上昇だ。わずか1年半という短期間で株価を9倍以上に押し上げたのは、同社の半導体が使われるAI市場が急速な発展期を迎えたという期待の高まりだ。AIはこれから、様々な機械に組み込まれて、PCやスマートフォンなどのように日々の生活に当たり前に存在して活用されるようになると目されている。その中心になる存在がAIを動かすプラットフォームや半導体を提供するエヌビディアといわれている。実際に、2023年に発表されたエヌビディアの業績は大幅に伸び、市場の事前予想を上回る内容になることが常態化し、その結果を受けて株価は右肩上がりに上昇を続けてきた。 ところが、今回の決算発表は、市場の予想を上回る決算の見通しを示したにもかかわらず株価は下落するという反応になった。もちろん、一時的な株価下落で、今後、株価が再び最高値を更新する動きになるかもしれない。ただ、今回の決算発表を「材料出尽くし」ととらえて、利益確定の売りを急ぐ投資家が少なくなかったことが株価の下落には表れている。「時代の象徴」ともいえるエヌビディアですら、「市場の期待を超える業績をあげ続けるのは難しいのではないか(市場の期待は過大なのではないか)」と警戒されるような株価水準にあるということだろう。今年6月ごろから、米国株式市場では、企業の決算発表への株価の反応として「好決算にはさほど大きく反応しないものの、期待を下回る決算には株価が急落する」という悪材料に敏感な反応が目立つようになっている。 米国株式以外に投資対象を求めると、市場の規模や流動性、過去のパフォーマンス実績などで比較して、代替となるような市場をみつけるのは難しい。また、米国株式に高値警戒感が根強いとはいえ、株価がこれ以上は値上がりしないというわけでは決してない。割高に値上がりした株価には、業績等が期待値に届くほどに拡大することを待って次のステージに進めるため、当面は株価の足踏み状態が続くかもしれないということだ。 米国株価が足踏みするのであれば、その間に値上がりが期待される市場があるのであれば、そちらに資金の一部を移すことでトータルとしてのリターンを向上させることに役立つ。8月29日にイーストスプリング・インベストメンツが発行した「アジア株式の30年:成長と投資機会の旅」というタイトルのレポートは、分散投資先の1つとして「アジア株式」があることを示している。レポートによると、「過去30年間でアジア株式に投資し他資金は、その後平均で5倍以上のリターンを記録」、「配当収入はアジア株式のトータルリターン(配当を再投資したリターン)の大きな源泉であり、30年間のMSCI AC Asia ex Japan Indexのトータルリターンのうち60%以上を占める」という。 米国株のこれまでの主役が「成長株」で株価の値上がりというキャピタルゲインを狙った投資対象であったことに対し、アジア株式は、高い経済成長に伴う株価の値上がりというキャピタルゲインに加え、配当収入というインカムゲインをも狙えるという両面での魅力がある。異なる性格を持った株式であるという点がユニークだ。 加えて、レポートは、「2003年〜2013年の間は、貿易と国際資本移動により各国・地域の経済の相互連結性の高まりを背景に、(米国株式市場とアジア株式市場の)相関は緩やかに上昇したが、最近10年(2013年〜2023年)は、グローバル化の後退、地政学的緊張の高まり、成長軌道の相違などにより、相関は低下した」と指摘している。実際に、「MSCI AC Asia ex Japan Index」と「S&P500」の相関係数は、2003年〜2013年の10年間は0.8程度だったが、2013年〜2023年は0.65程度に低下している。1993年から2003年の10年間は相関係数が0.6程度であったため、現在はそれよりやや高い水準だが、明らかに2013年ころよりも低下している。 イーストスプリング・シンガポールのポートフォリオ・マネジャーであるSundeep Bihani氏は、「地政学リスクと規制、そして、新型コロナ後の経済活動再開の遅れなどがアジア企業の収益の重しとなり、過去10年間にわたりアジア株式市場のパフォーマンスは先進国のほとんどの株式市場を下回っている。その結果、アジア株式の現在のバリュエーション水準は、株価純資産倍率(PBR)と株価収益率(PER)の両方で非常に魅力的なレベルにある」としている。中間所得層の拡大、好ましい人口動態、技術革新の進展に支えられ、引き続き高い経済成長が期待できるアジア株式に、改めて注目したい。(グラフは、過去3年間の米S&P500とアジア株価指数の推移)
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