2024/09/13 17:57
米国は9月17日−18日に開催する米連邦公開市場委員会(FOMC)において5.25%〜5.50%という高い金利水準に据え置いてきた政策金利を引き下げるとみられている。この利下げ決定によって、米国のマーケット環境が大きく変わるとみられている。これまでは、高過ぎるといわれていた政策金利の水準にあってさえ、衰えなかった米国経済が減速してきたため、今後見通される金利の低下局面で活躍する銘柄群に活躍余地が広がると考えられている。米国の指数提供会社であるFTSE Russellは9月10日にオンラインセミナーを開催し、米国市場が2024年7月以降に大きな質的変化を起こしていることを明らかにした。「大型グロース優位の展開から、中小型バリューが活躍する市場に」というのが、足元の市場の動きから読み取れる傾向だという。
既に欧州中央銀行(ECB)は6月に続いて9月12日に0.25%の追加利下げを実施し、政策金利を3.50%にしている。米国の利下げ幅については0.25%、または、0.50%と見方が分かれているが、少なくとも年内に一段と政策金利の引き下げに動くという見方が有力だ。米国が欧州に比べて利下げのタイミングが遅いのは、米国経済が底堅く、利上げによって抑えているインフレ(物価上昇)が利下げによって再燃しかねないという恐れがあったためだ。インフレ率の水準は2022年にピークアウトし、昨年来の動きは「年2%程度」という目標水準に向けて落ち着いた動きになっている。
ところが、米国の期待成長率が高止まりし、期待インフレ率も2024年年初からはやや上向きの傾向を示す状態になり、米FRBは利下げ決定の決断を先送りすることになっていた。ただ、労働市場も失業率や賃金上昇率などが落ち着いた動きになってきたこともあって、いよいよ利下げへの政策転換を決定する動きになった。ここで重要なポイントは、今回の利下げが米国が不景気になって景気浮揚のために行う利下げではなく、米国経済が依然として好調な中で、「実体経済に対して過度に高い水準に維持してきた政策金利の水準を適正な水準に調整する」という目的による利下げだということだ。
FTSE Russellは、米国株式の代表的な指数として4つの指数がある。大型株指数である「ラッセル1000」と中小型株指数である「ラッセル2000」。そして、大型株、中小型株それぞれに成長株グループの「グロース」と割安株を中心にした「バリュー」がある。
4つの代表的な指数の上位構成銘柄(2024年8月末)をみると、大型成長株の「ラッセル1000グロース」は、アップル(組入比率:12.4%)、マイクロソフト(11.5%)、エヌビディア(10.6%)、アマゾン(6.2%)、メタ(4.2%)となっている。2023年から2024年前半までをリードしてきた「マグニフィセント・セブン(M7)」銘柄が上位にあり、米国を代表する株価指数「S&P500」の上位銘柄と似ている。大型割安株の「ラッセル1000バリュー」は、金融やエネルギーなどが多く、バークシャー・ハザウェイ(3.5%)、JPモルガン・チェース(2.6%)、エクソン・モービル(2.1%)、ユナイテッドヘルス(2.0%)、ジョンソン&ジョンソン(1.6%)となっている。組入トップ5でも組入比率は2〜3%程度と、グロースに比べると集中度合いが小さい。
一方、中小型成長株の「ラッセル2000グロース」は、FTAI Aviation(1.0%)、インスメッド(0.9%)、スプラウツ・ファーマーズ(0.8%)、Fabrinet(0.7%)、Vaxcyte(0.7%)となり、大型株グロースではほぼテクノロジー株式が上位を独占していることと比較して、資本財やヘルスケア、生活必需品などの業種が入っている。そして、中小型割安株「ラッセル2000バリュー」は、Southstate(0.6%)、Meritage Homes(0.5%)、Taylor Morrison Home(0.5%)、Jackson Financial(0.5%)、Essent Group(0.5%)となり、金融や一般消費財の企業が並ぶ。
4つの指数の組み入れ上位銘柄の顔ぶれだけみても、それぞれの指数の性格の違いは見て取れるが、過去の市場において、この4つの指標は特徴的な値動きをしてきた。たとえば、2024年1月〜6月と7月〜8月を比較すると、6月までは大型株「ラッセル1000」が優位だったものが、7月以降は中小型株「ラッセル2000」が優位な状態に逆転し、スタイル別でも6月までは「グロース」が優位だったが、7月以降は「バリュー」が優位になっている。日々ベースで4つの指数を追うと、7月11日までは大型成長株の「ラッセル1000グロース」が優位な展開だったが、7月16日以降は中小型割安株の「ラッセル2000バリュー」が優位に転換したという。
FTSE Russellによると、長期金利が上昇する局面では大型株の「ラッセル1000」指数が優位だが、長期金利の下降局面では中小型株「ラッセル2000」が優位になる傾向があるという。ところが、今年6月〜7月は長期金利が低下する局面であったにもかかわらず大型株「ラッセル1000」が強い状態が継続していた。これは、金利状況よりもAI関連企業への成長期待が大きくエヌビディアなどの株価が上昇した影響が大きかった。その過去のトレンドからかい離した動きが7月中旬以降に一気に解消されて中小型割安株の「ラッセル2000バリュー」が優位になった。
今後、米国が利下げに動き、さらに、年内にも利下げが継続するような動きになるのであれば、中小型割安株の「ラッセル2000バリュー」が堅調に推移すると見通される。
また、FTSE Russellは指数の運用について、コーポレートアクション(配当や株式分割など)は日々の変化を取り入れ、IPO(新規上場)は四半期ごとに反映し、株式の流動性に問題のない場合は指数構成銘柄に採用するという方針をとっている。「1000」と「2000」、「グロース」と「バリュー」の見直しは毎年4月末のデータに基づいて見直し、6月に銘柄入れ替えを実施している。このIPOが2022年以降に金利引き上げや高止まりのため低調な状態が続いてきたが、米国に利下げ機運が高まるとともに、活発化する兆しがある。足元では「ラッセル2000」でIPO銘柄を指数に採用する動きが強まっている。IPOの活発化ということの面からも中小型株指数である「ラッセル2000」が注目されるタイミングになっている。
米国株式への投資は現在、「S&P500」に連動するインデックスファンドに人気が高いが、「S&P500」は米国大型ハイテク株の影響が強いという指摘があった。当然、米国の株式市場は大型ハイテク株ばかりではない。ただ、2020年3月のコロナ・パンデミックからの回復過程においては、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の進展が社会を変えるという見方が強まり、米国テクノロジー企業への注目度が急速に高まった。結果的に、「S&P500」や「NASDAQ100」といった株価指数に連動するインデックスファンドのパフォーマンスが優れたものになっていた。現在は、それら大型ハイテク株の株価が上昇し過ぎて割高になっているのではないかという反省がある。
「ラッセル」指数は1984年に始まり、既に40年の歴史がある指数だ。ここ数年は「ラッセル1000グロース」が際立って高いパフォーマンスをあげてきた。これは「S&P500」のパフォーマンスに重なる。ただ、過去40年は常に「ラッセル1000グロース」が優位だったわけではない。「ラッセル」の4つの指数は、その時々の経済環境によって「大型」、「中小型」、そして、「グロース」、「バリュー」がそれぞれに活躍する局面がある。米国株式を見る時に「S&P500」だけを見るのではなく、「ラッセル」の4つの指数をみると、「S&P500」だけではない投資機会が見えやすくなるのかもしれない。
今、「S&P500」は割高という警戒感があるが、中小型割安株の「ラッセル2000バリュー」には投資機会があるという。9月12日に新規設定された「フィデリティ・マゼラン・米国成長株ファンド」のようなアクティブファンドも合わせて、様々な米国株への投資機会を考えるようにしたい。(イメージ写真提供:123RF)