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2024/09/20 18:00
日本証券業協会が9月18日に発表した「NISA口座の開設・利用状況」によると、2024年6月末時点でNISA口座の総数は2428万口座。1月〜6月の半年で303万口座増加した。増加口座数は1月〜3月の198万口座と比較すると、4月〜6月は105万口座と増加数は鈍っているが、昨年同時期(2023年4月〜6月)の68万口座と比較すると1.5倍の増加ペースであり、「新NISA」が投資を始めるきっかけとして依然として効果を発揮していることがうかがえる。ただ、NISAの買付額のうち、「成長投資枠」が78%を占める。資産運用立国を掲げ、新NISAをスタートさせたことで、もっとも増加が期待されたのは「つみたて投資で資産形成を始める新規投資家」の増加だったろう。それは「つみたて投資枠」を使って投資を始めるイメージが強かった。「つみたて投資枠」の利用促進は、1つの課題として意識されるのではないだろうか。 「つみたて投資枠」の利用が進まない理由は、投資枠としての魅力が「成長投資枠」に比べて小さいからに他ならない。まず、名前の通り「つみたて投資」という投資手段でないと投資ができない。タイミングを計って、今日買って明日売るような自由な売買ができない。また、投資枠の年間限度額が「成長投資枠」より小さい。「成長投資枠」は年間240万円の非課税投資枠があるが、「つみたて投資枠」は年間120万円だ。さらに、「つみたて投資枠」で投資できる商品が極端に少ない。たとえば、「成長投資枠」では株式も投資対象であり、投資信託の対象銘柄数は1969本、ETF(上場投資信託)は325本になる。「つみたて投資枠」は投資信託だけ(ETF含む)が投資対象で、その投資信託も銘柄数は292本、ETFは8本で合計300本だ。 加えて、投資信託も「成長投資枠」は、「日本株&Jリート 好配当フォーカスファンド」、「まあるい未来共創ファンド cotocoto」、「ニッセイ欧州株式厳選ファンド リスクコントロールコース」、「SBI全世界高配当株式ファンド(年1回決算型)」など、最近の新しいトレンドを踏まえた新ファンドが次々と対象ファンドに加えられている。「つみたて投資枠」で最近加わったのは9月17日の「インデックスファンド225(日本株式)」で目新しさもなく、日経平均株価(225)連動のインデックスファンドなら既にいくつも対象ファンドになっている。 「つみたて投資枠」は「つみたてNISA」の後継として位置づけられ、対象商品も「つみたてNISA」の採用基準を踏襲している。すなわち、投資初心者でもわかりやすいようにインデックスファンドが中心の投資対象となり、そのインデックスも「指定インデックス」という決められたインデックスに限定されている。最初から「投資対象ファンドの数が多いと、投資家は選びづらい(選びづらいため、投資を実行しない)」と考えられた。商品の数が多いのは「悪い」という発想だった。さらに、投資対象ファンドは、運用コスト(信託報酬)の水準も決められた。 この信託報酬に上限を設けたことによって、「つみたて投資枠」の対象ファンドの平均手数料率は徐々に低下することになった。インデックスファンド中心という基本方針があり、さらに、そのインデックスも特定のものに「指定」されてしまっているので、商品の差別化は手数料率(信託報酬)くらいしかなく、信託報酬は低い方が支持されるためだ。「つみたてNISA」が開始された時点(2017年12月)に国内資産を対象とした指定インデックス投信の信託報酬の平均は0.264%だったが、2024年9月時点は0.241%になった。投資先を内外・海外とする指定インデックス投信は平均0.38%が0.32%になった。そもそも「つみたてNISA」の対象ファンドに選定される時点で信託報酬率は低い水準だったが、それが一段と低くなったのだ。 「つみたてNISA」(つみたて投資枠)対象商品の中には5兆円ファンドも生まれ、大型化する商品が多く出ることになった。NISAの対象商品だけではなく、投資信託全般にコストの低減化をめざす流れをつくり、その結果として、あまりにも数が多くなり過ぎた投資信託の数を減らそうという動きにもつながっている。ここまでは、現在の「つみたて投資枠」の商品規定の前向きな意義を見出すことも可能だ。 ただ、今後、新NISAの「つみたて投資枠」としての発展を考えるのであれば、今の窮屈な商品選定規定は、成長の阻害要因ともなってこよう。新NISAは非課税投資枠が1人あたり1800万円に拡大し、非課税期間も無期限になった。より長期の資産形成に役立てられる制度になった。無期限の制度になると、当然、今の限定的な商品の枠組みでは対応が不可能になる。たとえば、10年後にインドが米中と並ぶ経済大国となり、インドの株式や債券がより一般に流通するようになれば、「日経平均株価」や「S&P500」と同様に、インドの代表的な株価指数に連動するインデックスファンドの需要も高まるだろう。現在の指定インデックスには日本と米国以外の国のインデックスは存在しない。実際にインドに投資するファンドへのニーズは高まり、「成長投資枠」にはインド株式に投資するインデックスファンドもアクティブファンドもどんどん追加されている。「つみたて投資枠」はこのニーズの枠外にある。 新NISAは始まってわずか9カ月が経過しようとするところであり、すぐに制度改正という動きにはならないだろうが、新規口座開設の動きが鈍ってきているのも事実だ。また、「成長投資枠」の上限1200万円を使い切るのに、年間の限度額240万円を重ねても5年間が必要(それまで「つみたて投資枠」は急いで使わなくてもよい)ということも意識されよう。急いで「つみたて投資枠」を見直そうということにはならないだろうが、「つみたて投資枠」の対象商品規定は「つみたてNISA」が始まった2018年1月以来見直されてはいない。せっかくの制度をより有効に活用するような議論を期待したい。(イメージ写真提供:123RF)
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