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2024/09/27 17:54
9月27日に実施された自由民主党の総裁選で、石破茂氏が新総裁に選出された。今後は国会において内閣総理大臣に選任される見通しで、その指導力に注目が集まるところだが、現任の岸田文雄総理大臣が在任中に取り組んだ施策の1つが「資産運用立国」への挑戦だ。2024年1月にスタートした新NISAは、従来のNISA制度の枠を大幅に超えて、国民1人あたり1800万円の非課税投資枠を付与し、しかも、非課税期間は無制限としたことで生涯を通じて活用できる資産形成口座になった。2023年12月末時点のNISA口座(一般+つみたて)は2125万口座。これを2027年末時点で3400万口座へと増大をめざす。今年8月には、そのNISA口座拡大に重要な役割を担うと考えられる金融経済教育推進機構(J−FLEC)の活動もスタートした。 J−FLECは、中立的な立場から金融経済教育を広く提供していくことを目的に「金融サービスの提供及び利用環境の整備等に関する法律」に基づいて2024年4月に設立された認可法人。日本銀行を事務局とした金融広報中央委員会、全国銀行協会、日本証券業協会が発起人になって設立した。主な事業は、全国の企業や学校に対して出張授業を行う講師派遣、イベント・セミナー、そして、家計管理や資産運用等の金融経済全般に関する個別動産など。派遣する講師や相談員を務める「J−FLEC認定アドバイザー」の認定・公表も行う。 J−FLECは8月に本格稼働してから、まず、8月1日にホームページをリニューアルオープンし、8月14日にはさっそく講師派遣で使用する教材を公開した。この教材は、小学生低学年から、大学生用までの学校向け教材、そして、若手社会人、中堅社会人、ベテラン社会人を対象とした職域向け、さらには、60代以上のシニア層向けの一般向けと幅広い世代に向けた内容になっている。そして、8月23日には初めての大規模セミナーを対面とオンラインで開催した。 また、8月26日に出張授業(講師派遣)の申し込み受付を開始するとともに、J−FLEC認定アドバイザーの認定申請も受け付け開始した。10月には公式ホームページに認知アドバイザーのリストを公表し、順次更新する予定だ。 新NISAについては、2024年1月〜3月の3カ月間に198万口座が追加され、それは、2023年9月〜12月の3カ月間の90万口座の拡大と比較すると100万口座以上も口座数が伸びたことになる。ただ、4月〜6月の3カ月間での口座数の拡大は105万口座にとどまり、1月〜3月の伸び方と比較すると伸び率は緩やかになった。おそらく、新NISAのスタートを楽しみに待っていた人は、この半年程度の間に口座を開設してしまったということなのだろう。今後は、2023年時点の3カ月で90万人程度、あるいは、それ以前の年間で100〜240万人程度の増加ペースに戻ることも考えられる。 2024年1月〜6月で新たにNISA口座を開設した人は、日ごろから株価や為替の値動きに関心を持ち、資産運用や資産形成について自ら進んで情報を集めているような層に当たると考えられる。これからNISA口座の開設や資産形成を行っていくことが期待される層は、自ら進んで情報を集めようとはしない層になっていく。もちろん、依然として低金利が続く中で、物価が上がっている現状がきっかけになって、資産運用の必要性を自然と感じるようになる人もいるだろうし、学校等で積極的に始まっている金融経済教育がきっかけになって、社会人となってから給与振り込み口座を開設すると同時にNISA口座を開く人も出てくると期待される。ただ、そのような自然発生的に生まれる資産形成へのニーズを待っているだけでは、年間で200万人程度の増加にとどまると考えられ、2027年末までに3400万口座という目標には遠く及ばないだろう。 そのため、セミナーの開催や出前授業等で積極的に資産運用の重要性に気付いてもらえるように働きかけるのがJ−FLECの重要な役割になっている。しかし、J−FLECの取り組みには致命的な弱点がある。「具体的に何を買えばよいのか?」という切実な疑問に答えられないのだ。「中立的な立場」で相談に応じるという点から、当然ながら、特定の商品を推奨することはできない。これは、具体的なNISA対象商品を取り扱っている銀行や証券会社とは大きな違いだ。むしろ、実質的に投資未経験者を投資に踏み出させる役割を担えるのは、銀行や証券で投資商品を取り扱っている販売員でしかあり得ないのではないだろうか。 ネット証券やネット銀行がコンテンツを整えて、情報提供を行っても、それは、そもそも資産形成等に興味を持っている人でしかない。興味を持っていない人が、ネット証券の公式ホームページを訪れて、そこにあるコンテンツをわざわざ見に行くはずがないからだ。2024年1月〜6月にネット証券での口座開設が大きく進んだというのは、資産運用に興味を持ち、新NISAのスタートを待っていた人たちが動いたため、当然の動きだったといえる。わざわざネット証券で口座を開くことを希望した人たちは、その多くの人々がおおむね口座を開いて投資を開始してしまった。 これからNISA口座の開設を進めていく人たちは、「普通なら(日常の生活を当たり前に送っていたら)資産形成を始めることがなかった人たち」と言っても良い。これからが金融サービスを提供している銀行や証券会社、そして、商品を作っている資産運用会社の知恵と工夫が求められるステージだ。一時期、信用金庫で「くじ付き定期預金」が人気を集めたことがあった。定期預金金利が低下して定期預金の獲得が金利だけでは難しくなったときに、宝くじや懸賞金等を付加して定期預金の預入を促した。「株主優待」が株式投資のきっかけになっている例などもある。工夫して投資を始めるきっかけを提供するようにしたい。運用会社にとっては、投資に興味のない人にまで話題になるような商品が開発できれば一番良いのだろうが、そこまではできなくとも販売会社と協力することで「話題の商品」を作り出すことはできるかもしれない。 首相が変わっても動き出した「資産運用立国」への取り組みが後退することのないよう、金融業界は力を合わせてJ−FLECの取り組みを後押しし、各機関での工夫や努力もまた力をいれていきたい。
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