コラム

コスト、アクティブファンドのパフォーマンスは?新NISA「成長投資枠ファンド」を分析

2023-10-13

 投資信託協会は10月2日、2024年に始まる新しいNISA(少額投資非課税制度)の成長投資枠対象商品リスト(国内籍の投資信託、ETF及びREIT等)を更新した。6月21日に第1回目のリストが公表されて以降、7月10日、8月1日、9月1日に続く4回目の更新(対象商品の追加及び削除)となる。今回の更新により、対象商品としてリストアップされた国内籍の投資信託は1,682本となった。どのような投資信託がリストアップされているのか分析した。

アクティブの本数が7割超もパッシブに存在感

 リストアップされた国内籍の投資信託1,682本のうち、2023年9月末時点で運用している1,672本を対象に集計した。先ずアクティブ、パッシブ別の本数の比率を見ると、アクティブ73.9%(1,236本)、パッシブ26.1%(436本)となった。国内公募追加型株式投信全体(ETF等除く、以下、国内公募全体)はアクティブ82.0%、パッシブ18.0%であり、成長投資枠は国内公募全体よりもパッシブの比率が8ポイント強高い(図表1参照)。新NISAで「つみたて投資枠」の対象商品となる「つみたてNISA採用ファンド」(ETF除く)は9月末時点でパッシブファンドを中心に245本あるが、うち9割超の227本が成長投資枠対象商品でもある。つみたて投資枠のファンドは成長投資枠でも購入可能であるため、つみたて投資枠、成長投資枠の両枠に重複してもおかしくはない。成長投資枠の7割以上をアクティブが占めてはいるが、長期・分散・積立による資産運用のコアとしてパッシブファンドの存在感が高まっていることが窺える。

 また、本数を運用会社別に見ると、トップは三菱UFJアセットマネジメントで157本。うちパッシブファンドの本数は「eMAXISシリーズ」など94本で約6割(59.9%)に達し、本数上位10社の中でパッシブの比率が最も高くなった。本数上位10社の中では、三井住友トラスト・アセットマネジメント、SBIアセットマネジメントもパッシブ比率が高く、順に49.1%、45.5%と約半分を占めている。

図表1:成長投資枠ファンドのアクティブ、パッシブ別の本数比率

図表1:成長投資枠ファンドのアクティブ、パッシブ別の本数比率

※成長投資枠:投資信託協会10月2日公表の国内籍投資信託1,682本のうち、2023年9月末時点で運用中の1,672本が対象
※国内公募全体:国内公募追加型株式投信(ETF等除く)
※アクティブ、パッシブの区分は投資信託協会の区分に基づく(以下同じ)
※2023年9月末時点
出所:ウエルスアドバイザー作成

決算回数は「年1回」が約7割、直近で「隔月」が急増

 成長投資枠集計対象1,672本の決算回数別の本数比率を見ると、年1回69.5%、年2回19.6%、四半期6.8%、隔月4.1%となった。国内公募全体は順に55.9%、18.1%、3.8%、2.2%となっており、いずれも成長投資枠の比率が上回っている(図表2参照)。成長投資枠では毎月決算型が除外されるので、その分、国内公募全体よりも他の決算回数の比率が上回ったが、中でも、年1回は13.6ポイントと大幅に上回っている。運用会社が「資産形成用のファンド」である点を考慮したと見られる。

 なお、10月2日更新分(10月以降の運用開始分を含めた国内籍投資信託1,682本)について、9月1日更新分からの本数の増加率を見ると、年1回3.5%、年2回1.8%、四半期2.7%に対して、隔月が33.3%と一際高くなった。本数の少なさ(9月1日の54本から10月2日は72本)によるところもあるが、残高の大きな毎月決算型ファンドで隔月決算型を新設する動きの結果でもある。主なファンドでは、「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Eコース隔月決算型(為替ヘッジなし)予想分配金提示型」(10月3日運用開始)、「ピクテ・グローバル・インカム株式ファンド(隔月分配型)」(9月29日運用開始)、「インベスコ 世界厳選株式オープン<為替ヘッジなし>(奇数月決算型)」(9月22日運用開始)などがある。成長投資枠対象であると同時に、定期的な資金需要を求める投資家のニーズを満たすファンドとして、残高の大きな毎月決算型ファンドで隔月決算型を新設する動きは今後も続きそうだ。

図表2:成長投資枠ファンドの決算回数別の本数比率

図表2:成長投資枠ファンドの決算回数別の本数比率

※成長投資枠:投資信託協会10月2日公表の国内籍投資信託1,682本のうち、2023年9月末時点で運用中の1,672本が対象
※国内公募全体:国内公募追加型株式投信(ETF等除く)
※2023年9月末時点
出所:ウエルスアドバイザー作成

アクティブ、パッシブともに低コストファンドの比率高い

 コスト水準はどうだろうか。成長投資枠の集計対象1,672本のうち、コスト水準を測る指標であるフィーレベルが付与されている1,582本(アクティブ1,187本、パッシブ395本)について、アクティブ、パッシブ別にフィーレベル別の本数比率を算出し、国内公募投信全体のフィーレベル付与全ファンド(以下、全ファンド)の比率と比較した。アクティブでは、コスト水準が最も低い「安い」が25.7%、「平均より安い」が25.4%となり、全ファンドをそれぞれ4.9ポイント、4.5ポイント上回った。一方、「平均的」、「平均より高い」、及び最も高コストの「高い」は下回り、中でも「高い」は13.3%で全ファンドを5.9ポイント下回った。パッシブでも成長投資枠の「安い」、「平均より安い」、「平均的」の比率が全ファンドの比率を上回り、「平均より高い」、「高い」は下回った。成長投資枠では、アクティブ、パッシブともに低コストファンドの比率が高い(図表3参照)。

図表3:コスト水準別の本数比率

図表3:コスト水準別の本数比率

※フィーレベル別に本数の比率を集計
※成長投資枠:成長投資枠の集計対象1,672本のうち、フィーレベルが付与されている1,582本が対象
※全ファンド:国内公募追加型株式投信のうちフィーレベルが付与されているファンド
※2023年9月末時点
出所:ウエルスアドバイザー作成

アクティブファンドの運用成績は?

 新NISAでは制度が恒久化し、非課税保有期間が無期限化したことから、市場平均を上回るリターンの獲得を狙うアクティブファンドへの投資により、非課税メリットをより多く享受できる可能性がある。そこで気になるのが、成長投資枠のアクティブファンドの運用成績だ。

 9月末時点で運用している成長投資枠のアクティブファンド1,236本のうち、国内大型株式、先進国株式、米国株式、新興国株式に投資するファンドについて、同月末時点の過去1年間、3年間(年率)、5年間(年率)、10年間(年率)のトータルリターンが同期間の市場平均を上回った本数の割合を算出した。結果は、国内株式が善戦したものの、いずれも全期間で市場平均を超過するファンドの割合が50%に届かなかった。特に、先進国株式ファンドでの勝率の低さが際立ち、5年間(年率)では全ファンドが劣後した(図表4参照)。市場平均を上回るパフォーマンスを獲得できないのであれば、パッシブファンドよりもリスクの高いアクティブファンドを選択する必要性はない。アクティブファンドの選択には念には念を入れて臨みたい。運用会社にはパフォーマンス向上に向けた取り組みが求められる。

図表4:成長投資枠アクティブファンドの勝率

投資先 1年 3年(年率) 5年(年率) 10年(年率)
国内大型株式 44% 48% 46% 46%
先進国株式 20% 19% 0% 11%
米国株式 32% 12% 11% 20%
新興国株式 19% 40% 21% 21%

※成長投資枠のアクティブファンドのうち、以下カテゴリーに属するファンドを集計
 国内大型株式:「国内大型バリュー」、「国内大型ブレンド」、「国内大型グロース」
 先進国株式:「国際株式・グローバル・除く日本(為替ヘッジなし)」
 米国株式:「国際株式・北米(為替ヘッジなし)」
 新興国株式:「国際株式・エマージング・複数国(為替ヘッジなし)」
※市場平均は以下を使用
 国内大型株式:「TOPIX(配当込み)」
 先進国株式:「MSCIコクサイ(除く日本)(配当込、円ベース)」
 米国株式:「S&P500(配当込、円ベース)」
 新興国株式:「MSCIエマージング・マーケット・インデックス(配当込、円ベース)」
※2023年9月末時点
出所:ウエルスアドバイザー作成

 成長投資枠対象商品リストは、今後、11月1日、12月1日、12月19日に更新される予定だ。どのようなファンドが追加(もしくは削除)されるか注目したい。

 なお、ウエルスアドバイザーのホームページでは、新NISA成長投資枠ファンドについて検索ページを設けている(※)。ファンドレーティングやカテゴリー別等でのファンド選別のほか、最大5ファンドまで過去のパフォーマンス等を比較することが可能だ。ファンド選択のツールとして役立てて頂きたい。

 ※新NISA成長投資枠対象からファンドを選ぶ
https://www.wealthadvisor.co.jp/fund/nisa/index.html

(武石 謙作)

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