トランプ大統領で中央銀行の政策連携の変化を注視=ルーミス・セイレスのダニエル・ファス氏に聞く

 債券運用で長期にわたって優れた成績を残している米ルーミス・セイレス社の副会長でグローバル投資コミッティー会長のダニエル・J.ファス氏は、予想外の結果となった米大統領選挙を受け、「従来以上に慎重な姿勢をとって、状況の変化を見極めたい」と語った。特に、米FRB、日銀、欧ECBなど各国中央銀行の政策協調が重要な意味を持つ環境の中で、「米国政府の政策に、どれほどの国が理解を示すのか? また、その政府間関係を横目に見て、中央銀行は協調体制を維持できるのか? 当面の市場を見通すうえで、トランプ新政権に対する各国政府の反応がポイントになる」とした。

 ファス氏が、シニア・ポートフォリオ・マネージャーとして運用する2つの代表的なファンド「ルーミス・セイレス・ボンド・ファンド」(1991年設定、米MSレーティング★★★、Gold、10月末基準)と「ルーミス・セイレス・ストラテジック・インカム・ファンド」(95年設定、★★★、Silver)は、ともに20年以上の長期にわたって安定的にベンチマークを上回る成績を残している。

 「ボンド・ファンド」は、「ストラテジック・インカム・ファンド」より、短期債券やキャッシュ比率が高いなど、幾分慎重な運用姿勢をとり、残高が約150億ドルになる。「ストラテジック・インカム・ファンド」は残高が120億ドル弱だが、日本の投資家向けには現在4億ドルの外国籍投信があり、アセットマネジメントOneが設定・運用する「インカムビルダー」シリーズの実質的な投資対象になっている。

 両ファンドの運用方針は共通し、市場でより魅力的な銘柄を選定し、市場平均を上回るリターンをめざしている。16年11月現在で、米国債利回りが年1.5%、投資適格社債利回りが年3.5%程度であるところ、「ボンド・ファンド」のポートフォリオ利回りは年4%程度、本邦向け外国籍「ストラテジック・インカム・ファンド」は年6%弱程度。現在は、「米国金利が緩やかに上昇していくことを前提に2−9年の中期債券を中心に投資し」、信用リスクは慎重にみたポートフォリオにしている。

 また、米国の旗艦ファンドが長期で好成績を上げているポイントについて、ファス氏は、「重要なのは、(1)イールドに着目すること(2)今後改善していく資産に集中すること(3)中途償還のリスクなどにも注意し、銘柄も厳選すること(4)売買の回転率を抑えること」と語っている。特に、銘柄選定は、単なる発行体の調査だけでなく、銘柄毎に異なる特性、償還条項、コベナンツなどにも注意し、幅広く情報を集めることが重要で、ルーミスはこうしたことに長けた優秀なトレーディングデスクを持っていると強調した。

 そして、多くの債券ファンドが100−200%といった回転率になっていることと比較し、旗艦ファンドは25%程度に抑え、優良な銘柄を長く保有し、取引コストも軽減している。さらに、これらを支えるルーミスの運用プロフェッショナルは、どの部門でもベテランを多く配していると語った。

 トランプ大統領の決定を受け、「当面、よりディフェンシブなポートフォリオを志向する」とした。現オバマ政権は、在任中にもTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)法案の成立に動くと見られていたがこれも難しく、この行方も見極めたいという。

 そして、「トランプ氏の勝利はメーンシナリオではなかったが、現実となったからには、その状況に適応することが大事だ」としている。「緩やかな利上げが見通されていた米金融政策に変更が加わると、これまで資金が集中していた米ドルから資金が流出することも考えられる。また、中国人民元は、10月から準備通貨に採用され、本来であれば中国中央銀行も先進各国の中央銀行との一層の協調が求められるが、南シナ問題で緊張感が高まる中で、トランプ政権がどのような対中政策を打ち出すのかも注視したい」と語った。

 当然、難民問題が政治問題化している欧州各国と、米新政権がどのように向き合うかも重要なポイントだ。そして、中央銀行の協調が揺らぐような場面では、「東南アジア各国と緊密なスワップラインを持っている日銀の対応が重要な意味を持つようになる」と語った。

 最後にファス氏は、「1958年から債券運用に携わり、さまざまな環境を経験してきたが、もっとも良い買いタイミングは、誰もが買いたくない時だ。最近では、2015年後半から2016年の年初が大きなポイントだった。トランプ大統領の誕生は、市場を大きく変える出来事だといえるが、市場が変化し、大きく動く中からも、引き続き魅力的な銘柄を選び抜き、中・長期的に優れたパフォーマンスが出せるポートフォリオを維持していきたい」と語った。
提供:モーニングスター社
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